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天宮叶

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俺の物〜時視点〜

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柴を置いて直ぐに三階まで向かうと、匂いを辿ってあいつを探した。

いつもは薄い残り香が、今日ははっきりと香っていてあいつを見つけるのは笑えるくらい簡単だった。

誰もいない空き教室に入ると、目の前の教卓に視線を向ける。

あれだ……。

惹き付けられるように1歩1歩近づいていくと、匂いは段々と強さを増して行った。

そうして俺が教卓の前まで着いた時、ぽつりと声が聞こえてきた。

「……終わった……」

訳が分からないと思った。

ただ、初めて聞くこの声は悪くないとも思う。

男にしては高い柔らかい声は、いつも俺の周りにいるうるさい奴らとは違う透明感を含ませていて、早く姿を確認したいと焦る気持ちを押さえつけた。

「何が終わったんだよ」

声をかけるとそいつの匂いが微かに揺らぐ。

俺の声に反応したんだと思うと、なぜかもっとそいつの色んな反応が見たくなった。

こんなになにかに興味を持つのは初めてで戸惑う。

出てくるように言えば、そいつは今までが嘘のようにあっさりと俺の目の前に姿を現した。

「……まじかよ」

遠目からでも何となくはわかっていたが、そいつは正直酷い容姿だった。

天パの髪を無造作に伸ばして、目は見えないし痩せすぎて触れたら折れそうだなと、らしくもなく心配になる。

でも、そいつの白く透き通る肌は酷く美味そうだと思った。

背はそんなに高くない。
ただ、すっと真っ直ぐ伸びた姿勢のおかげなのか高くも見える。

どこかちぐはぐで、それでいて庇護欲をそそるそいつの容姿は総合評価的には全然いけるというものだった。

そこでスマホの存在を思い出した。

手に持たれたそれを奪うと表示された画像に戸惑う。

俺がはっきりと映っている写真が何枚も表示されていて、普通はキモイと思うはずなのに、こいつに求められているとわかってなぜか酷く安堵を覚えた自分に驚いた。

それが自分らしくなくて、この気持ちをどう処理したらいいかわからずに勢いでスマホを床に叩きつけて足で踏み付ける。

そうして訳のわからないこの感情を失くそうと思った。

途端、不安に襲われた。

なにしてんだって、迷子になったような気分にさせられる。

自分でもなにがしたいのかわからなくて、状況の飲み込めていない目の前のそいつの顔を見てやっちまったって少し後悔した。

それを消し去るみたいについそいつに手を伸ばして、もう一度キモイと吐き捨てる。

言動が感情と伴わなくて自分で自分が制御できない。

しばらく間近でそいつの顔を見つめて、前髪から微かに覗くヘーゼルアイに気づくと、まるでその目に吸い寄せられそうになる。

こいつを自分の物にしろって、頭の中で鳴り響くその声に促されるように、俺はそいつに向かってパシリだと口走っていた。

傍に置いておかないとこのスマホみたいに粉々に消えてしまうかもしれない。

誰にも触れさせたくねえ。

これは俺の唯一だから……。

絶対誰にもやらねえし、こいつを探し続けるのはもう勘弁だった。

だから俺の傍に置いて見張っておかねえといけねえ……。

強くそう思った。


あれに名前を呼ばれるのが好きだ。
最初は呼ぶなって凄んでみたけど、あれは俺の言うことなんて聞きかずにずっと俺の下の名前を呼び続ける。

眠くなる声。
安心する。

あれが屋上で俺以外のやつに触れられて、傷をつけられてパシリにされそうになったとき、そいつを殺してやろうと思った。

俺の物に傷をつけたそいつをズタボロにして、後悔してもしきれないくらいめちゃくちゃにしてやるって頭に血が上る。

柴に制止されて我に返ったとき、そいつは俺の目の前で血を流して倒れていた。

ざまあみろ。

心の中で唾を吐きかけてやる。

俺のに手を出すからだってほの暗い感情が心を支配する。あれに傷をつけるやつ、あれに触れるやつ、全部全部許すな。奪わせない……。

俺のだ。

巨大な独占欲は日に日に増していくのに、あれは少しも理解しようとしない。

だからわざと見せつけるようにセックスのときは必ず呼び出した。

少しは俺に独占欲を見せてくれないだろうか……。

性欲処理だけのそれはなんの感情も浮かばないし、ただのオナホ代わりの相手に触れられてもなにも思わない。

けど、あいつはいつも俺のそういう行為を目にするときだけ、いつもの澄ました顔を歪ませて苦しそうな顔をするから、それを見たくて止められない。

頬を殴られてたときもその相手を庇って俺に嘘をついた。

腸が煮えくり返りそうになるほどにイラついて、そいつのこと好きなのかって的はずれなことまでつい勘ぐっちまう。

お前は俺の物なのに、少しもそう振舞おうとしない。

俺にはお前しか居ないのに、お前には俺以外がいるかもしれないことが許せなかった。

「お前、誰の物か自覚あるのか」

「誰の物なの?」

ほらまた。

こいつは澄ました顔で首を傾げる。

イラつく……。

なんでお前はそんなに思い通りにならないんだ。

俺のだ。

お前の口から聞きたい。

それなのにお前は俺の望む言葉はくれなくて、それが酷く歯痒くて、いっその事こいつ自身に刻み込んでやろうと思った。

「教えてやる」

気づいたら首に噛み付いていた。

口内に残る血の味と、そいつの制服についた血を見て、こいつが俺の前から消えるんじゃないかってまた不安に襲われた。

ぐったりとするそいつの体を支えながら、またやっちまったって頭の片隅で思う。

慌てて保健室まで運んで保健医に治療しろとせっつく。

なにかをする度に、埋めたいと思う距離がどんどん遠くなる感覚が毎日俺に付きまとった。

どうして上手くいかない。

どうして……あいつは俺の物にならないんだ?


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