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敵地へ
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パーティーのあと、正式にキャンベル公爵様から屋敷への招待状が届いた。敵地に赴くのは怖いけれど、上手く行けばノワール様と離縁するための情報を見つけられるかもしれない。
(キャンベル公爵様とノワール様の間にはなにかがあるはずだ……)
当日、ノワール様と共に馬車に乗り公爵家へと向かう。彼と二人きりというのは嫌だけれど我慢するしかない。今日はソラリスが同行できないことも不安を煽る要因だった。
馬車の中は妙な緊張感が漂っていて、ソワソワしてしまう。怠そうに背もたれに身体を預けているノワール様を盗み見る。
「俺の指示に従っていればいい。余計なことはするな」
「……その、キャンベル公爵様とは親しいのですか」
恐る恐る尋ねてみた。少しでも情報を聞き出さなければいけない。緊張で手足が冷えきっていた。
瞬間、翡翠色の瞳が不機嫌そうな視線を向けてきた。
「聞こえなかったか? お前は俺の言うことだけ聞いていればいい。余計な詮索も行動もするな」
「っ、はい……」
酷く苛立った声音だ。まるで公爵様との関係を知られたくないような……。足元に置かれている革のスーツケースを見つめながら、怯えきってしまいそうな心を落ち着かせる。ノワール様と目を合わせたら、覚悟がすべて消え去ってしまいそうで怖い。一秒でも早く馬車から降りて、外の空気を吸いたいと思う。
屋敷に着くとキャンベル公爵様が自ら出迎えてくれた。
「招待いただきありがとうございます」
ノワール様は相変わらずキャンベル公爵様には腰が低い。二人が握手をしているのを見つめながら、ようやく二人きりの空間から逃れられたことに安堵する。
「俺と公爵は別室で話をしてくる。お前はここから動くな」
部屋に通されると、そう指示をされて頷く。先程から緊張で喉が渇ききっている。二人が部屋を出たのを見送ると、窓を開けて外を確認する。部屋に来るまでに数人使用人が歩いていたけれど、公爵家は複雑な構造をしているから隠れられる場所は多そうだ。
探りを入れるなら、二人が居なくなった今しかない。見つかれば酷い罰を受けるだろうけれど、勇気を出すしかない。
少し時間を置いて、部屋から抜け出す。怖いけどやるしかないんだ。胸に手を当てて握り込む。
(ソラリス、力を貸してっ)
使用人から隠れながら屋敷内を散策していく。二人が部屋へ戻って来るまでに、なにか見つけなければ……。
(……この部屋だけ扉が豪華だ)
扉に耳をあてて中の音を探ってみる。特になにも聴こえてこないことを確認して、おそるおそる扉を開けた。どうやら執務室みたいだ。
忍び足で卓まで近づくと、引き出しを開ける。中には書類や印が入れられているだけで、怪しそうなものはない。
(……でも、なんだろう。この違和感……)
引き出しの厚みにしては入っているものが少ない気がする。底を叩くと軽い音がして首を傾げる。引き出しの下から叩くと、底が盛り上がって中に手紙のような物があることに気がついた。一つ手に取って中を確認する。差出人はヴァーガンディー様のようだ。
(なんでヴァーガンディー様が公爵様に手紙なんて送るんだ……)
中を確認すると近況報告と、大金を用意したことが書かれてあった。近日中に渡しに行くと記されてある。他の手紙も確認してみる。
すべてにお金の件が書かれてあるようだ。時々ノワール様の近況を知らせるものもあり、手紙の一番古い年月は十五年程前。丁度王妃様が出産された頃になっている。
(ヴァーガンディー様はノワール様の件で公爵様に弱みを握られている?)
