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第21話 転生エルフ(102)、指南する。
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「リース様、三時の方向に魔獣の群れを確認しました。数は……5、D級が4、A級が1です!」
大円森林ヴァステラを駆ける俺とミノリ。
並走するミノリは、この2年の間に鍛え上げた鑑定魔法気配の察知を駆使して敵の位置を伝えてくる。
鑑定魔法は古代魔術でも比較的簡単な部類に入る魔法だ。
だが、それでも火属性魔法とは異系統。
それを2年である程度の完成度まで持ってきたのは、ひとえにミノリのセンスと努力の賜物だ。
「……分かった。A級の方、行けるか?」
「――任せてください!」
ミノリは嬉しそうに頷いた。
まだ姿を見せては無いが、俺の見立てではD級魔獣4体は雄蛇鳥。
蛇のような尻尾と鶏のような身体を持っており、食用としても広く愛されている魔獣だ。
対してA級は魔獣、魔肉熊だろう。
体長はおおよそ2メートル。
魔獣の肉を食べて成長することを特徴とするこの熊は、食べた魔獣の数に比例して強くなる。
今、俺の鑑定魔法で視えている魔肉熊は、十数体ほどの魔獣を食べて魔力を増やした中堅と言ったところだ。
外皮は魔力を帯びて非常に硬くなっていることから、まずは疲弊させて魔力をすり減らしていくのが定石の戦法だ。
ククレ城塞管轄のギルドに素材を売れば1ヶ月くらいは遊んで暮らせるかな。
強個体には分類されないものの冒険者パーティーが総出で戦ってようやく倒せる魔獣だ。
とはいえ今のミノリならば1人で任せても充分倒せるだろうけど。
……懸念事項も一つあるが、それは後々に置いておくとして。
「クェーーッ!」「コッコッコッ」「クァーッ!」「コケケケケケケ!!」
ふと茂みの中から、4匹の雄蛇鶏が一斉に飛び出してきた。
皆、茂みの奥の何かから逃げ惑っている様子だ。
ドドドドド、と大きな足音を立ててミノリの横を雄蛇鶏たちが通り過ぎていく。
本来、戦う前ともなればそのヒトの殺気と相まって少しは魔力が漏れ出すものだ。
だが雄蛇鶏《コカトリス》は、ミノリが茂みの奥に放つ殺気に気付くこともなく彼女の横を走り抜けていった。
あんなに好戦的だったミノリが、魔力ロスを抑えられているのも感慨深いものがある。
風属性魔法、鎌鼬でスパッと4匹の頭を吹き飛ばす。
これで今日の夕飯の食材は豪華になったな。
さて、今回はこの後が本命だ。
「ヴァォォォォォォォォォォォッッ!!」
木々が倒れると同時に茂みの奥から真っ黒な巨体が姿を現した。
「魔肉熊……ッ!」
ミノリはすぐさま剣に魔力を注ぎ込む。
ゴゥッ。
濃縮された魔力を内包した剣に白い炎が宿る。
「ヴァォッッ! ヴァッ!! オォォォッ!!!」
魔肉熊《ワイルドベア》は魔力を込めた腕を大きく使ってミノリに向けて攻撃を振りかざす。
腕を振るたび大地が削れ、砂煙が立ち煙る。
1年前までのミノリならば自身が少し攻撃を食らってもお構いなしにと、それ以上の攻撃を繰り出して相手を沈めていた。
相手の攻撃を真正面から受けつつも、溜めに溜めた持ち前の巨大な魔力で、相手を粉砕するような大味な戦い方。
それがミノリの真骨頂だったからだ。
だが今は違う。
相手の魔力の流れから次の攻撃を読み取り、剣で受け止め、魔力で払い、反撃の体勢を冷静に整える。
今までのミノリの大味な戦い方に緻密な魔力操作が加われば、向かうところに敵はない。
大振りな腕薙ぎの連続で魔肉熊の体勢が崩れたのを見るや否や、ミノリは大地を強く蹴った。
2年前までは上級魔法の魔力付与が限界だったミノリは、現在超級魔法の魔力付与に取り組んでいる。
