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第19話 転生エルフ(100)、お伽噺を語る。
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――今から約700年前。勇者が魔王を討伐したとされる世界中で有名なお伽噺は、今や誰にも読まれていない古魔道書が原本だった。
○○○
『魔法不適合者の英雄譚 《著者:不明 出版年度:不明》』
とある所に、とても強い魔族の王――魔王という存在がこの世に顕現した。
どんな猛者でも魔王に傷を付けることは出来ず、世界は魔王が蹂躙していた。
それは、そんな魔王が世界の半分以上を支配していた頃の話だ。
とある村に、火・水・土・風の四大元素を使えない魔法に不適合な者がいた。
その者は正義の心に満ちあふれ、いつか世界を混沌に陥れる魔王を倒すことを夢見ていた。
人一倍冒険者に憧れ、人一倍努力を惜しまない者だったと言う。
誰に馬鹿にされようが、何度敗北しようがその度に立ち上がり、地道な努力を続けた彼は、四大属性それぞれの魔法を操る4人の仲間に恵まれるようになる。
そしてただ一人魔法を使えずとも愚直に頑張っていた少年は、やがて4人の仲間のどれとも違う不思議な魔法に目覚めていく。
魔族と魔獣にのみ特効がある、極めて不思議な魔法だ。
不思議な魔法に目覚めた少年は、今までの努力と目覚めた力を駆使して破竹の勢いで魔王に侵略された土地を人類圏へと取り戻していく。
そして少年は、四人の仲間と共についに魔王を討伐してみせた。
魔王や魔族、魔獣に微塵も臆することなく討ち滅ぼして、彼は人類の生存圏を取り戻したのだ。
誰の者とも違う魔法に目覚めた少年を、人は『勇敢なる者』――《勇者》と呼ぶようになった。
○○○
グリレットさんにククレ城塞を案内してもらってから、早くも1週間が経った。
ククレ城塞と魔獣発生の要所である聖地林の狭間には、《大円森林ヴァステラ》と呼ばれる、入り組んだ森がある。
エルフ族の居住区と同じくらいの規模を誇る大きな森だ。
冒険者たちは主にここからククレ城塞に向かって通り過ぎていった魔獣たちを討伐しているのだという。
つまり、ここは冒険者側と魔獣発生側の両方を監視できる領域ということになる。
グリレットさんが言ってた城塞外にある一軒家ってのは、この地図によるともう少し先かな。
道中、ミノリに伝えたのは俺が100歳の頃までに読んだ魔道書の一部だった。
「なるほどリース様がお話してくださったものは、巷によく聞く『伝説の勇者』というお伽噺と似ていますもんね」
ここからヒト族の間ではこの不思議な魔法を持つ者を、《勇者》因子を持つ者と言うようになったのだか。
確かにいくつかの魔道書の中にも、偶発的に現れるというこの世の埒外にある不思議な力を《因子》という枠で括っているものも確認された。
道に迷わないように辺りの木々に印を付けながら進むミノリは問う。
「それにしても、《勇者》の因子を見つける。そんなことが本当に可能なのでしょうか。四大元素魔法を使えない者を探すにしても、まず魔法を使用している所を見つけなければなりませんし……」
「俺の鑑定魔法があれば《因子》持ちは見つけられるよ」
「――すごい……実際にそれで《因子》持ちを見つけられたことがあるんですね!?」
「……まぁね」
ヴン――と。
俺は自分自身に鑑定魔法、能力解析をかける。
その中の一部にある記載は、俺をこの世に落とした原因だった。
因子:異世界転生
俺が持つのも、まさに因子そのものだったのだ。
魔道書で読んでまさかとは思って自分でも確認してみたが、確かに《異世界転生》なんてものはこの世の埒外の力そのものだろうしね。
《因子》を持つ者は、生まれた時からその因子を持っている。
それが開花するかどうかは本人の素質と努力次第と言うことだ。
因子を見つける方法が分かれば、後はそれが現れるのを待つだけだ。
ただ――。
「ね、ミノリ。本当に良かったのかい?」
「何がですか?」
きょとんと、ミノリは紅髪のロングストレートをふわりと揺らした。
「さっきも話したけど、《勇者》の因子なんてすぐに見つかるものじゃないだろう。何年かかるかも分からない、もしかしたらそんなもの最初からないかもしれない。今からやろうとしていることはミノリの人生すら大きく狂わせるかもしれないんだ。今ならまだ引き返せ――」
言おうとして、ミノリは俺の唇に人差し指を当てた。
「わたし、決めたんです」
屈託のない笑顔は、出会った時と変わらず。
「わたしを地獄から救ってくれた。生きる力を与えてくれた。リース様の幻影を追い続けた7年間で決めていましたから。それに、これまでの旅に同行させてもらってからも気持ちは変わりませんでした。だから――」
純真無垢で、とても綺麗で――。
「あなたから大切な名前を頂いたわたしは……ミノリは、リース様を一生お慕いし続けます。リース様に着いていき、強くなることこそがわたしの最高の幸せですから。リース様が嫌っていうまで、放しませんからねっ」
ルビーのように輝く瞳の中には、きょとんとした俺が映っていた。
