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見られてしまいました
①
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結局ちゃんと話し合いもできないまま、哲治は仕事があるからと家に帰っていった。一緒に帰ろうと言われたけれど、アパートに戻る気分にはなれなくて断りを入れて事務所で生活することに決めた。
「すぐに直してあげられなくてごめんね」
割ってしまった植木鉢を処理して、撫子を他の鉢へと植え直す。自分の割れてしまった心もこんな風に簡単に捨て去ることができたならどんなに楽だろう。
ため息を零しつつ、表札をひっくり返す。
店を開けると、いつもよりも沢山のお客さんが来てくれた。昨日は臨時休業を取ってしまったから。中には心配して声をかけてくださる常連さんも居て、少しだけ心が軽くなった。
昼を過ぎれば少しだけ客足が穏やかになる。
その時間に、鉢植えの並べ替えや手入れ等をするために店の外に出る。徒長した花を整えてあげていると、影が見えて顔を上げた。
「今日も来てくれたんですね」
少し緊張した表情で緒深さんが目の前に立っている。その表情が緒深さんを少しだけ幼く見せていて、可愛いなって思った。
「もうすぐ閉店なんですけど」
「なら、ここで待っている」
店の前に置かれた休憩用のベンチに緒深さんが腰掛けた。いつもは近所のおばあちゃんやご婦人が世間話をするために使うことが多いそれ。元々、花柄の装飾が施されていた鉄製のガーデンチェアを自分で白く塗ったもので、結構お気に入りだ。
凄く綺麗な顔をした緒深さんが座ると様になる。
一度店内へ入り、飲み物を作ってまた外に出た。緒深さんに手渡してあげると、遠慮がちに受け取ってもらえて嬉しくなる。
「すぐ終わらせますね」
「焦らなくていい。急に来たのは俺の方だから」
「ふふ、ありがとうございます。でも、はやく緒深さんと話がしたいんです」
先程よりも俊敏に手を動かしていく。
時折、背中に視線を感じたけれど全然嫌なものではなかった。切り終えて山積みになった花を袋に入れてゴミ箱へ持っていく。それから、手を洗って緒深さんの元へと戻った。
「お待たせしました」
表札をCLOSEに戻し、緒深さんへと手を差し出す。そっと重ねられた手に指を絡めて、中へと入ると、この間と同じ席に腰掛けた。
「なにかあったのか。目が赤い」
指先が目尻に触れてくる。。そんなことをされると甘えたくなってしまう。思わず空いている手で軽く彼の手を押さえて擦り寄ってしまった。
「っ、あんは距離感がおかしいって言われないか」
「緒深さんもでしょ」
きっとこれ以上踏み込んだらお互いに戻れなくなるとわかっている。それでも求め合いたいと願うのは、アイスとフローズンという共依存の関係で結ばれてしまっているからかもしれない。
「すぐに直してあげられなくてごめんね」
割ってしまった植木鉢を処理して、撫子を他の鉢へと植え直す。自分の割れてしまった心もこんな風に簡単に捨て去ることができたならどんなに楽だろう。
ため息を零しつつ、表札をひっくり返す。
店を開けると、いつもよりも沢山のお客さんが来てくれた。昨日は臨時休業を取ってしまったから。中には心配して声をかけてくださる常連さんも居て、少しだけ心が軽くなった。
昼を過ぎれば少しだけ客足が穏やかになる。
その時間に、鉢植えの並べ替えや手入れ等をするために店の外に出る。徒長した花を整えてあげていると、影が見えて顔を上げた。
「今日も来てくれたんですね」
少し緊張した表情で緒深さんが目の前に立っている。その表情が緒深さんを少しだけ幼く見せていて、可愛いなって思った。
「もうすぐ閉店なんですけど」
「なら、ここで待っている」
店の前に置かれた休憩用のベンチに緒深さんが腰掛けた。いつもは近所のおばあちゃんやご婦人が世間話をするために使うことが多いそれ。元々、花柄の装飾が施されていた鉄製のガーデンチェアを自分で白く塗ったもので、結構お気に入りだ。
凄く綺麗な顔をした緒深さんが座ると様になる。
一度店内へ入り、飲み物を作ってまた外に出た。緒深さんに手渡してあげると、遠慮がちに受け取ってもらえて嬉しくなる。
「すぐ終わらせますね」
「焦らなくていい。急に来たのは俺の方だから」
「ふふ、ありがとうございます。でも、はやく緒深さんと話がしたいんです」
先程よりも俊敏に手を動かしていく。
時折、背中に視線を感じたけれど全然嫌なものではなかった。切り終えて山積みになった花を袋に入れてゴミ箱へ持っていく。それから、手を洗って緒深さんの元へと戻った。
「お待たせしました」
表札をCLOSEに戻し、緒深さんへと手を差し出す。そっと重ねられた手に指を絡めて、中へと入ると、この間と同じ席に腰掛けた。
「なにかあったのか。目が赤い」
指先が目尻に触れてくる。。そんなことをされると甘えたくなってしまう。思わず空いている手で軽く彼の手を押さえて擦り寄ってしまった。
「っ、あんは距離感がおかしいって言われないか」
「緒深さんもでしょ」
きっとこれ以上踏み込んだらお互いに戻れなくなるとわかっている。それでも求め合いたいと願うのは、アイスとフローズンという共依存の関係で結ばれてしまっているからかもしれない。
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