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別れを告げました
③【最終話】
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美心に着くと、緒深さんが外で待ってくれていた。それに驚いて駆け寄る。
「症状が……」
すぐに手を握られて、症状が落ち着いていった。同時に張り詰めていた糸が切れる。手を握ったままその場に座り込み、顔を膝に埋めてひたすら泣いた。そんな俺の背を緒深さんがずっと撫でてくれていた。
落ち着いた頃、中へと入ると緒深さんと一緒にコーヒーを作った。初めてここで話した日のように、並んで席に着き片手でコーヒーカップを弄ぶ。
「……俺、一方的に別れを告げて逃げてきちゃいました」
「……そうか」
「哲治と浮気相手の子が並んでるのに、悲しいってあんまり思えなくて……緒深さんのことばかり思い浮かべてたんです」
最低ですよね。
そう言って笑みを返すと、緒深さんが俺の短い黒髪を撫でてくれる。
「頑張ったな」
ギュッと唇を噛み締めて、うつむく。こんな顔、緒深さんには見られたくない。悲しくて涙が溢れてくるのに、緒深さんに撫でられるだけで嬉しくなって、口元が緩む。
哲治を裏切ったのは俺も一緒だ。彼を責めたりなんてできない。
溢れてくる涙を、緒深さんがテッシュで拭いてくれる。
顎をそっと掴まれて、顔を上げると唇が重ねられた。
「それはずるいですっ」
ますます涙が溢れてくる。
哲治と未来くんはこれから先どうしていくのだろう。それは俺にはもう関係のないことだ。
大好きで仕方なかった人だった。紛れもなく燃えるように熱い純愛だった。
そんな俺の熱を取り去り、心を救ってくれたのは、雪の結晶のように冷たくも眩い穏やかな人。
「緒深さんっ、俺、あなたのことが好きなんです」
抱きついた俺のことを大きな身体が包み込んでくれる。抱きしめられて、また唇が重なった。祝福してくれているかのように、花々が隙間風に揺られて踊る。
「俺も美鶴のことが好きだ」
触れ合う度に感じる穏やかな温度。それが俺の心を静かに暖めてくれる。絡み合う舌先ですら、熱さを感じない。でもそれでいい。
それが俺達の熱と愛だから。
終わり
「症状が……」
すぐに手を握られて、症状が落ち着いていった。同時に張り詰めていた糸が切れる。手を握ったままその場に座り込み、顔を膝に埋めてひたすら泣いた。そんな俺の背を緒深さんがずっと撫でてくれていた。
落ち着いた頃、中へと入ると緒深さんと一緒にコーヒーを作った。初めてここで話した日のように、並んで席に着き片手でコーヒーカップを弄ぶ。
「……俺、一方的に別れを告げて逃げてきちゃいました」
「……そうか」
「哲治と浮気相手の子が並んでるのに、悲しいってあんまり思えなくて……緒深さんのことばかり思い浮かべてたんです」
最低ですよね。
そう言って笑みを返すと、緒深さんが俺の短い黒髪を撫でてくれる。
「頑張ったな」
ギュッと唇を噛み締めて、うつむく。こんな顔、緒深さんには見られたくない。悲しくて涙が溢れてくるのに、緒深さんに撫でられるだけで嬉しくなって、口元が緩む。
哲治を裏切ったのは俺も一緒だ。彼を責めたりなんてできない。
溢れてくる涙を、緒深さんがテッシュで拭いてくれる。
顎をそっと掴まれて、顔を上げると唇が重ねられた。
「それはずるいですっ」
ますます涙が溢れてくる。
哲治と未来くんはこれから先どうしていくのだろう。それは俺にはもう関係のないことだ。
大好きで仕方なかった人だった。紛れもなく燃えるように熱い純愛だった。
そんな俺の熱を取り去り、心を救ってくれたのは、雪の結晶のように冷たくも眩い穏やかな人。
「緒深さんっ、俺、あなたのことが好きなんです」
抱きついた俺のことを大きな身体が包み込んでくれる。抱きしめられて、また唇が重なった。祝福してくれているかのように、花々が隙間風に揺られて踊る。
「俺も美鶴のことが好きだ」
触れ合う度に感じる穏やかな温度。それが俺の心を静かに暖めてくれる。絡み合う舌先ですら、熱さを感じない。でもそれでいい。
それが俺達の熱と愛だから。
終わり
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