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ノクス過去編(番外編)
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一旦深呼吸をすると、もう一度だけ鏡で自身の瞳を確認する。
「……お前は何者だ? 無能なノクスか? それとも、ただの水と炎の使い手か?」
そっと目を閉じると、手のひらに意識を集中させる。母様は私に何を求めているんだ。私になにをさせたい?
(アルバート、お前はどうして私の封印を解いた?)
じわりと湧き上がってくる熱が全身を覆う。足元から、黒紫色の魔力が立ち昇り、手のひらへと少しずつ集まってくる。常闇を詰め込んだ魔力がくるくると手の上を周り、私が何者なのかを静かに伝えてくれた。
「……私は……魔王なのだな……」
喜ぶべきことのはずなのに、なぜだか涙が溢れてくる。もし、母様の言うように闇魔法を隠したら、今代の魔王には誰が着くのだろうか。他の者が魔王の席に着くことを想像してみても悲しいとは思わない。
「そうか……そうだったのだな……」
私は魔王になることなどどうでもよかったのだ。ただ、無能と呼ばれることが悔しかった。憧れであり誇りである母様の存在を自分が貶めているような気がしていたから。それと同時に、認めて欲しかった。母様にただ一言、すごいと褒めて欲しかったのだ。
「ノクス」
部屋に入ってきた人物に声をかけられて振り返れば、母様が悲しげな顔を浮かべながら立っていた。慌てて魔力を戻そうとするけれど、初めて使う為に上手くコントロール出来ず、戻すことが出来ない。
「落ち着きなさい。深呼吸をして、ゆっくりと体内に魔力を貯めていくイメージをするの」
母様の手が俺の肩に添えられる。言われた通りに出ていく魔力を体内へと戻し貯めていく。スルスルと魔力の塊が縮んでいき、最後には飛散して消えてくれた。
「私は……魔王なのか?」
「……ノクス、貴方はどんな魔王になりたいの?」
「そんなの分からない。でも、誰よりも強くなりたい」
虐げられるのは嫌だ。
「そう。貴方の思う強さがどんなものなのか私には理解してあげられない。けれど、覚えていてね。強さとは、支配ではなく、なにかを守るために使うものだということを」
「守るために……」
よくわからない。誰かを守りたいと思ったことなど一度もない。強くありたいと思うことはあっても、その強さを使う方法を私はまだ知らないから。
母様がそっと抱きしめてくれる。ずっと求めていた温もりだ。
「母様はね、貴方のことが心配なの。悪い人に利用されたり、間違った知識を植え込まれることがあってはならない。だから、どうか先程の願いを頭に入れておいてね」
返事の代わりに小さく頷く。母様が笑みを浮かべ、頭を撫でてくれた。その心地良さをただ噛み締め続ける。
魔王選抜の儀式で、私は母様の言う通りに魔法を使うことをしなかった。期待外れだという声を耳に入れながらも、母様の願いを叶えたのは、ただ母様の思いを大切にしたいと思ったからだった。
「……お前は何者だ? 無能なノクスか? それとも、ただの水と炎の使い手か?」
そっと目を閉じると、手のひらに意識を集中させる。母様は私に何を求めているんだ。私になにをさせたい?
(アルバート、お前はどうして私の封印を解いた?)
じわりと湧き上がってくる熱が全身を覆う。足元から、黒紫色の魔力が立ち昇り、手のひらへと少しずつ集まってくる。常闇を詰め込んだ魔力がくるくると手の上を周り、私が何者なのかを静かに伝えてくれた。
「……私は……魔王なのだな……」
喜ぶべきことのはずなのに、なぜだか涙が溢れてくる。もし、母様の言うように闇魔法を隠したら、今代の魔王には誰が着くのだろうか。他の者が魔王の席に着くことを想像してみても悲しいとは思わない。
「そうか……そうだったのだな……」
私は魔王になることなどどうでもよかったのだ。ただ、無能と呼ばれることが悔しかった。憧れであり誇りである母様の存在を自分が貶めているような気がしていたから。それと同時に、認めて欲しかった。母様にただ一言、すごいと褒めて欲しかったのだ。
「ノクス」
部屋に入ってきた人物に声をかけられて振り返れば、母様が悲しげな顔を浮かべながら立っていた。慌てて魔力を戻そうとするけれど、初めて使う為に上手くコントロール出来ず、戻すことが出来ない。
「落ち着きなさい。深呼吸をして、ゆっくりと体内に魔力を貯めていくイメージをするの」
母様の手が俺の肩に添えられる。言われた通りに出ていく魔力を体内へと戻し貯めていく。スルスルと魔力の塊が縮んでいき、最後には飛散して消えてくれた。
「私は……魔王なのか?」
「……ノクス、貴方はどんな魔王になりたいの?」
「そんなの分からない。でも、誰よりも強くなりたい」
虐げられるのは嫌だ。
「そう。貴方の思う強さがどんなものなのか私には理解してあげられない。けれど、覚えていてね。強さとは、支配ではなく、なにかを守るために使うものだということを」
「守るために……」
よくわからない。誰かを守りたいと思ったことなど一度もない。強くありたいと思うことはあっても、その強さを使う方法を私はまだ知らないから。
母様がそっと抱きしめてくれる。ずっと求めていた温もりだ。
「母様はね、貴方のことが心配なの。悪い人に利用されたり、間違った知識を植え込まれることがあってはならない。だから、どうか先程の願いを頭に入れておいてね」
返事の代わりに小さく頷く。母様が笑みを浮かべ、頭を撫でてくれた。その心地良さをただ噛み締め続ける。
魔王選抜の儀式で、私は母様の言う通りに魔法を使うことをしなかった。期待外れだという声を耳に入れながらも、母様の願いを叶えたのは、ただ母様の思いを大切にしたいと思ったからだった。
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