聖女オメガは護衛騎士アルファの手を離さない

天宮叶

文字の大きさ
上 下
10 / 14

パーティーにて③

しおりを挟む
「立って」

やばいと思った瞬間、耳元で囁かれて誰かに手を引かれた。赤髪が視界に映り、安堵感が胸を覆う。そのまま近くの出入口から外に連れ出される。危機一髪でノワール様にはバレていなかったようで、追いかけられることはなかった。

「はぁ、ソラリスありがとう」
「念の為見張っていてよかった」
「ごめんね。助かったよ」

ソラリスが居てくれて本当によかった。未だに胸が嫌な音を立てている。バレていたらノワール様になにをされてしまったかわからない。落ち着かせるために、胸元を手で軽く叩く。

「それで、なにかいい情報は手に入ったのか?」
「うん。あのね、僕、ヒューズ伯爵様に会いに行こうと思う」
「前王妃様であるクレア様のご実家のか? 会いに行くにしても、勝手に神殿を抜け出すことはできないうえに、ノワール様の婚約者であるフィーの話を聞いてくれるかどうか……」

その通りだ。でも、伯爵に助けを乞う他に方法が浮かばないのも事実だ。それに、ツテがない訳ではない。

「伯爵様に掛け合うための心当たりがあるから、そこをあたってみようと思う」

 たしかオスカー様はヒューズ伯爵様と交流があったはずだ。

「……そうか。何度も言うけれど無理だけはしたらだめだからな」
「うん! 大丈夫だよ。僕にはソラリスっていう騎士様がついているから」

満面の笑みで答える。ソラリスがいればなんだって平気だと思えるんだ。笑顔の僕を見てソラリスも微笑みを向けてくれる。すごく甘い表情。今すぐキスして欲しいって思ってしまう。でも、今はダメだよね……。

「キスしてほしそうな顔をしてる」

唇に指がそわされて、顔が熱くなった。やっぱり僕ってわかりやすいのかな。顔が近づいてくる。頭ではこんなのダメだってわかっているんだ。いくら嫌いだとしても、僕はノワール様の婚約者だから。それでも、気持ちが抑えられない。
薄くて形のいい唇が壊れ物を扱うみたいに触れてきて、すぐに離れた。たったそれだけの触れ合いに胸を掻き乱される。

「行こう。居ないとバレたらフィーが怒られてしまう」
「……うん」

本当はもっと触れ合っていたい。この先へ進みたい。ソラリスと番になりたいんだ。感情ばかりが溢れてくる。唇に先程の余韻がまだ残っていて、そっと指を持っていく。切なくて甘酸っぱいような心地がした。
ソラリスはずるいと思う。いつも僕の心をかき乱すんだ。どんどん深みにはまっていく。どれだけ僕達の恋愛に壁があったとしても、好きだって気持ちには抗えない。
会場に戻ると、僕のことを見つけたノワール様が早足に近づいてきた。僕の後に控えているソラリスを見て眉を寄せる。

「大人しくしていろと言っただろう」
「少し疲れてしまったので別室で休んでいました」

 苦しい言い訳だ。追及されたら嘘をつき通すのは無理だろう。

「……まあいい。お前は先に神殿に戻っていろ」

 凍り付くような鋭い流し目が一瞬だけこちらを見て、そらされた。

「……わかりました」

ノワール様にしてはあっさりと追求をやめてくれる。助かったけれど、少し不気味にも感じてしまう。もしかしたら流石の彼も、人の目がある場所では派手なことはできないのかもしれない。

(本当はこの場でヒューズ伯爵様に挨拶ができればよかったのだけれど、無理そうだね)

でも、収穫はあった。今日のところは我慢しよう。帰ったら今後のことについても考えないといけない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

処理中です...