LOOK AT ME

天宮叶

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βの僕と、後天性Ω

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貰った安全帯を着けて学校に行くのは自分がΩだと主張しているようなもので、逆にそれが恥ずかしくて結局鞄に雑に詰め込んだまま登校した。

いつも通り、靴を脱いで下駄箱を開ける。
そうして中履きを手に取ったときピリッと手に痛みが走って僕は思わず中履きを床へ落とした。

そっと中履きの中を確認するとご丁寧にヤスリの刃が並べて貼り付けてあってそれに僕は眉を寄せた。

こんなことされるのは初めてで、どう対処したらいいかも良くわからなくてただひたすら面倒だなって思う自分がいる。

刃に触らないように中履きをゴミ箱に捨てて、購買部へと向かう。

「中履き1つください」

「2500円だよ」

おばちゃんにお金を渡して新品の中履きを履くと僕は何も無かったように教室へと向かった。

怪我した手には一応絆創膏を貼っておく。
中履きを掴んだ2本の指の同じ箇所に綺麗に傷ができていてため息をつく。

父からの暴力を受け続けていたせいなのか痛みに対して人よりも鈍くなった気がする。

自分の席につくと買ったばかりのスマホを手に取って画像フォルダを開く。

ほとんどの写真はバックアップが上手く出来なくて消えてしまったけれど少しだけ残っていた時くんの写真を見つめながらやっぱり好きだなってにやける口元を片手で覆う。

これが見つかったらまた時くんにスマホが壊されてしまうかもしれないから見つからないように気をつけようと心に決めて、中を見られてもいいようにロックをかけておくことにした。

首の傷は数日経つと痛みはすっかり消えて、跡も残らなさそうでほっとする。

明後日には包帯も取れるかなって思いながら、先生が来る前にスマホを鞄へとしまった。

「蒼葉いるか」

声のした方に顔を向けると見覚えのある不良さんが入口の前に立っていて僕は直ぐに席を立って彼の元へと向かった。

今日は朝から呼び出しみたいで内心憂鬱になる。

Ωと診断されてから初めての呼び出しだ。

首の怪我のせいで数日は熱が出ていたし、しっかりとバース検査を受けるまでは休もうと決めていたから久しぶりの登校で、学校に来るのは1週間ぶりくらいで、その間何度彼から呼び出しがあったのかは分からない。

「よかった~!今日は居たか。マジで勘弁してくれよ……お前が居ないせいで朔間さんめちゃくちゃ機嫌悪いんだって」

「…それはごめんなさい」

不良さんは本当に参っているのかよかったと何度も繰り返し言っていて、もしかしたら八つ当たりで何人か被害にあってるかもしれないなと思った。

「朔間さん連れてきたっすよ」

屋上の扉を開けた不良さんが時くんのことを呼ぶと、丁度時くんを怒らせたのか殴られそうになっていた不良さんの胸ぐらを彼がぱっと離した。

時くんがゆっくりとこっちを見て、視線が交わる。

身体の奥から感じるこの多幸感は僕がΩだから感じるものだったんだと今なら理解出来た。

時くんの目を見て視線を外せない僕に彼が近づいてきて、目の前に立った彼が僕の首を見てからまた僕の顔に視線を戻した。

「なんで来なかった」

「色々忙しくて休んでたから」

端折って答えると時くんは僕の腕を掴んで早足に屋上から出ていく。

引っ張られながら時くんの予測不可能な行動にも慣れてきたなって心の中で苦笑いして、黙ってついて行くと彼はいつも使っている空き教室へと入ってどこから出したのか教室の鍵を閉めた。

「勝手に休んでじゃねえ」

床に投げ捨てられて尻もちを着いた僕に時くんが理不尽にそんなことを言ってくるから、僕は今度こそ彼に向かって苦笑いを浮かべる。

「そんな事言われても困っちゃうよ」

それに苛立った時くんが僕の目の前に屈んで僕の頭を掴んだ。

掴まれているのに力はあまり入っていなくて痛みは感じない。

「何してた」

それは休んでた時ってこと?

「熱があったから」

病院に行ったことは言わない。
言いたくないと思う。

僕はβのままでいたかった。

βじゃないと駄目なんだ。

そうじゃないと時くんのことをもっと欲しくなってしまうから。

「他には」

「なにも」

何を聞きたいんだろう。
なんて言わせたいのかな。

どんどんと彼がわからなくなってくる。

彼とこうやって話す前は時くんのことをなんでも知っている自信があったし、誰に聞かれてもスラスラと答えられると自負していた。

今はそんな自信どこにも無い。

「その指は」

「切っちゃったんだ。大したことないよ」

ジロジロと僕の全身を見て僕に変わったところが無いかを確認する彼を僕も同じように見つめる。

少し髪が伸びたんじゃない?
疲れてるのかな…クマが酷い。
なんでそんなにイライラしてるの?

つい眉間のシワをグリグリしたくなる。

「首、見せろよ」

そう言って僕の同意も聞かずに包帯を雑に取り去った彼は治りかけて薄くなった歯型を指でなぞっておもむろにそこに顔を近づけた。

「……っ……」

ツプリとまた犬歯が皮膚を破る感覚がして僕は痛みに眉を寄せる。

治りかけていたのにって思いつつも密着した身体から感じる熱や彼の匂いに酔いそうになってそんなことどうでも良くなってくる。

「……痛いよ」

「だろうな」

噛んだと思ったら首周りに執拗にキスを落としてくる時くんに抗議してみたけれど止めてくれる気は無さそうだ。

なんでこんなことって思う。

いつも僕のことを雑に扱う癖に、こうやってたまに独占欲みたいなものを出してくるからこんがらがって訳が分からなくなるんだ。

ストーカーしてた時期に戻りたい。

ただ見てるだけでよかった。
それだけで充分だった。

「なに考えてんだよ」

時くんが別のことを考えていた僕を咎めるように僕の開かれたワイシャツから覗く肩に噛み付いた。

「時くん、なんでこんなことするの」

僕の口から漏れた疑問はしっかりと彼の耳に届いているはずなのに、そんな疑問受け付けないって言うみたいにまた噛まれて僕はとうとう為す術なく彼に身を委ねるしかなくなる。
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