その弱みがなんなのかはハッキリとわからない。けれど、これは確実にノワール様の弱みに繋がる情報だと思う。
数枚手紙を引き抜くと袖の中に隠す。急いで片付けをして、部屋へと戻る。息を整えて、乱れた服を整えたところで部屋の扉が開いてノワール様とキャンベル公爵様が戻ってきた。
「お待たせいたしました聖女様。退屈だったでしょう」
「い、いえ、窓から見える庭がとても美しくて、観察していたらあっという間に時間が経ってしまいました」
手紙を持っていることがバレたら終わりだ。できる限り笑みを保ちながら、当たり障りのない会話をする。
「そうでしたか。では、早速お力を貸して頂ければと思います」
「ええ。手を出していただけますか」
手紙が落ちないように、細心の注意をしつつ、ゆっくりと手を取る。それから意識を手元に集中させて聖女の力を使う。こんな人達に力を使うのは嫌だけれど、今は我慢するしかない。バレていないか気になって手が震える。
「やけに震えているな」
ノワール様の声に肩を跳ねさせた。慌てたらだめだ。すべてが台無しになってしまう。
「少し肌寒くて……」
「ははは、聖女は可憐な姿と相まってか弱いようだ。庇護欲をくすぐられますな」
「……ええ、そうですね」
キャンベル公爵様の言葉が幸いにも助けになって、ノワール様が引いてくれた。安堵すると、気を取り直して手に力を込める。
「最近胸が痛くて困っていたのですが、聖女様の癒しのおかげか痛みが引いていきますな」
「それはよかったです」
愛想笑いを浮かべつつ、奉仕活動を終える。手を離すと、ノワール様が僕の腕を掴んで自分の方に引き寄せてきた。
「我々は先に帰らせて頂きます。約束の物も届けましたので」
(約束の物ってもしかしてお金のこと?)
やっぱりノワール様も、ヴァーガンディー様とキャンベル公爵様の件に関与しているんだ。
「ええ、お気をつけてお帰りください。王妃様にもお身体にお気をつけるようお伝えください」
よく見ると、持ってきていた革のスーツケースがない。手紙に近日中にお金を用意すると書かれてあったけれど、やっぱりお金を渡していたんだ。
「行くぞ」
「はい……」
荒々しく手を引かれる。気遣いの欠片もない言動に腹が立つ。掴まれた手が痛くて眉を寄せる。ただ、それよりも手紙を隠し持っていることがバレないか心配で仕方ない。でも幸いノワール様はまったく気にしていない様子だ。
(キャンベル公爵様とノワール様の間にはなにかがあるはずだ……)
当日、ノワール様と共に馬車に乗り公爵家へと向かう。彼と二人きりというのは嫌だけれど我慢するしかない。今日はソラリスが同行できないことも不安を煽る要因だった。
馬車の中は妙な緊張感が漂っていて、ソワソワしてしまう。怠そうに背もたれに身体を預けているノワール様を盗み見る。
「俺の指示に従っていればいい。余計なことはするな」
「……その、キャンベル公爵様とは親しいのですか」
恐る恐る尋ねてみた。少しでも情報を聞き出さなければいけない。緊張で手足が冷えきっていた。
瞬間、翡翠色の瞳が不機嫌そうな視線を向けてきた。
「聞こえなかったか? お前は俺の言うことだけ聞いていればいい。余計な詮索も行動もするな」
「っ、はい……」
酷く苛立った声音だ。まるで公爵様との関係を知られたくないような……。足元に置かれている革のスーツケースを見つめながら、怯えきってしまいそうな心を落ち着かせる。ノワール様と目を合わせたら、覚悟がすべて消え去ってしまいそうで怖い。一秒でも早く馬車から降りて、外の空気を吸いたいと思う。
屋敷に着くとキャンベル公爵様が自ら出迎えてくれた。
「招待いただきありがとうございます」
ノワール様は相変わらずキャンベル公爵様には腰が低い。二人が握手をしているのを見つめながら、ようやく二人きりの空間から逃れられたことに安堵する。
「俺と公爵は別室で話をしてくる。お前はここから動くな」
部屋に通されると、そう指示をされて頷く。先程から緊張で喉が渇ききっている。二人が部屋を出たのを見送ると、窓を開けて外を確認する。部屋に来るまでに数人使用人が歩いていたけれど、公爵家は複雑な構造をしているから隠れられる場所は多そうだ。
