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捜索と贈物
5(事務所にて)
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「イズが居なくなってもう1週間ですよ!警察は何をしてるんですか!」
イズのマネージャーをしている水川が上司の竹内に涙ながらに訴えた。今にも泣き叫び始めそうな水川の様子に竹内は困り顔を浮かべる。
外に出てくると言ったきり帰ってこないイズのことを事務所も人を回して探している。しかし、未だにイズの痕跡すら見つけられない状態だ。
「……私が悪いんです」
「自分を責めるな」
水川が新人の時に教育係をしていた竹内は、水川の責任感の強さをよく理解しているつもりだ。それに彼女が熱意を注いでイズのマネージャーをしていたことも知っている。
だからこそ今回のことで落ち込んでいる彼女を、管理不足だと責めることは出来ない。
「いいえ、私の責任です……。あの日、イズが突然、もうテレビ番組には出演したくないと言ってきたんです。私はそれに我儘を言わないでと答えてしまったんです。それでイズと口論になって、彼は外に出ていったきり戻って来ませんでした。もっと話を聞いてあげていればこんなことにならなかったかもしれないと思うと……」
「水川、起きてしまったことは変えられないし、今後悔したところでイズは帰っては来ない。悔やんでいる時間があるならイズの行きそうな場所の1つでも思い出してみろ。お前が1番イズのことを分かっているはずだろう」
竹内からの叱責に水川は微かに溢れていた涙を我慢して、必死に思考を巡らせる。
まだ入社して2年目のある日、路上で一人、歌を歌っていたイズに声をかけたのがすべての始まりだった。
まばらな観客を目の前にアップテンポの自作曲を歌う姿に魅入られた水川は、歌い終えたイズに名刺を手渡しながら、歌手にならないかとスカウトを掛けたのだ。
その声掛けにイズが即答で了承の返事を返してくれた事に驚きながらも、本当に嬉しかったことを水川はよく覚えていた。
あれから二人三脚でここまで歩んできた。あっという間に人気歌手まで上り詰めたイズの才能を目の当たりにしながら、そんな彼を見つけることのできた自分が誇らしかった。
だから、おごってしまっていたのかもしれない。
イズのマネージャーである水川は何時だってイズにとって1番の味方であるべきだというのに、それを蔑ろにしてしまっていた自分を水川は酷く責めている。
「……そういえば良く行くカフェがあったはず……」
「休暇をやるから行ってこい」
「っ、ありがとうございます」
お辞儀をする水川に竹内が早く行けと答えた。それを聞いた水川はもう一度お礼を伝えてから竹内のオフィスを後にする。
ヒールを鳴らしながら足早に事務所を出た水川は車に乗り込むと、目的のカフェに向かって車を走らせた。
イズのマネージャーをしている水川が上司の竹内に涙ながらに訴えた。今にも泣き叫び始めそうな水川の様子に竹内は困り顔を浮かべる。
外に出てくると言ったきり帰ってこないイズのことを事務所も人を回して探している。しかし、未だにイズの痕跡すら見つけられない状態だ。
「……私が悪いんです」
「自分を責めるな」
水川が新人の時に教育係をしていた竹内は、水川の責任感の強さをよく理解しているつもりだ。それに彼女が熱意を注いでイズのマネージャーをしていたことも知っている。
だからこそ今回のことで落ち込んでいる彼女を、管理不足だと責めることは出来ない。
「いいえ、私の責任です……。あの日、イズが突然、もうテレビ番組には出演したくないと言ってきたんです。私はそれに我儘を言わないでと答えてしまったんです。それでイズと口論になって、彼は外に出ていったきり戻って来ませんでした。もっと話を聞いてあげていればこんなことにならなかったかもしれないと思うと……」
「水川、起きてしまったことは変えられないし、今後悔したところでイズは帰っては来ない。悔やんでいる時間があるならイズの行きそうな場所の1つでも思い出してみろ。お前が1番イズのことを分かっているはずだろう」
竹内からの叱責に水川は微かに溢れていた涙を我慢して、必死に思考を巡らせる。
まだ入社して2年目のある日、路上で一人、歌を歌っていたイズに声をかけたのがすべての始まりだった。
まばらな観客を目の前にアップテンポの自作曲を歌う姿に魅入られた水川は、歌い終えたイズに名刺を手渡しながら、歌手にならないかとスカウトを掛けたのだ。
その声掛けにイズが即答で了承の返事を返してくれた事に驚きながらも、本当に嬉しかったことを水川はよく覚えていた。
あれから二人三脚でここまで歩んできた。あっという間に人気歌手まで上り詰めたイズの才能を目の当たりにしながら、そんな彼を見つけることのできた自分が誇らしかった。
だから、おごってしまっていたのかもしれない。
イズのマネージャーである水川は何時だってイズにとって1番の味方であるべきだというのに、それを蔑ろにしてしまっていた自分を水川は酷く責めている。
「……そういえば良く行くカフェがあったはず……」
「休暇をやるから行ってこい」
「っ、ありがとうございます」
お辞儀をする水川に竹内が早く行けと答えた。それを聞いた水川はもう一度お礼を伝えてから竹内のオフィスを後にする。
ヒールを鳴らしながら足早に事務所を出た水川は車に乗り込むと、目的のカフェに向かって車を走らせた。
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