聖女オメガは護衛騎士アルファの手を離さない

天宮叶

文字の大きさ
上 下
8 / 14

パーティーにて①

しおりを挟む
聖女の着るパーティードレスは白を基調としたものと決まっている。白は聖女の神聖なイメージを象徴するのに便利な色だからだ。

「良くお似合いです」

着替えを手伝ってくれたアンに褒められて、こぼしかけていたため息を飲み込んだ。

「ありがとう」

 無理矢理口角を上げてお礼を伝える。
真珠の粉を織り交ぜて作られた真っ白な衣装。ドレープ生地が動くたびに波打ち、まるで天使の羽のようにも見える。男なのに女性のような格好。昔からこんな感じだから慣れてしまった。普段着ですら、女性的なんだから文句を言っても仕方ないしね。
今日は決戦の場である王室パーティーが行われる日だ。婚約破棄のために些細なことでもいいから情報を手に入れたい。
ノック音が聞こえてきて、ソラリスが姿を見せる。護衛騎士として彼も参加するため、正装をしている。ブラックのスーツがスタイルのいいソラリスに良く似合っていて見惚れてしまう。
ソラリスが僕の隣に並んでエスコートをしてくれる場面を想像したら、ドキドキして顔が火照る。

「綺麗です」
「えへへ、ソラリスだってすごく格好いいよ」

今のソラリスは、貴族だと言われても謙遜のないほど様になっている。小さな田舎の村出身だとはとても思えない。本当に貴族だったならよかったのに。
そしたら、ソラリスと結ばれる運命もあったのかもしれない。

「そうだ、丁度よかった。これを返そうと思っていたんだ」

引き出しからブローチを取り出して手渡すと、ソラリスがそっと僕の手にブローチを戻した。不思議に思って首を傾げる。

「これは君が持っていてほしい」
「いいの?」
「いつだって俺は傍にいるという誓の証です」

嬉しくて、綺麗にお化粧してもらったのに涙が出てきそう。ソラリスの前だと、泣き虫になってしまう。
ソラリスの優しさや言葉が、心を何重にも覆って、強固にしてくれるんだ。

「ありがとう。嬉しい」

ブローチを胸元で握りしめて、満面の笑みを浮かべる。ソラリスが微笑みを浮かべながら、空いている僕の手を持って甲に唇を寄せてくれた。

「行きましょう」

ああ、もう。格好良すぎるよ。ソラリスから一秒だって目を離せない。ずっと触れていたい。ソラリスの隣に居たい。でも、それは今はまだ無理だ。
僕達の間にある壁をいつか壊せる日が来るだろうか……。手を離して部屋を出る。その手を握り続けられる日が来ることを、心の底から願っている。
ソラリスは僕の数歩後ろをゆっくりと着いてきてくれた。この距離感が酷くもどかしい
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

処理中です...