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ねぇ、もう一回
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結局、時くんはあれからずっと僕の家に泊まっている。
彼が家に来てから早1週間が経とうとしていた。
「時くん痛い……」
僕を膝に乗っけて、噛み跡の残る首に噛みついてくる時くんに文句を言う。
番関係になると歯型は消えなくなるから、定期的に噛む必要なんてないはずなのに、彼はこうやって思い出したように首に噛み跡を残してくる。
「……いつ帰るの?」
「出ていけってか」
「そうは言ってないけど……」
食事は僕が作っているけれど、律儀にも彼は有り余るくらいの食費をくれるし、正直そういった面で困ってはいない。
ただ、いつ僕のグッズが見つかってしまうかが気になって夜もろくに眠れないし、彼のせいで中々学校に行けていないのも事実。
それに一緒にいると辛いんだ。
「……僕が運命の番でよかったの?」
「いいもなにも勝手に決められてんだから文句なんて言えねえだろ」
「……そう、だよね」
彼は望んで僕を求めてるわけじゃない。
番にしたのも僕が言うことを聞かないから、それが許せなくてねじ伏せるために番にしたんだと思う。
そう考えるととても心が傷んで苦しくなる。
どんなに体を重ねても、番関係を結んでも、運命の番だとしても、そこに心が、想いが伴っていないなら虚しいだけだ。
だから僕は彼から離れたいし、遠くで見てるだけの方が幾分かましに思える。
好きだとはっきり言えるのに、時くんと居ると少しずつその好きが壊れていく気がして怖い。
ポットからお湯を注いでコーヒーを作ると手渡す。
彼の好きな薄めのブラックコーヒー。
時くんの好きな物も嫌いなものも、全部全部わかるのに、彼が僕のことを好きなのか嫌いなのかはまったくわからない。
「時くん……」
「ああ?」
「……好きだよ」
「知ってる」
お前は俺のストーカーだもんな、って言葉が続きそうなくらい簡単に相槌を返されて、いっそう心が苦しくなった。
好きだって言って欲しい。
そんなの僕のわがままだ。
「時くんって本当に酷い人だね……」
ぽつりと漏れた言葉を時くんはちゃんと拾っていて、眉間が微かに動いたのがわかった。
「……それはお前もだろ」
「……え?」
苦しげに返された言葉に僕は首を傾げる。
時くんの鋭い瞳が射抜いてきて、僕はそこから目が離せない。
「……僕、時くんになにかした?」
わからなくて訊ねたら、ふうって小さくため息をつかれてそれっきり時くんはなにも答えてくれない。
もやもやが胸いっぱいに広がって、じわじわと怒りに変わっていく。
溜息をつきたいのは僕の方なのに……。
身体も心も、日常生活も、なにもかも時くんにぐちゃぐちゃにされて、話も聞いてくれなくて、どうしたらいいのかもなにもわからない。
「……出ていってよ……」
僕の心から……。
「あ゛ぁ?」
「出ていってってばっ!!」
なにもかもぐちゃぐちゃだ。
自然と涙が溢れてきて、初めて人に対して出した大声は、思いの外家の中に反響する。
時くんは目を大きく見開いて驚いていて、僕は肩で息を吐き出しながらもう一度、出ていってって言葉に出した。
「……そんなに俺の事邪魔なのかよ……」
「……」
「結局お前も周りとなにも変わらねえな」
時くんから注がれる鋭い言葉が、僕の心に突き刺さって、冷ややかな彼の目を直視することができなかった。
時くんは僕に目を向けずに少ない荷物を持って家から立ち去る。
バタンっていう玄関の閉じる音が嫌に耳に残っていて、思わずその場にしゃがみこんで、膝に顔を埋めながら涙を流した。
本当の家族とすら上手く関係を築けなかった僕が、好きな人と結ばれたいなんて思うこと自体おこがましいことだったのかもしれない。
「……っ時くん……行かないで……」
自分で追い出したくせに、今更そんなことを口にしてどうしたいんだろう。
癇癪を起こした子供みたいに大好きな人を怒鳴りつけるなんて最低だ。
