上 下
10 / 21
お願い

6

しおりを挟む
「これは俺じゃない」

「イズ?」

悲しげな声でつぶやいたイズは真っ直ぐに俺の顔を見つめながら泣きそうに綺麗な微笑みを浮かべる。

「あんたは俺のことを見てくれるって約束してよ」

「また約束かい?」

「叶えてくれるでしょ」

叶えるよって言葉は喉につっかえて出てこない。それよりも君にそんな顔をさせているモノが何なのかを知りたい。

「……ねえ、イズ。俺の愛は君にだけ向けられているんだ。だから、約束なんてしなくてもいいんだよ」

だからそんな辛そうな顔をしないでよ。

「それじゃ、俺が信じられないだろ」

イズの言葉につきりと胸が傷んだけれど、俺はなんでもない振りをして、分かったよって微笑んでみせた。

「そうだイズの日用品を買ってこないといけないね」

話題を変えるために話を振ると、イズがまた手元にあったグッズを袋に放り入れる。

「テキトーに買ってきて」

「そんな!テキトーなんて駄目だよ。イズの好みでそろえてくるからね」

「俺の好みとか知ってんの?」

「当り前じゃないか。イズのことならなんだって知ってるよ」

にこにこと微笑みを浮かべながら即答すれば、イズは心底気持ち悪いものでも見るような眼で俺のことを見てきた。その瞳に見つめられるとゾクゾクしてたまらなく気分が上がってくる。

「なら俺の本名も知ってるわけ?」

「もちろんだよ。世研伊月よとぎ いづき君」

「……やっぱキモイねあんた」

「あんたじゃなくて護だよ。本田護ほんだ まもる

「そう」

イズの柔らかな髪を撫でながら教えてあげると、興味なさげに相槌を打ったイズが視線を手元へと戻す。その冷たい反応にクスリと笑みがこぼれた。

歌手としてのイズはどんな時でも笑顔を絶やさない。明るくて人懐っこくて、天津爛漫なイズらしいポップで元気な曲が売りだ。

けれど今目の前にいる彼はそんなイズとは全くの正反対。

笑わないしぶっきらぼう。口も悪くて、でも整いすぎた顔のせいなのかそれが良いスパイスとして彼に色気を与えている。

どちらの彼も好きだ。子犬のように愛らしいイズも、子猫のように気分屋なイズも、俺にとっては全部ひっくるめて愛してやまない伊月だから。

「何か欲しいものはあるかい」

「特にない」

そう答えたイズの視線が一瞬だけ、飾られているギターへと向けられたのを俺は見逃さなかった。

そういえばこの家に招待した日、珍しくイズは愛用しているギターを持っていなかったことを思い出す。いつもは肌身離さず持っているはずなのに……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...