探りを入れるなら、二人が居なくなった今しかない。見つかれば酷い罰を受けるだろうけれど、勇気を出すしかない。
少し時間を置いて、部屋から抜け出す。怖いけどやるしかないんだ。胸に手を当てて握り込む。
(ソラリス、力を貸してっ)
使用人から隠れながら屋敷内を散策していく。二人が部屋へ戻って来るまでに、なにか見つけなければ……。
(……この部屋だけ扉が豪華だ)
扉に耳をあてて中の音を探ってみる。特になにも聴こえてこないことを確認して、おそるおそる扉を開けた。どうやら執務室みたいだ。
忍び足で卓まで近づくと、引き出しを開ける。中には書類や印が入れられているだけで、怪しそうなものはない。
(……でも、なんだろう。この違和感……)
引き出しの厚みにしては入っているものが少ない気がする。底を叩くと軽い音がして首を傾げる。引き出しの下から叩くと、底が盛り上がって中に手紙のような物があることに気がついた。一つ手に取って中を確認する。差出人はヴァーガンディー様のようだ。
(なんでヴァーガンディー様が公爵様に手紙なんて送るんだ……)
中を確認すると近況報告と、大金を用意したことが書かれてあった。近日中に渡しに行くと記されてある。他の手紙も確認してみる。
すべてにお金の件が書かれてあるようだ。時々ノワール様の近況を知らせるものもあり、手紙の一番古い年月は十五年程前。丁度王妃様が出産された頃になっている。
(ヴァーガンディー様はノワール様の件で公爵様に弱みを握られている?)
その弱みがなんなのかはハッキリとわからない。けれど、これは確実にノワール様の弱みに繋がる情報だと思う。
数枚手紙を引き抜くと袖の中に隠す。急いで片付けをして、部屋へと戻る。息を整えて、乱れた服を整えたところで部屋の扉が開いてノワール様とキャンベル公爵様が戻ってきた。
「お待たせいたしました聖女様。退屈だったでしょう」
「い、いえ、窓から見える庭がとても美しくて、観察していたらあっという間に時間が経ってしまいました」
手紙を持っていることがバレたら終わりだ。できる限り笑みを保ちながら、当たり障りのない会話をする。
「そうでしたか。では、早速お力を貸して頂ければと思います」
「ええ。手を出していただけますか」
手紙が落ちないように、細心の注意をしつつ、ゆっくりと手を取る。それから意識を手元に集中させて聖女の力を使う。こんな人達に力を使うのは嫌だけれど、今は我慢するしかない。バレていないか気になって手が震える。
「やけに震えているな」
ノワール様の声に肩を跳ねさせた。慌てたらだめだ。すべてが台無しになってしまう。
「少し肌寒くて……」
「ははは、聖女は可憐な姿と相まってか弱いようだ。庇護欲をくすぐられますな」
「……ええ、そうですね」
キャンベル公爵様の言葉が幸いにも助けになって、ノワール様が引いてくれた。安堵すると、気を取り直して手に力を込める。
「最近胸が痛くて困っていたのですが、聖女様の癒しのおかげか痛みが引いていきますな」
「それはよかったです」
愛想笑いを浮かべつつ、奉仕活動を終える。手を離すと、ノワール様が僕の腕を掴んで自分の方に引き寄せてきた。
「我々は先に帰らせて頂きます。約束の物も届けましたので」
(約束の物ってもしかしてお金のこと?)
やっぱりノワール様も、ヴァーガンディー様とキャンベル公爵様の件に関与しているんだ。
「ええ、お気をつけてお帰りください。王妃様にもお身体にお気をつけるようお伝えください」
よく見ると、持ってきていた革のスーツケースがない。手紙に近日中にお金を用意すると書かれてあったけれど、やっぱりお金を渡していたんだ。
「行くぞ」
「はい……」
荒々しく手を引かれる。気遣いの欠片もない言動に腹が立つ。掴まれた手が痛くて眉を寄せる。ただ、それよりも手紙を隠し持っていることがバレないか心配で仕方ない。でも幸いノワール様はまったく気にしていない様子だ。
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