静まり返った家の中に嗚咽が響いて、その音をどこか他人事のように感じながらひたすら涙を流し続けた。
彼が家に来てから早1週間が経とうとしていた。
「時くん痛い……」
僕を膝に乗っけて、噛み跡の残る首に噛みついてくる時くんに文句を言う。
番関係になると歯型は消えなくなるから、定期的に噛む必要なんてないはずなのに、彼はこうやって思い出したように首に噛み跡を残してくる。
「……いつ帰るの?」
「出ていけってか」
「そうは言ってないけど……」
食事は僕が作っているけれど、律儀にも彼は有り余るくらいの食費をくれるし、正直そういった面で困ってはいない。
ただ、いつ僕のグッズが見つかってしまうかが気になって夜もろくに眠れないし、彼のせいで中々学校に行けていないのも事実。
それに一緒にいると辛いんだ。
「……僕が運命の番でよかったの?」
「いいもなにも勝手に決められてんだから文句なんて言えねえだろ」
「……そう、だよね」
彼は望んで僕を求めてるわけじゃない。
番にしたのも僕が言うことを聞かないから、それが許せなくてねじ伏せるために番にしたんだと思う。
そう考えるととても心が傷んで苦しくなる。
どんなに体を重ねても、番関係を結んでも、運命の番だとしても、そこに心が、想いが伴っていないなら虚しいだけだ。
だから僕は彼から離れたいし、遠くで見てるだけの方が幾分かましに思える。
好きだとはっきり言えるのに、時くんと居ると少しずつその好きが壊れていく気がして怖い。
ポットからお湯を注いでコーヒーを作ると手渡す。
彼の好きな薄めのブラックコーヒー。
時くんの好きな物も嫌いなものも、全部全部わかるのに、彼が僕のことを好きなのか嫌いなのかはまったくわからない。
「時くん……」
「ああ?」
「……好きだよ」
「知ってる」
お前は俺のストーカーだもんな、って言葉が続きそうなくらい簡単に相槌を返されて、いっそう心が苦しくなった。
好きだって言って欲しい。
そんなの僕のわがままだ。
「時くんって本当に酷い人だね……」
ぽつりと漏れた言葉を時くんはちゃんと拾っていて、眉間が微かに動いたのがわかった。
「……それはお前もだろ」
「……え?」
苦しげに返された言葉に僕は首を傾げる。
時くんの鋭い瞳が射抜いてきて、僕はそこから目が離せない。
「……僕、時くんになにかした?」
わからなくて訊ねたら、ふうって小さくため息をつかれてそれっきり時くんはなにも答えてくれない。
もやもやが胸いっぱいに広がって、じわじわと怒りに変わっていく。
溜息をつきたいのは僕の方なのに……。
身体も心も、日常生活も、なにもかも時くんにぐちゃぐちゃにされて、話も聞いてくれなくて、どうしたらいいのかもなにもわからない。
「……出ていってよ……」
僕の心から……。
「あ゛ぁ?」
「出ていってってばっ!!」
なにもかもぐちゃぐちゃだ。
自然と涙が溢れてきて、初めて人に対して出した大声は、思いの外家の中に反響する。
時くんは目を大きく見開いて驚いていて、僕は肩で息を吐き出しながらもう一度、出ていってって言葉に出した。
「……そんなに俺の事邪魔なのかよ……」
「……」
「結局お前も周りとなにも変わらねえな」
時くんから注がれる鋭い言葉が、僕の心に突き刺さって、冷ややかな彼の目を直視することができなかった。
時くんは僕に目を向けずに少ない荷物を持って家から立ち去る。
バタンっていう玄関の閉じる音が嫌に耳に残っていて、思わずその場にしゃがみこんで、膝に顔を埋めながら涙を流した。
本当の家族とすら上手く関係を築けなかった僕が、好きな人と結ばれたいなんて思うこと自体おこがましいことだったのかもしれない。
「……っ時くん……行かないで……」
自分で追い出したくせに、今更そんなことを口にしてどうしたいんだろう。
癇癪を起こした子供みたいに大好きな人を怒鳴りつけるなんて最低だ。
静まり返った家の中に嗚咽が響いて、その音をどこか他人事のように感じながらひたすら涙を流し続けた。
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