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緊迫した帰り道
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勢いよく馬車の中に押し込まれて、椅子に腰を打付ける。床に座り込むと、顔の真横辺りの座面に片足が置かれて、上を見上げる。僕のことを見下ろしているノワール様の表情は、隠すことのない不機嫌さを帯びていた。
「なにを嗅ぎ回っている」
「なんのことだかわかりません……」
今すぐにでも目をそらしたいけれど、そうしたら隠し事をしていることがバレてしまう。だから、怖いけれどノワール様の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。冷や汗が背中を伝って流れていくのが感じられる。
「……そうか」
永遠にも感じる沈黙のあと、ノワール様がゆっくりと足を下ろす。それに安心したのもつかの間、僕の上に馬乗りになってきたノワール様が顎を掴んでくる。
「お前を見ていると本当に腹が立つ。聖女の能力を与えられたというだけのただの平民のくせにちやほやされやがって」
「いっ、痛いです」
手に力が込められて、痛みに涙が滲んできた。歯を食いしばって耐えていると、服を乱されて、肩に思い切り歯を立てられる。
「っ!」
じわりと血が滲んできて、生理的な涙があふれてきた。どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのだろう。恐怖と怒りが綯い交ぜになって吐きそうだ。
「誕生日が来れば、次は項を噛んでやる。そうすれば俺の立場は安泰だ。誰も……第一王子ですら俺を見下すことはできない」
「ぅあ、やめっ……」
再び同じ個所を歯で抉られて、くぐもった声が漏れる。口が離れると傷口を指で押されて、更に痛みが増した。でも少しずつ恐怖が薄れていく。どうしてだか、第二王子が酷くなにかに怯えているように感じるからかもしれない。
「俺は王族だ。俺に従っていればいいんだ! お前だけは俺を見下すことは許さない!!」
第一王子が生きていることを恐れているのだろうか。でも、それだけじゃない気がする。わざわざ自分が王族だと誇示するなんておかしな話だ。
「……ノワール様は第二王子様です……誰よりも尊い身分のお方だとみんな知っています」
「っ、チッ、あたりまえだ」
僕から離れて、座り直したノワール様を目で追う。服を整えて、恐る恐る対面の椅子に腰かけた。数秒前の怒りと騒音が嘘のように、馬車の中は静まり返っている。その奇妙な静けさの中、車輪の音だけが神殿に向かって音を立てて進んでいく。
「なにを嗅ぎ回っている」
「なんのことだかわかりません……」
今すぐにでも目をそらしたいけれど、そうしたら隠し事をしていることがバレてしまう。だから、怖いけれどノワール様の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。冷や汗が背中を伝って流れていくのが感じられる。
「……そうか」
永遠にも感じる沈黙のあと、ノワール様がゆっくりと足を下ろす。それに安心したのもつかの間、僕の上に馬乗りになってきたノワール様が顎を掴んでくる。
「お前を見ていると本当に腹が立つ。聖女の能力を与えられたというだけのただの平民のくせにちやほやされやがって」
「いっ、痛いです」
手に力が込められて、痛みに涙が滲んできた。歯を食いしばって耐えていると、服を乱されて、肩に思い切り歯を立てられる。
「っ!」
じわりと血が滲んできて、生理的な涙があふれてきた。どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのだろう。恐怖と怒りが綯い交ぜになって吐きそうだ。
「誕生日が来れば、次は項を噛んでやる。そうすれば俺の立場は安泰だ。誰も……第一王子ですら俺を見下すことはできない」
「ぅあ、やめっ……」
再び同じ個所を歯で抉られて、くぐもった声が漏れる。口が離れると傷口を指で押されて、更に痛みが増した。でも少しずつ恐怖が薄れていく。どうしてだか、第二王子が酷くなにかに怯えているように感じるからかもしれない。
「俺は王族だ。俺に従っていればいいんだ! お前だけは俺を見下すことは許さない!!」
第一王子が生きていることを恐れているのだろうか。でも、それだけじゃない気がする。わざわざ自分が王族だと誇示するなんておかしな話だ。
「……ノワール様は第二王子様です……誰よりも尊い身分のお方だとみんな知っています」
「っ、チッ、あたりまえだ」
僕から離れて、座り直したノワール様を目で追う。服を整えて、恐る恐る対面の椅子に腰かけた。数秒前の怒りと騒音が嘘のように、馬車の中は静まり返っている。その奇妙な静けさの中、車輪の音だけが神殿に向かって音を立てて進んでいく。
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