8 / 81
βの僕と、後天性Ω
2
しおりを挟む
貰った安全帯を着けて学校に行くのは自分がΩだと主張しているようなもので、逆にそれが恥ずかしくて結局鞄に雑に詰め込んだまま登校した。
いつも通り、靴を脱いで下駄箱を開ける。
そうして中履きを手に取ったときピリッと手に痛みが走って僕は思わず中履きを床へ落とした。
そっと中履きの中を確認するとご丁寧にヤスリの刃が並べて貼り付けてあってそれに僕は眉を寄せた。
こんなことされるのは初めてで、どう対処したらいいかも良くわからなくてただひたすら面倒だなって思う自分がいる。
刃に触らないように中履きをゴミ箱に捨てて、購買部へと向かう。
「中履き1つください」
「2500円だよ」
おばちゃんにお金を渡して新品の中履きを履くと僕は何も無かったように教室へと向かった。
怪我した手には一応絆創膏を貼っておく。
中履きを掴んだ2本の指の同じ箇所に綺麗に傷ができていてため息をつく。
父からの暴力を受け続けていたせいなのか痛みに対して人よりも鈍くなった気がする。
自分の席につくと買ったばかりのスマホを手に取って画像フォルダを開く。
ほとんどの写真はバックアップが上手く出来なくて消えてしまったけれど少しだけ残っていた時くんの写真を見つめながらやっぱり好きだなってにやける口元を片手で覆う。
これが見つかったらまた時くんにスマホが壊されてしまうかもしれないから見つからないように気をつけようと心に決めて、中を見られてもいいようにロックをかけておくことにした。
首の傷は数日経つと痛みはすっかり消えて、跡も残らなさそうでほっとする。
明後日には包帯も取れるかなって思いながら、先生が来る前にスマホを鞄へとしまった。
「蒼葉いるか」
声のした方に顔を向けると見覚えのある不良さんが入口の前に立っていて僕は直ぐに席を立って彼の元へと向かった。
今日は朝から呼び出しみたいで内心憂鬱になる。
Ωと診断されてから初めての呼び出しだ。
首の怪我のせいで数日は熱が出ていたし、しっかりとバース検査を受けるまでは休もうと決めていたから久しぶりの登校で、学校に来るのは1週間ぶりくらいで、その間何度彼から呼び出しがあったのかは分からない。
「よかった~!今日は居たか。マジで勘弁してくれよ……お前が居ないせいで朔間さんめちゃくちゃ機嫌悪いんだって」
「…それはごめんなさい」
不良さんは本当に参っているのかよかったと何度も繰り返し言っていて、もしかしたら八つ当たりで何人か被害にあってるかもしれないなと思った。
「朔間さん連れてきたっすよ」
屋上の扉を開けた不良さんが時くんのことを呼ぶと、丁度時くんを怒らせたのか殴られそうになっていた不良さんの胸ぐらを彼がぱっと離した。
時くんがゆっくりとこっちを見て、視線が交わる。
身体の奥から感じるこの多幸感は僕がΩだから感じるものだったんだと今なら理解出来た。
時くんの目を見て視線を外せない僕に彼が近づいてきて、目の前に立った彼が僕の首を見てからまた僕の顔に視線を戻した。
「なんで来なかった」
「色々忙しくて休んでたから」
端折って答えると時くんは僕の腕を掴んで早足に屋上から出ていく。
引っ張られながら時くんの予測不可能な行動にも慣れてきたなって心の中で苦笑いして、黙ってついて行くと彼はいつも使っている空き教室へと入ってどこから出したのか教室の鍵を閉めた。
「勝手に休んでじゃねえ」
床に投げ捨てられて尻もちを着いた僕に時くんが理不尽にそんなことを言ってくるから、僕は今度こそ彼に向かって苦笑いを浮かべる。
「そんな事言われても困っちゃうよ」
それに苛立った時くんが僕の目の前に屈んで僕の頭を掴んだ。
掴まれているのに力はあまり入っていなくて痛みは感じない。
「何してた」
それは休んでた時ってこと?
