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大量のポスターとグッズの山に埋もれた狭い部屋の中で、俺はテレビに映し出された彼の姿を目に焼きつけていた。

艶やかな黒髪が揺れて、それと同時に汗が飛び散る。そうして、彼は口を大きく開けて声を張りながら、ギターを掻き鳴らすんだ。

そんな彼の美声に被る観客の声援が騒音に思えて少しだけ苛立つ。

「チッ、イズの声が聴こえないだろうが。黙れよ、黙れ黙れ黙れ……」

カリカリと爪を噛みながら呟いていると、パッと場面が変わってイズのドアップが映し出された。

「ああ、イズっ……いつ見ても君は素敵だ……」

画面越しのイズを舐め回すように見つめながら、恍惚の笑みを口元へと浮かべる。

彼は俺のメシアだ。

歌唱力はピカイチで、女の子と見間違えるほどに整った中性的な顔は受けがよく女性ファンも多い。それは気に食わないことの一つ。イズが女に言い寄られているのを見るのはいい気分がしない。

スタイルはいいのにいつも奇抜なダボッとした服を着ている。俺的には他の奴らにイズの身体を見られないからありだ。

そんな彼は、誰もが知る超人気若手歌手。
アニメにドラマ、テレビ番組の主題歌まで歌ってる。最近は映画の曲が大ヒットして、ミュージック番組で取り上げられていた。

ライブのCDは場面を覚えてしまうほどに何度も見た。彼の動きを真似しろと言われれば真似できるし、彼がいつ笑うのか、どんな風に歌い出すのかまで全て答えられる。

「……ああ、俺のイズ」

会いたい。
画面越しの君じゃなく、直接会って話をしたい。いやむしろ、それ以上だってしたいと望んでいる。

どうしたら君に触れられるだろうか?毎日そればかりを考えている。画面に写ったイズの顔の輪郭を指でなぞりながらニタリと笑みを浮かべた。

「……そうだ、ここに連れてくればいいんだ」

自分が考えたにしては上出来な案が浮かんで気分が良くなる。どうしてこんなに簡単なことが今まで浮かばなかったのかと不思議に感じた。

そうと決まれば早速行動だ。

彼の大体の行動パターンは把握しているし、好みの店だって分かる。前に1度だけテレビ番組の特集の中で、常連のカフェの話をしていたのを思い出した。カフェの名前は出なかったけど直ぐに何処なのか探し当てておいたんだ。その時の自分を褒めてやりたい。

彼は週一でそこを利用していると言っていたし、数週間くらい張り込みするくらい訳は無いだろう。

「早く会いたいよ……イズ」

イズが印刷されているポスターへと虚ろな視線を向ける。
もう偽物なんていらない。偽物を眺めては愁訴感に苛まれる日々は終わりだ。

だってもうすぐ君に手が届くから。

「ふふふ、本物の君を手に入れに行くからね」

呟いた言葉はテレビから流れているイズの歌声に掻き消された。
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