成功確率は未だ3割程度ではあるが――今の集中力なら問題ないだろうな。
「超級火属性魔法魔力付与ッ! 不死鳥の炎剣!」
ミノリの剣が極大の炎で白く光る。
バチバチと魔力の滾るその剣で、ミノリは魔肉熊に詰め寄り一気に剣を横薙いだ。
「オ……ヴァッ……」
小さな呻き声と共に、魔力で硬化した魔肉熊の上半身と下半身が綺麗に宙を舞う。
「……ッ、はぁ……ッ、はぁ……ッ」
シュゥゥゥゥ……、と。ミノリの剣から魔力が霧散していく。
ミノリと言えど、超級魔法を使うとなれば集中力、体力共にかなり摩耗してしまうらしい。
額から大量の汗を搔くミノリは、「リース様、超級魔法、成功しました……!」と無理やりな笑顔を俺に魅せる。
「お疲れさま、ミノリ。今日の出来具合は80点くらいかな。超級魔法も問題なし、魔肉熊クラスも撃沈できた。出来映えは充分だよ」
「……あ、ありがとう、ございます……えへへ……リース様に、褒められました……!」
「まぁ、少し惜しかったとするならば――」
がさりと、俺の後ろの茂みが揺れた。
「ボァァァァァァァァァァッッッ!!!!」
「も、もう一体の魔肉熊!? リース様――!」
ミノリは再び戦闘態勢を取ったが、それは現れた瞬間に膝を付いて地に伏した。
「心臓に、穴……?」
「超級風属性魔法、穿ち風。空気を圧縮した魔法の砲弾ってところだ」
俺の超級魔法で心臓もろともに吹き飛ばしたのだ。
「少し遠くからもう一体がこっちを観察していたことに気付けたら100点だったかな。でも、ミノリの鑑定魔法もずいぶんと精度が上がってきた。後はもっと体力をつけて、超級魔法を撃っても次の戦いがこなせるようになろう」
「――っ! はい!!」
ミノリは剣を納めて優しい笑顔を浮かべた。
人間の成長は早い。
2年前ですらあどけない表情が抜けていたのに、ミノリは今や強く可憐な大人の女性へと変貌を遂げていた。
2年の間でこんなにも出来ることが増えていくのがヒト族だったのだな、と。
エルフになって久しい感覚を俺は味わっていた。
大円森林ヴァステラを駆ける俺とミノリ。
並走するミノリは、この2年の間に鍛え上げた鑑定魔法気配の察知を駆使して敵の位置を伝えてくる。
鑑定魔法は古代魔術でも比較的簡単な部類に入る魔法だ。
だが、それでも火属性魔法とは異系統。
それを2年である程度の完成度まで持ってきたのは、ひとえにミノリのセンスと努力の賜物だ。
「……分かった。A級の方、行けるか?」
「――任せてください!」
ミノリは嬉しそうに頷いた。
まだ姿を見せては無いが、俺の見立てではD級魔獣4体は雄蛇鳥。
蛇のような尻尾と鶏のような身体を持っており、食用としても広く愛されている魔獣だ。
対してA級は魔獣、魔肉熊だろう。
体長はおおよそ2メートル。
魔獣の肉を食べて成長することを特徴とするこの熊は、食べた魔獣の数に比例して強くなる。
今、俺の鑑定魔法で視えている魔肉熊は、十数体ほどの魔獣を食べて魔力を増やした中堅と言ったところだ。
外皮は魔力を帯びて非常に硬くなっていることから、まずは疲弊させて魔力をすり減らしていくのが定石の戦法だ。
ククレ城塞管轄のギルドに素材を売れば1ヶ月くらいは遊んで暮らせるかな。
強個体には分類されないものの冒険者パーティーが総出で戦ってようやく倒せる魔獣だ。
とはいえ今のミノリならば1人で任せても充分倒せるだろうけど。
……懸念事項も一つあるが、それは後々に置いておくとして。
「クェーーッ!」「コッコッコッ」「クァーッ!」「コケケケケケケ!!」
ふと茂みの中から、4匹の雄蛇鶏が一斉に飛び出してきた。
皆、茂みの奥の何かから逃げ惑っている様子だ。
ドドドドド、と大きな足音を立ててミノリの横を雄蛇鶏たちが通り過ぎていく。