「熱があったから」
病院に行ったことは言わない。
言いたくないと思う。
僕はβのままでいたかった。
βじゃないと駄目なんだ。
そうじゃないと時くんのことをもっと欲しくなってしまうから。
「他には」
「なにも」
何を聞きたいんだろう。
なんて言わせたいのかな。
どんどんと彼がわからなくなってくる。
彼とこうやって話す前は時くんのことをなんでも知っている自信があったし、誰に聞かれてもスラスラと答えられると自負していた。
今はそんな自信どこにも無い。
「その指は」
「切っちゃったんだ。大したことないよ」
ジロジロと僕の全身を見て僕に変わったところが無いかを確認する彼を僕も同じように見つめる。
少し髪が伸びたんじゃない?
疲れてるのかな…クマが酷い。
なんでそんなにイライラしてるの?
つい眉間のシワをグリグリしたくなる。
「首、見せろよ」
そう言って僕の同意も聞かずに包帯を雑に取り去った彼は治りかけて薄くなった歯型を指でなぞっておもむろにそこに顔を近づけた。
「……っ……」
ツプリとまた犬歯が皮膚を破る感覚がして僕は痛みに眉を寄せる。
治りかけていたのにって思いつつも密着した身体から感じる熱や彼の匂いに酔いそうになってそんなことどうでも良くなってくる。
「……痛いよ」
「だろうな」
噛んだと思ったら首周りに執拗にキスを落としてくる時くんに抗議してみたけれど止めてくれる気は無さそうだ。
なんでこんなことって思う。
いつも僕のことを雑に扱う癖に、こうやってたまに独占欲みたいなものを出してくるからこんがらがって訳が分からなくなるんだ。
ストーカーしてた時期に戻りたい。
ただ見てるだけでよかった。
それだけで充分だった。
「なに考えてんだよ」
時くんが別のことを考えていた僕を咎めるように僕の開かれたワイシャツから覗く肩に噛み付いた。
「時くん、なんでこんなことするの」
僕の口から漏れた疑問はしっかりと彼の耳に届いているはずなのに、そんな疑問受け付けないって言うみたいにまた噛まれて僕はとうとう為す術なく彼に身を委ねるしかなくなる。
いつも通り、靴を脱いで下駄箱を開ける。
そうして中履きを手に取ったときピリッと手に痛みが走って僕は思わず中履きを床へ落とした。
そっと中履きの中を確認するとご丁寧にヤスリの刃が並べて貼り付けてあってそれに僕は眉を寄せた。
こんなことされるのは初めてで、どう対処したらいいかも良くわからなくてただひたすら面倒だなって思う自分がいる。
刃に触らないように中履きをゴミ箱に捨てて、購買部へと向かう。
「中履き1つください」
「2500円だよ」
おばちゃんにお金を渡して新品の中履きを履くと僕は何も無かったように教室へと向かった。
怪我した手には一応絆創膏を貼っておく。
中履きを掴んだ2本の指の同じ箇所に綺麗に傷ができていてため息をつく。
父からの暴力を受け続けていたせいなのか痛みに対して人よりも鈍くなった気がする。
自分の席につくと買ったばかりのスマホを手に取って画像フォルダを開く。
ほとんどの写真はバックアップが上手く出来なくて消えてしまったけれど少しだけ残っていた時くんの写真を見つめながらやっぱり好きだなってにやける口元を片手で覆う。
これが見つかったらまた時くんにスマホが壊されてしまうかもしれないから見つからないように気をつけようと心に決めて、中を見られてもいいようにロックをかけておくことにした。
首の傷は数日経つと痛みはすっかり消えて、跡も残らなさそうでほっとする。
明後日には包帯も取れるかなって思いながら、先生が来る前にスマホを鞄へとしまった。
「蒼葉いるか」
声のした方に顔を向けると見覚えのある不良さんが入口の前に立っていて僕は直ぐに席を立って彼の元へと向かった。
今日は朝から呼び出しみたいで内心憂鬱になる。
Ωと診断されてから初めての呼び出しだ。
