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未来編
②
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次の日、哲治さんはやけに神妙な面持ちで、僕のことを資料が置かれた倉庫へと呼び出した。
「昨日の言葉、冗談ってやつ……あれ嘘なんだろ?」
確信をつかれて驚く。まさか彼から話を切り出して来るとは思っていなかったし、それを聞いてどうしたいのかすらわからない。
ただ、真っ直ぐに僕のことを見つめる瞳には、純粋な心配の色が浮かんでいるのがわかって苦しさが増す気がした。
「……本当に冗談で……」
「お前は冗談とかそういうの得意な人間じゃないって知ってる」
真剣な眼差し。なにもかも見透かすようなその瞳が今だけは苦手だと思う。
放って置いてくれたならよかったのに……。このままなにも見なかったフリをしてくれれば、なにもかも諦められたはずだった。
「冗談じゃなかったらどうするんですか?あなたには恋人がいて、僕は……っ、放っておいてください」
流れる涙を撒き散らしながら強い口調で伝える。胸が痛い。助けて欲しい……。なのに、手を伸ばすことすらできない。
先輩がそっと背をさすってくれる。痛みが引いていくのがわかった。
それなのに苦しいんだ。くるしくて、せつなくて、今にも消えてしまいたい……。
「凍結症は症状の緩和ができるってネットに書いてあった。俺はお前の気持ちには応えてやれないけど、お前が他の人を好きになって病が治るまで緩和する手伝いはできるはずだ」
「……っ」
本当に、なんて優しい人なんだろう。
優しすぎて……まるで、悪魔のようだと思う。甘い言葉で誘惑してくるのに、最後にはどん底に落とされる。
それなのに、そうとわかっているのに、僕は彼を拒否することなんてできなかった。
「ただ、撫でてくれるだけで大丈夫です。隣にいてくれるだけでもいいです……」
哲治さんと恋人さんの仲を引き裂くつもりなんてなかった。
ただ、彼の優しさに甘えすぎて、周りが見えていなかったのだと思う。
症状が出る度に、ただ背を撫でてくれる哲治さん。決してそれ以上の接触もなく、抱きしめてくれることすらなかった。
それだけで幸せだった。
「香水つけてるのか?」
「……凄くいい匂いだったから」
香水を付け始めたのは、少しでも彼に僕の存在を刻みたかったから。僕は卑怯者で、それがどんな結果になるのかすら想像していなかった。
ただ、少しでも哲治さんとの繋がりが欲しかっただけなんだ。欲が膨れ上がっていく。その度に、凍結症の症状は悪化していった。
「……恋人に浮気をしていると言われてしまった……」
ある日、苦しそうな声で彼に伝えられて改めて気づかされた。僕のしていることは最低な行為なのだと。そして、哲治さんと恋人さんを深く傷つけてしまっていることに……。
「でもっ、僕はあなたがいないとっ、僕はっ」
それなのに、手放せなかった。
なにも壊すつもりなんてなくて……。でも、僕は結局自分のことばかり。
すがりついて、泣いて、あなたがいないとダメなんだと……助けてくれると言ったじゃないかと……泣き叫んで。
困った顔を浮かべる彼は、泣き崩れる僕を拒否できなかった。僕は哲治さんの良心に漬け込んで、なにもかもを壊してしまったんだ。
「昨日の言葉、冗談ってやつ……あれ嘘なんだろ?」
確信をつかれて驚く。まさか彼から話を切り出して来るとは思っていなかったし、それを聞いてどうしたいのかすらわからない。
ただ、真っ直ぐに僕のことを見つめる瞳には、純粋な心配の色が浮かんでいるのがわかって苦しさが増す気がした。
「……本当に冗談で……」
「お前は冗談とかそういうの得意な人間じゃないって知ってる」
真剣な眼差し。なにもかも見透かすようなその瞳が今だけは苦手だと思う。
放って置いてくれたならよかったのに……。このままなにも見なかったフリをしてくれれば、なにもかも諦められたはずだった。
「冗談じゃなかったらどうするんですか?あなたには恋人がいて、僕は……っ、放っておいてください」
流れる涙を撒き散らしながら強い口調で伝える。胸が痛い。助けて欲しい……。なのに、手を伸ばすことすらできない。
先輩がそっと背をさすってくれる。痛みが引いていくのがわかった。
それなのに苦しいんだ。くるしくて、せつなくて、今にも消えてしまいたい……。
「凍結症は症状の緩和ができるってネットに書いてあった。俺はお前の気持ちには応えてやれないけど、お前が他の人を好きになって病が治るまで緩和する手伝いはできるはずだ」
「……っ」
本当に、なんて優しい人なんだろう。
優しすぎて……まるで、悪魔のようだと思う。甘い言葉で誘惑してくるのに、最後にはどん底に落とされる。
それなのに、そうとわかっているのに、僕は彼を拒否することなんてできなかった。
「ただ、撫でてくれるだけで大丈夫です。隣にいてくれるだけでもいいです……」
哲治さんと恋人さんの仲を引き裂くつもりなんてなかった。
ただ、彼の優しさに甘えすぎて、周りが見えていなかったのだと思う。
症状が出る度に、ただ背を撫でてくれる哲治さん。決してそれ以上の接触もなく、抱きしめてくれることすらなかった。
それだけで幸せだった。
「香水つけてるのか?」
「……凄くいい匂いだったから」
香水を付け始めたのは、少しでも彼に僕の存在を刻みたかったから。僕は卑怯者で、それがどんな結果になるのかすら想像していなかった。
ただ、少しでも哲治さんとの繋がりが欲しかっただけなんだ。欲が膨れ上がっていく。その度に、凍結症の症状は悪化していった。
「……恋人に浮気をしていると言われてしまった……」
ある日、苦しそうな声で彼に伝えられて改めて気づかされた。僕のしていることは最低な行為なのだと。そして、哲治さんと恋人さんを深く傷つけてしまっていることに……。
「でもっ、僕はあなたがいないとっ、僕はっ」
それなのに、手放せなかった。
なにも壊すつもりなんてなくて……。でも、僕は結局自分のことばかり。
すがりついて、泣いて、あなたがいないとダメなんだと……助けてくれると言ったじゃないかと……泣き叫んで。
困った顔を浮かべる彼は、泣き崩れる僕を拒否できなかった。僕は哲治さんの良心に漬け込んで、なにもかもを壊してしまったんだ。
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