本来、戦う前ともなればそのヒトの殺気と相まって少しは魔力が漏れ出すものだ。
だが雄蛇鶏《コカトリス》は、ミノリが茂みの奥に放つ殺気に気付くこともなく彼女の横を走り抜けていった。
あんなに好戦的だったミノリが、魔力ロスを抑えられているのも感慨深いものがある。
風属性魔法、鎌鼬でスパッと4匹の頭を吹き飛ばす。
これで今日の夕飯の食材は豪華になったな。
さて、今回はこの後が本命だ。
「ヴァォォォォォォォォォォォッッ!!」
木々が倒れると同時に茂みの奥から真っ黒な巨体が姿を現した。
「魔肉熊……ッ!」
ミノリはすぐさま剣に魔力を注ぎ込む。
ゴゥッ。
濃縮された魔力を内包した剣に白い炎が宿る。
「ヴァォッッ! ヴァッ!! オォォォッ!!!」
魔肉熊《ワイルドベア》は魔力を込めた腕を大きく使ってミノリに向けて攻撃を振りかざす。
腕を振るたび大地が削れ、砂煙が立ち煙る。
1年前までのミノリならば自身が少し攻撃を食らってもお構いなしにと、それ以上の攻撃を繰り出して相手を沈めていた。
相手の攻撃を真正面から受けつつも、溜めに溜めた持ち前の巨大な魔力で、相手を粉砕するような大味な戦い方。
それがミノリの真骨頂だったからだ。
だが今は違う。
相手の魔力の流れから次の攻撃を読み取り、剣で受け止め、魔力で払い、反撃の体勢を冷静に整える。
今までのミノリの大味な戦い方に緻密な魔力操作が加われば、向かうところに敵はない。
大振りな腕薙ぎの連続で魔肉熊の体勢が崩れたのを見るや否や、ミノリは大地を強く蹴った。
2年前までは上級魔法の魔力付与が限界だったミノリは、現在超級魔法の魔力付与に取り組んでいる。
成功確率は未だ3割程度ではあるが――今の集中力なら問題ないだろうな。
「超級火属性魔法魔力付与ッ! 不死鳥の炎剣!」
ミノリの剣が極大の炎で白く光る。
バチバチと魔力の滾るその剣で、ミノリは魔肉熊に詰め寄り一気に剣を横薙いだ。
「オ……ヴァッ……」
小さな呻き声と共に、魔力で硬化した魔肉熊の上半身と下半身が綺麗に宙を舞う。
「……ッ、はぁ……ッ、はぁ……ッ」
シュゥゥゥゥ……、と。ミノリの剣から魔力が霧散していく。
ミノリと言えど、超級魔法を使うとなれば集中力、体力共にかなり摩耗してしまうらしい。
額から大量の汗を搔くミノリは、「リース様、超級魔法、成功しました……!」と無理やりな笑顔を俺に魅せる。
「お疲れさま、ミノリ。今日の出来具合は80点くらいかな。超級魔法も問題なし、魔肉熊クラスも撃沈できた。出来映えは充分だよ」
「……あ、ありがとう、ございます……えへへ……リース様に、褒められました……!」
「まぁ、少し惜しかったとするならば――」
がさりと、俺の後ろの茂みが揺れた。
「ボァァァァァァァァァァッッッ!!!!」
「も、もう一体の魔肉熊!? リース様――!」
ミノリは再び戦闘態勢を取ったが、それは現れた瞬間に膝を付いて地に伏した。
「心臓に、穴……?」
「超級風属性魔法、穿ち風。空気を圧縮した魔法の砲弾ってところだ」
俺の超級魔法で心臓もろともに吹き飛ばしたのだ。
「少し遠くからもう一体がこっちを観察していたことに気付けたら100点だったかな。でも、ミノリの鑑定魔法もずいぶんと精度が上がってきた。後はもっと体力をつけて、超級魔法を撃っても次の戦いがこなせるようになろう」
「――っ! はい!!」
ミノリは剣を納めて優しい笑顔を浮かべた。
人間の成長は早い。
2年前ですらあどけない表情が抜けていたのに、ミノリは今や強く可憐な大人の女性へと変貌を遂げていた。
2年の間でこんなにも出来ることが増えていくのがヒト族だったのだな、と。
エルフになって久しい感覚を俺は味わっていた。
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