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拝啓、お母さん。
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フェウが炎魔法を、自分の意図で使役した。
昨日は、くしゃみをしたと思えば場違いで膨大な炎魔法をぶっ放してしまったフェウが、だ。
「……がぅー」
首を傾げて不思議そうにしているフェウ。
「フェウ、炎魔法の使い手だったのか……!」
フェウは、ぼくの魔法を追うようにして炎魔法を使った。
あれこれ考えるのはこの際後でいい。
「ブモオオオオ!!」
辺りの木々をなぎ倒すことを一つも厭うことなく真っ直ぐこっちだけを見据えている。
本当、何が奴をここまで駆り立てるんだろうね!?
正直、魔猪に炎魔法は相性もイマイチなんだけど――!
「おばちゃん、ゴブリン車を元の道に戻すことは出来ますか!?」
ぼくは思いっきり叫んだ。
「……策はあるのかい!?」
策はある。だけど、大博打だ。
「もし、売り物が全部壊れちゃったら、一生掛かっても弁償します!」
「っかっかっか! そんな頃にはおばちゃん達もまとめてあの世行きさね。言ったろう。護衛はレアルに任せた――ってね。聞いたかい、アンタ達!」
おばちゃんはすぅっと息を吸い、檄を入れた。
「気ぃ引き締めて行くよ! 全速旋回!!」
ガガガがガガガガッッ!!
ゴブリン車を90度ドリフトさせるようにして、強引な旋回を試みるおばちゃん。
「わっふー!」
「そんな楽しいモノじゃないよフェウ!? ……フェウ! 真っ直ぐ、あれを見て!」
旋回したゴブリン車が一気に林道から表道に出れば、巨大な魔猪もぼくの予想通りに表道へと飛び出てくる。
「……一発だ」
確実に仕留める。
でなければ、ここにいる皆まとめて死んでしまう。
「フェウ」
「う゛ぁっふ?」
純真無垢な瞳でぼくを見るフェウの視線を、魔猪に移す。
――あんな化け物、ぼく一人じゃとてもじゃないけど倒せない。
きっと魔法が当たったとしても、あの牙で跳ね返されれば空気と一緒に散っていくだろう。
それでも。
「炎魔法、炎球」
最もシンプルで、ぼくが出せる限りの魔法力を注いだ。
手の平大までになった炎の球は、ゆらり、ゆらりと魔猪に向かっていく。
「ブモンッ!!」
魔猪が難なくそれを跳ね返そうとした、その瞬間だった。
「今だフェウ!」
「ぱうわっ!!」
ぼくが指示した瞬間に、フェウはぼくの火球を追いかけるようにして口から巨大な炎を出した。
最短で、一直線に魔猪に向かっていくその炎は――。
「ブモォォォォォォォォォッ!?」
魔猪の体長を遙かに凌ぐ大質量の炎だった。
跳ね返すことも出来ない。飲み込まれるしかない魔猪に、ぼくまでもが息を呑んだ。
――拝啓、フェンリルのお母さん。
「う゛ぁふ」
――この子、ぼくがいなくても勝手に最強になっていくと思うんですが……。
目の前の草むらは、真っ黒だった。
こんがり焼けた魔猪がぷすぷすと煙を上げて立ち尽くしていた。
フェウは、ぺろぺろと自分の足に舌なめずりをしていた。
ぼくは、苦笑いを浮かべることしか出来ずにいたのだった。
昨日は、くしゃみをしたと思えば場違いで膨大な炎魔法をぶっ放してしまったフェウが、だ。
「……がぅー」
首を傾げて不思議そうにしているフェウ。
「フェウ、炎魔法の使い手だったのか……!」
フェウは、ぼくの魔法を追うようにして炎魔法を使った。
あれこれ考えるのはこの際後でいい。
「ブモオオオオ!!」
辺りの木々をなぎ倒すことを一つも厭うことなく真っ直ぐこっちだけを見据えている。
本当、何が奴をここまで駆り立てるんだろうね!?
正直、魔猪に炎魔法は相性もイマイチなんだけど――!
「おばちゃん、ゴブリン車を元の道に戻すことは出来ますか!?」
ぼくは思いっきり叫んだ。
「……策はあるのかい!?」
策はある。だけど、大博打だ。
「もし、売り物が全部壊れちゃったら、一生掛かっても弁償します!」
「っかっかっか! そんな頃にはおばちゃん達もまとめてあの世行きさね。言ったろう。護衛はレアルに任せた――ってね。聞いたかい、アンタ達!」
おばちゃんはすぅっと息を吸い、檄を入れた。
「気ぃ引き締めて行くよ! 全速旋回!!」
ガガガがガガガガッッ!!
ゴブリン車を90度ドリフトさせるようにして、強引な旋回を試みるおばちゃん。
「わっふー!」
「そんな楽しいモノじゃないよフェウ!? ……フェウ! 真っ直ぐ、あれを見て!」
旋回したゴブリン車が一気に林道から表道に出れば、巨大な魔猪もぼくの予想通りに表道へと飛び出てくる。
「……一発だ」
確実に仕留める。
でなければ、ここにいる皆まとめて死んでしまう。
「フェウ」
「う゛ぁっふ?」
純真無垢な瞳でぼくを見るフェウの視線を、魔猪に移す。
――あんな化け物、ぼく一人じゃとてもじゃないけど倒せない。
きっと魔法が当たったとしても、あの牙で跳ね返されれば空気と一緒に散っていくだろう。
それでも。
「炎魔法、炎球」
最もシンプルで、ぼくが出せる限りの魔法力を注いだ。
手の平大までになった炎の球は、ゆらり、ゆらりと魔猪に向かっていく。
「ブモンッ!!」
魔猪が難なくそれを跳ね返そうとした、その瞬間だった。
「今だフェウ!」
「ぱうわっ!!」
ぼくが指示した瞬間に、フェウはぼくの火球を追いかけるようにして口から巨大な炎を出した。
最短で、一直線に魔猪に向かっていくその炎は――。
「ブモォォォォォォォォォッ!?」
魔猪の体長を遙かに凌ぐ大質量の炎だった。
跳ね返すことも出来ない。飲み込まれるしかない魔猪に、ぼくまでもが息を呑んだ。
――拝啓、フェンリルのお母さん。
「う゛ぁふ」
――この子、ぼくがいなくても勝手に最強になっていくと思うんですが……。
目の前の草むらは、真っ黒だった。
こんがり焼けた魔猪がぷすぷすと煙を上げて立ち尽くしていた。
フェウは、ぺろぺろと自分の足に舌なめずりをしていた。
ぼくは、苦笑いを浮かべることしか出来ずにいたのだった。
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