首の怪我のせいで数日は熱が出ていたし、しっかりとバース検査を受けるまでは休もうと決めていたから久しぶりの登校で、学校に来るのは1週間ぶりくらいで、その間何度彼から呼び出しがあったのかは分からない。
「よかった~!今日は居たか。マジで勘弁してくれよ……お前が居ないせいで朔間さんめちゃくちゃ機嫌悪いんだって」
「…それはごめんなさい」
不良さんは本当に参っているのかよかったと何度も繰り返し言っていて、もしかしたら八つ当たりで何人か被害にあってるかもしれないなと思った。
「朔間さん連れてきたっすよ」
屋上の扉を開けた不良さんが時くんのことを呼ぶと、丁度時くんを怒らせたのか殴られそうになっていた不良さんの胸ぐらを彼がぱっと離した。
時くんがゆっくりとこっちを見て、視線が交わる。
身体の奥から感じるこの多幸感は僕がΩだから感じるものだったんだと今なら理解出来た。
時くんの目を見て視線を外せない僕に彼が近づいてきて、目の前に立った彼が僕の首を見てからまた僕の顔に視線を戻した。
「なんで来なかった」
「色々忙しくて休んでたから」
端折って答えると時くんは僕の腕を掴んで早足に屋上から出ていく。
引っ張られながら時くんの予測不可能な行動にも慣れてきたなって心の中で苦笑いして、黙ってついて行くと彼はいつも使っている空き教室へと入ってどこから出したのか教室の鍵を閉めた。
「勝手に休んでじゃねえ」
床に投げ捨てられて尻もちを着いた僕に時くんが理不尽にそんなことを言ってくるから、僕は今度こそ彼に向かって苦笑いを浮かべる。
「そんな事言われても困っちゃうよ」
それに苛立った時くんが僕の目の前に屈んで僕の頭を掴んだ。
掴まれているのに力はあまり入っていなくて痛みは感じない。
「何してた」
それは休んでた時ってこと?
「熱があったから」
病院に行ったことは言わない。
言いたくないと思う。
僕はβのままでいたかった。
βじゃないと駄目なんだ。
そうじゃないと時くんのことをもっと欲しくなってしまうから。
「他には」
「なにも」
何を聞きたいんだろう。
なんて言わせたいのかな。
どんどんと彼がわからなくなってくる。
彼とこうやって話す前は時くんのことをなんでも知っている自信があったし、誰に聞かれてもスラスラと答えられると自負していた。
今はそんな自信どこにも無い。
「その指は」
「切っちゃったんだ。大したことないよ」
ジロジロと僕の全身を見て僕に変わったところが無いかを確認する彼を僕も同じように見つめる。
少し髪が伸びたんじゃない?
疲れてるのかな…クマが酷い。
なんでそんなにイライラしてるの?
つい眉間のシワをグリグリしたくなる。
「首、見せろよ」
そう言って僕の同意も聞かずに包帯を雑に取り去った彼は治りかけて薄くなった歯型を指でなぞっておもむろにそこに顔を近づけた。
「……っ……」
ツプリとまた犬歯が皮膚を破る感覚がして僕は痛みに眉を寄せる。
治りかけていたのにって思いつつも密着した身体から感じる熱や彼の匂いに酔いそうになってそんなことどうでも良くなってくる。
「……痛いよ」
「だろうな」
噛んだと思ったら首周りに執拗にキスを落としてくる時くんに抗議してみたけれど止めてくれる気は無さそうだ。
なんでこんなことって思う。
いつも僕のことを雑に扱う癖に、こうやってたまに独占欲みたいなものを出してくるからこんがらがって訳が分からなくなるんだ。
ストーカーしてた時期に戻りたい。
ただ見てるだけでよかった。
それだけで充分だった。
「なに考えてんだよ」
時くんが別のことを考えていた僕を咎めるように僕の開かれたワイシャツから覗く肩に噛み付いた。
「時くん、なんでこんなことするの」
僕の口から漏れた疑問はしっかりと彼の耳に届いているはずなのに、そんな疑問受け付けないって言うみたいにまた噛まれて僕はとうとう為す術なく彼に身を委ねるしかなくなる。
201
お気に入りに追加
601
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる