上 下
18 / 39

拝啓、お母さん。

しおりを挟む
 フェウが炎魔法を、自分の意図で使役した。
 昨日は、くしゃみをしたと思えば場違いで膨大な炎魔法をぶっ放してしまったフェウが、だ。

「……がぅー」

 首を傾げて不思議そうにしているフェウ。

「フェウ、炎魔法の使い手だったのか……!」

 フェウは、ぼくの魔法を追うようにして炎魔法を使った。
 あれこれ考えるのはこの際後でいい。

「ブモオオオオ!!」

 辺りの木々をなぎ倒すことを一つも厭うことなく真っ直ぐこっちだけを見据えている。
 本当、何が奴をここまで駆り立てるんだろうね!?
 正直、魔猪マジックボアに炎魔法は相性もイマイチなんだけど――!

「おばちゃん、ゴブリン車を元の道に戻すことは出来ますか!?」

 ぼくは思いっきり叫んだ。

「……策はあるのかい!?」

 策はある。だけど、大博打だ。

「もし、売り物が全部壊れちゃったら、一生掛かっても弁償します!」

「っかっかっか! そんな頃にはおばちゃん達もまとめてあの世行きさね。言ったろう。護衛はレアルに任せた――ってね。聞いたかい、アンタ達!」

 おばちゃんはすぅっと息を吸い、檄を入れた。

「気ぃ引き締めて行くよ! 全速旋回!!」

 ガガガがガガガガッッ!!

 ゴブリン車を90度ドリフトさせるようにして、強引な旋回を試みるおばちゃん。

「わっふー!」
「そんな楽しいモノじゃないよフェウ!? ……フェウ! 真っ直ぐ、あれを見て!」

 旋回したゴブリン車が一気に林道から表道に出れば、巨大な魔猪もぼくの予想通りに表道へと飛び出てくる。

「……一発だ」

 確実に仕留める。
 でなければ、ここにいる皆まとめて死んでしまう。

「フェウ」

「う゛ぁっふ?」

 純真無垢な瞳でぼくを見るフェウの視線を、魔猪に移す。

 ――あんな化け物、ぼく一人じゃとてもじゃないけど倒せない。
 きっと魔法が当たったとしても、あの牙で跳ね返されれば空気と一緒に散っていくだろう。

 それでも。

「炎魔法、炎球ファイヤボール

 最もシンプルで、ぼくが出せる限りの魔法力を注いだ。
 手の平大までになった炎の球は、ゆらり、ゆらりと魔猪に向かっていく。

「ブモンッ!!」

 魔猪が難なくそれを跳ね返そうとした、その瞬間だった。

「今だフェウ!」

「ぱうわっ!!」

 ぼくが指示した瞬間に、フェウはぼくの火球を追いかけるようにして口から巨大な炎を出した。
 最短で、一直線に魔猪に向かっていくその炎は――。

「ブモォォォォォォォォォッ!?」

 魔猪の体長を遙かに凌ぐ大質量の炎だった。
 跳ね返すことも出来ない。飲み込まれるしかない魔猪に、ぼくまでもが息を呑んだ。

 ――拝啓、フェンリルのお母さん。

「う゛ぁふ」

 ――この子、ぼくがいなくても勝手に最強になっていくと思うんですが……。

 目の前の草むらは、真っ黒だった。
 こんがり焼けた魔猪がぷすぷすと煙を上げて立ち尽くしていた。
 フェウは、ぺろぺろと自分の足に舌なめずりをしていた。
 ぼくは、苦笑いを浮かべることしか出来ずにいたのだった。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...