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捜索と贈物
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~~♪~♪♪
覚束無い足取りで街路樹の並ぶ広場の一角を通った時、不意に歌声が耳に届いた。透明感のある高くてでも聴き心地の良い高音。耳にしたことの無い歌詞のはずなのにスっと俺の心に入り込んでくるその曲から意識がそらせない。
その歌声の主を探すために辺りを見渡せば、広場の済でギター片手に1人歌を歌っている少年の姿が目に止まった。
それがイズだった。
幼さの残る顔に似つかない少しだけ張り詰めた空気感が彼の周りを支配している。観客は誰も居ない。
フラフラと彼に近づくと、少し距離を開けた所に立ち止まって耳を澄ませる。
この瞬間、その場に居る彼の客は俺だけだった。俺に気がついた彼がちろりと俺の方へと視線を向けた。深いブラウンの瞳と目が合って、何故か胸が跳ねる。
柔らかくて良く透る、優しい声が全身を満たして、この一瞬だけは現実から隔離されたように感じて心が安らいでいく。
バラード調の切ない失恋を歌ったその曲が、その時の俺の心にカチリと当てはまって、恋人や友達との思い出が頭の中を駆け巡り、気がつくと彼の目の前にしゃがみ込んで涙を溢れさせていた。
どうして俺の周りからは人が居なくなっていくのだろう。どうして俺は生きているんだ。自分だけが不幸な道を歩いている気がしていた。辛くて、苦しくて、孤独で、悲しい。
そんな心が彼の歌声と曲に救われた気がしたんだ。
「なんか辛いことでもあった?」
「……恋人に振られたんだ……他にも沢山あるけれど……」
「ふーん」
慰めるでもなくただ相槌を打って、また歌を歌い出した彼に笑みを浮かべる。その冷たくも取れる態度が俺には有難く感じたんだ。
無駄に詮索されるよりも、ただ寄り添うようなその態度が好ましく思えた。
彼が歌っている曲は先程の曲と似ているしっとりしとしたバラード曲。けれど、失恋を乗り越えて前に進もうと促すような歌詞に、彼なりに励ましてくれているのだと直ぐに気がついた。不器用な優しさが嬉しいと素直に思う。
「それ販売してるのかな」
歌い終わった彼の足元を指さして尋ねる。そこには全然減っていない様に見えるCDの山。自分で作ったのだろうか。デザインも何も無い透明なケースに真っ白なCD―ROMがやけに目に付く。
「タダであげるよ」
そう言って手に取ったCDを彼が差し出してくれる。
「それは申し訳ないよ」
きっと頑張って作ったのだろうそれを受け取ることが何故だか戸惑われた。それにこのCDには計り知れない価値がある気がしたんだ。
「いいよ。あんたが俺の最初の客だから」
「……それでもやっぱりただは駄目だよ。はい、これ。お釣りは好きな様に使っていいから」
ヨレヨレの1万円札を手渡して、下手くそに笑ってみせる。驚いた顔で固まる彼の手に1万円札を押し付けて、彼の手からCDを受け取った。壊さないようにそっと鞄へと仕舞う。
「多すぎ」
「お礼だよ」
俺の心を救ってくれた君へのお礼。そんな端金じゃ足りないけれど、生憎持ち合わせがそれしかないから。
「訳わかんない」
分からなくていいよって俺はあえて心の中で呟いて、ありがとうって伝えてから彼に背を向けた。
目の前は相変わらずの真っ暗闇。それなのに1歩前へと踏み出した瞬間に、何かが少しずつ晴れていく気がしたんだ。それはただの気のせいだと分かっている。でも、きっと俺はもう大丈夫だって思えた。
覚束無い足取りで街路樹の並ぶ広場の一角を通った時、不意に歌声が耳に届いた。透明感のある高くてでも聴き心地の良い高音。耳にしたことの無い歌詞のはずなのにスっと俺の心に入り込んでくるその曲から意識がそらせない。
その歌声の主を探すために辺りを見渡せば、広場の済でギター片手に1人歌を歌っている少年の姿が目に止まった。
それがイズだった。
幼さの残る顔に似つかない少しだけ張り詰めた空気感が彼の周りを支配している。観客は誰も居ない。
フラフラと彼に近づくと、少し距離を開けた所に立ち止まって耳を澄ませる。
この瞬間、その場に居る彼の客は俺だけだった。俺に気がついた彼がちろりと俺の方へと視線を向けた。深いブラウンの瞳と目が合って、何故か胸が跳ねる。
柔らかくて良く透る、優しい声が全身を満たして、この一瞬だけは現実から隔離されたように感じて心が安らいでいく。
バラード調の切ない失恋を歌ったその曲が、その時の俺の心にカチリと当てはまって、恋人や友達との思い出が頭の中を駆け巡り、気がつくと彼の目の前にしゃがみ込んで涙を溢れさせていた。
どうして俺の周りからは人が居なくなっていくのだろう。どうして俺は生きているんだ。自分だけが不幸な道を歩いている気がしていた。辛くて、苦しくて、孤独で、悲しい。
そんな心が彼の歌声と曲に救われた気がしたんだ。
「なんか辛いことでもあった?」
「……恋人に振られたんだ……他にも沢山あるけれど……」
「ふーん」
慰めるでもなくただ相槌を打って、また歌を歌い出した彼に笑みを浮かべる。その冷たくも取れる態度が俺には有難く感じたんだ。
無駄に詮索されるよりも、ただ寄り添うようなその態度が好ましく思えた。
彼が歌っている曲は先程の曲と似ているしっとりしとしたバラード曲。けれど、失恋を乗り越えて前に進もうと促すような歌詞に、彼なりに励ましてくれているのだと直ぐに気がついた。不器用な優しさが嬉しいと素直に思う。
「それ販売してるのかな」
歌い終わった彼の足元を指さして尋ねる。そこには全然減っていない様に見えるCDの山。自分で作ったのだろうか。デザインも何も無い透明なケースに真っ白なCD―ROMがやけに目に付く。
「タダであげるよ」
そう言って手に取ったCDを彼が差し出してくれる。
「それは申し訳ないよ」
きっと頑張って作ったのだろうそれを受け取ることが何故だか戸惑われた。それにこのCDには計り知れない価値がある気がしたんだ。
「いいよ。あんたが俺の最初の客だから」
「……それでもやっぱりただは駄目だよ。はい、これ。お釣りは好きな様に使っていいから」
ヨレヨレの1万円札を手渡して、下手くそに笑ってみせる。驚いた顔で固まる彼の手に1万円札を押し付けて、彼の手からCDを受け取った。壊さないようにそっと鞄へと仕舞う。
「多すぎ」
「お礼だよ」
俺の心を救ってくれた君へのお礼。そんな端金じゃ足りないけれど、生憎持ち合わせがそれしかないから。
「訳わかんない」
分からなくていいよって俺はあえて心の中で呟いて、ありがとうって伝えてから彼に背を向けた。
目の前は相変わらずの真っ暗闇。それなのに1歩前へと踏み出した瞬間に、何かが少しずつ晴れていく気がしたんだ。それはただの気のせいだと分かっている。でも、きっと俺はもう大丈夫だって思えた。
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