ドクン、と。思わず高鳴りそうな心臓の鼓動を何とか理性で押し殺して俺は手に持つ地図を見た。
「……分かった」
グリレットさんの地図が指し示す一軒家までは、もうあと少しだった。
○○○
『魔法不適合者の英雄譚 《著者:不明 出版年度:不明》』
とある所に、とても強い魔族の王――魔王という存在がこの世に顕現した。
どんな猛者でも魔王に傷を付けることは出来ず、世界は魔王が蹂躙していた。
それは、そんな魔王が世界の半分以上を支配していた頃の話だ。
とある村に、火・水・土・風の四大元素を使えない魔法に不適合な者がいた。
その者は正義の心に満ちあふれ、いつか世界を混沌に陥れる魔王を倒すことを夢見ていた。
人一倍冒険者に憧れ、人一倍努力を惜しまない者だったと言う。
誰に馬鹿にされようが、何度敗北しようがその度に立ち上がり、地道な努力を続けた彼は、四大属性それぞれの魔法を操る4人の仲間に恵まれるようになる。
そしてただ一人魔法を使えずとも愚直に頑張っていた少年は、やがて4人の仲間のどれとも違う不思議な魔法に目覚めていく。
魔族と魔獣にのみ特効がある、極めて不思議な魔法だ。
不思議な魔法に目覚めた少年は、今までの努力と目覚めた力を駆使して破竹の勢いで魔王に侵略された土地を人類圏へと取り戻していく。
そして少年は、四人の仲間と共についに魔王を討伐してみせた。
魔王や魔族、魔獣に微塵も臆することなく討ち滅ぼして、彼は人類の生存圏を取り戻したのだ。
誰の者とも違う魔法に目覚めた少年を、人は『勇敢なる者』――《勇者》と呼ぶようになった。
○○○
グリレットさんにククレ城塞を案内してもらってから、早くも1週間が経った。
ククレ城塞と魔獣発生の要所である聖地林の狭間には、《大円森林ヴァステラ》と呼ばれる、入り組んだ森がある。
エルフ族の居住区と同じくらいの規模を誇る大きな森だ。
冒険者たちは主にここからククレ城塞に向かって通り過ぎていった魔獣たちを討伐しているのだという。
つまり、ここは冒険者側と魔獣発生側の両方を監視できる領域ということになる。
グリレットさんが言ってた城塞外にある一軒家ってのは、この地図によるともう少し先かな。
道中、ミノリに伝えたのは俺が100歳の頃までに読んだ魔道書の一部だった。
「なるほどリース様がお話してくださったものは、巷によく聞く『伝説の勇者』というお伽噺と似ていますもんね」
ここからヒト族の間ではこの不思議な魔法を持つ者を、《勇者》因子を持つ者と言うようになったのだか。
確かにいくつかの魔道書の中にも、偶発的に現れるというこの世の埒外にある不思議な力を《因子》という枠で括っているものも確認された。
道に迷わないように辺りの木々に印を付けながら進むミノリは問う。
「それにしても、《勇者》の因子を見つける。そんなことが本当に可能なのでしょうか。四大元素魔法を使えない者を探すにしても、まず魔法を使用している所を見つけなければなりませんし……」
「俺の鑑定魔法があれば《因子》持ちは見つけられるよ」
「――すごい……実際にそれで《因子》持ちを見つけられたことがあるんですね!?」
「……まぁね」
ヴン――と。
俺は自分自身に鑑定魔法、能力解析をかける。
その中の一部にある記載は、俺をこの世に落とした原因だった。
因子:異世界転生
俺が持つのも、まさに因子そのものだったのだ。
魔道書で読んでまさかとは思って自分でも確認してみたが、確かに《異世界転生》なんてものはこの世の埒外の力そのものだろうしね。
《因子》を持つ者は、生まれた時からその因子を持っている。
それが開花するかどうかは本人の素質と努力次第と言うことだ。
因子を見つける方法が分かれば、後はそれが現れるのを待つだけだ。
ただ――。
「ね、ミノリ。本当に良かったのかい?」
「何がですか?」
きょとんと、ミノリは紅髪のロングストレートをふわりと揺らした。
「さっきも話したけど、《勇者》の因子なんてすぐに見つかるものじゃないだろう。何年かかるかも分からない、もしかしたらそんなもの最初からないかもしれない。今からやろうとしていることはミノリの人生すら大きく狂わせるかもしれないんだ。今ならまだ引き返せ――」
言おうとして、ミノリは俺の唇に人差し指を当てた。
「わたし、決めたんです」
屈託のない笑顔は、出会った時と変わらず。
「わたしを地獄から救ってくれた。生きる力を与えてくれた。リース様の幻影を追い続けた7年間で決めていましたから。それに、これまでの旅に同行させてもらってからも気持ちは変わりませんでした。だから――」
純真無垢で、とても綺麗で――。
「あなたから大切な名前を頂いたわたしは……ミノリは、リース様を一生お慕いし続けます。リース様に着いていき、強くなることこそがわたしの最高の幸せですから。リース様が嫌っていうまで、放しませんからねっ」
ルビーのように輝く瞳の中には、きょとんとした俺が映っていた。
ドクン、と。思わず高鳴りそうな心臓の鼓動を何とか理性で押し殺して俺は手に持つ地図を見た。
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