上 下
15 / 39

都へ!

しおりを挟む
「都に、ですか?」

「えぇ。レアルが取ってきてくれた白角兎、状態も良いしこれなら都の方でも相当高値がつくだろうからねぇ。民泊ギルド依頼の定期納品申請もしなくちゃいけないから、良かったらあなたも来てくれないかしら?」

 次の日の朝。
 ぼくとフェウが昨夜の薪の後片付けをしていると、民泊ギルドのおばちゃんがやって来た。

「もちろん、これは私からの正式な依頼だよ。要は、都へ行くまでの護衛をアンタ方に頼みたいのさ。ここの地図で、今この場所はコロット村。表のギルドがここ、ガルラット森林前の支部ギルド『ガルラード』」

 縦に長い地形をしているガルラット森の裏と表をそれぞれ指で示したおばちゃん。
 確か、国の支部ギルドが出来てからこの森の周辺は栄え始めたっていうのは、ぼくも聞いたことがある。
 実際にぼくがこの初心者の地とも呼ばれるこの地を冒険者としての出発地点に定めたのも、万能魔法でそんなに力が出せないからという情けない理由でもある。

「そして、ここがこの国の支部ギルド7つをまとめ上げる中央ギルド――『デスペラード』。と言っても、お貴族様のペットのお世話とか排水溝付近の汚い動物処理だとか、小さな任務しか宛がわれないからって支部ギルドの方を好む冒険者も多いみたいだけどね」

 そう言っておばちゃんが指さしたのはここ、ガルラット森林から歩いておおよそ3~4日ほどかかる平野帯だ。
 ぼく達の住むこの国、サルディア皇国の中央皇都は地方からの物資流入と交流もずいぶん盛んだと聞いている。
 それに、新しく皇国の王様になった幼い女王様と出来る側近さんのおかげで、国力もどんどん上がっているらしい。

 ……ハルトたちのパーティーにいて良かったのは、こうしたお国情勢がなんとなく勉強出来たことかもしれない。
 今までは野宿とその日暮らし生活で頭の中もいっぱいいっぱいだったからなぁ。

「……と、いうわけだよレアル。見た所アンタも、都とは縁遠い生活してそうだったし、道中の護衛でも頼まれてくれやしないかい? そこのワンちゃんも一緒でいいからね」

「願ったり叶ったりです! ぼくも、都に行ってみたいですし……! フェウも、もしかしたらお母さんのことについて何か分かるかもしれないよ」

「わふっ!!」

「それじゃ、決定だね。身支度だけ済ましたら後はさっさと行ってしまおうじゃないかい」

 ぱんっと手を叩いたおばちゃん。
 本当に、何から何までおばちゃんにお世話になりすぎている気もする。
 その分はきっちり護衛して返せればいいんだけど……。

「そうと決まれば……出るよ! アンタ達!!」

 おばちゃんがぽぅっと手の平に紫色の魔力を作り上げた。
 右手を天に掲げると、紫色の魔力は小さな球となって各地へと飛んでいく。
 すると、間髪入れずに物陰から複数の小人の影が姿を現した。

「イギー!」「ゲギャギャギャッ!!」「ボゥオォォォォォォ!!!」「ゲギャーーーーーッ!!」

「ご、ゴブリン!?」

「がるるるる……!」

 現れたのは、緑色の醜顔と痩せ細り気味の小さな身体。
 普段は冒険者から奪った短剣や弓を器用に使って冒険者を苦しめる厄介な魔物だ。

 ぼくとフェウは咄嗟に戦闘態勢に入ったが、出てきた小人――ゴブリンたちが手に持っていたものに、ぼく達は唖然としていた。

「馬車の鍵、シート、それに食糧籠に冷蔵魔法庫……?」

 せっせと完全に旅支度をととのえはじめたゴブリン達。
 あっと言う間に目の前には馬車と屋形が整備される。

「忘れたのかい? 私の職業は獣使いテイマーさね。いつもテイムしたゴブリン達に手伝ってもらってるんだよ。……ってことで、行くさねサンドラチームのゴブリン愚連隊ぐれんたい! しゃかりき働いてもらうよッ!!」

『グギーーーーーーーッ!!!』

 おばちゃんの力強い号令に、ゴブリン達は怒号のように応答した。

「……わふぅぅぅ……」

 ぷるぷると警戒を解かずにぼくの後ろにそっと隠れるフェウがとても可愛らしかった。
しおりを挟む

処理中です...