65 / 69
ノクス過去編(番外編)
2
しおりを挟む
微睡みに身を預けると、暗闇の広がる空間に立っていた。夢を見ると、いつもここに来てしまう。
「やあ、ノクス」
「……またお前か」
「ふふ、随分と荒れているね」
「そろそろ正体を教えてくれてもいいんじゃないのか」
夢にいつも現れる、金髪に碧眼の美しい青年。名はアルバートと言うらしい。私の顔を見つめながら、嬉しそうに微笑むアルバートは多分人間だ。
「いつかわかるよ」
「……なんで私の夢に出てくるんだ」
「君と私は一心同体ってやつだからかな」
「気持ち悪いことをいうな」
人間のはずなのに、アルバートと話すのは嫌ではない。現実では孤独感を常に味わっている。でも、夢の中に足を踏み入れれば、アルバートが居るから寂しくはない。彼は私にとって数少ない友と呼べる存在だ。
「お前も私を無能だと思うか?」
「うーん、まだまだ弱っちいとは思うよ。だって君、六歳だし」
「う、うるさい! 私は六歳だが、普通の六歳ではないんだ!!」
街に住む普通の子供達と私では立場が違う。私は大魔道士の子なのだから。期待に答えなければならないと思うたびに、心が苦しくなる。誰にも期待を押し付けられることなく、子供らしくありたいと思うときもあるけれど、無理なことだと諦めているんだ。
「普通とか普通じゃないとか、私にはよく分からないな。だって、君はまだ六歳だし、子供という事実は変わらないもの。ねえ、ノクス。子供は素直にわがままを言って、甘えてもいいんだよ」
「……そんなこと許されるわけない」
「なら、私がわがままを聞いてあげようね」
頭を撫でられて、胸がぎゅっと苦しくなった。涙が溢れてきそうになる。私が母から与えられたいものは、たったこれだけ。優しく頭を撫でて貰えるだけで、心は簡単に軽くなる。
「……魔法が使えないのは私が無能だからなのか?……」
「それは違うよ。君は必ず強くなる。私は確信しているからね。ただ、少し君の魔力の流れを邪魔している存在がいるようだね」
言いながら、アルバートが下に向かって手をかざす。漆黒だった空間に、眩い光が溢れ、辺りを照らし出した。光を辿るように、下を見つめれば、床の透けた奥の奥に、鎖で雁字搦めにされた魔力の塊が見える。
アルバートが開いていた手のひらを閉じると、鎖がいとも簡単に切れて、塊が粒子になって弾け飛んだ。
「さっきのはなに?」
「……封印のようなものかな。意図はわからないけれど、悪意は感じられなかったよ。……ああ、もう目覚める時間だ。またね、ノクス」
ひらりと、アルバートが私に向かって手を振った瞬間、空間が歪み視界が遮断された。目を開けると、慣れ親しんだ自室が視界に入る。
窓の外はすっかり明るく色付き、日差しが顔を照らし眩しい。また憂鬱な日々が始まる。ため息をこぼし、ベッドから降りた。
「やあ、ノクス」
「……またお前か」
「ふふ、随分と荒れているね」
「そろそろ正体を教えてくれてもいいんじゃないのか」
夢にいつも現れる、金髪に碧眼の美しい青年。名はアルバートと言うらしい。私の顔を見つめながら、嬉しそうに微笑むアルバートは多分人間だ。
「いつかわかるよ」
「……なんで私の夢に出てくるんだ」
「君と私は一心同体ってやつだからかな」
「気持ち悪いことをいうな」
人間のはずなのに、アルバートと話すのは嫌ではない。現実では孤独感を常に味わっている。でも、夢の中に足を踏み入れれば、アルバートが居るから寂しくはない。彼は私にとって数少ない友と呼べる存在だ。
「お前も私を無能だと思うか?」
「うーん、まだまだ弱っちいとは思うよ。だって君、六歳だし」
「う、うるさい! 私は六歳だが、普通の六歳ではないんだ!!」
街に住む普通の子供達と私では立場が違う。私は大魔道士の子なのだから。期待に答えなければならないと思うたびに、心が苦しくなる。誰にも期待を押し付けられることなく、子供らしくありたいと思うときもあるけれど、無理なことだと諦めているんだ。
「普通とか普通じゃないとか、私にはよく分からないな。だって、君はまだ六歳だし、子供という事実は変わらないもの。ねえ、ノクス。子供は素直にわがままを言って、甘えてもいいんだよ」
「……そんなこと許されるわけない」
「なら、私がわがままを聞いてあげようね」
頭を撫でられて、胸がぎゅっと苦しくなった。涙が溢れてきそうになる。私が母から与えられたいものは、たったこれだけ。優しく頭を撫でて貰えるだけで、心は簡単に軽くなる。
「……魔法が使えないのは私が無能だからなのか?……」
「それは違うよ。君は必ず強くなる。私は確信しているからね。ただ、少し君の魔力の流れを邪魔している存在がいるようだね」
言いながら、アルバートが下に向かって手をかざす。漆黒だった空間に、眩い光が溢れ、辺りを照らし出した。光を辿るように、下を見つめれば、床の透けた奥の奥に、鎖で雁字搦めにされた魔力の塊が見える。
アルバートが開いていた手のひらを閉じると、鎖がいとも簡単に切れて、塊が粒子になって弾け飛んだ。
「さっきのはなに?」
「……封印のようなものかな。意図はわからないけれど、悪意は感じられなかったよ。……ああ、もう目覚める時間だ。またね、ノクス」
ひらりと、アルバートが私に向かって手を振った瞬間、空間が歪み視界が遮断された。目を開けると、慣れ親しんだ自室が視界に入る。
窓の外はすっかり明るく色付き、日差しが顔を照らし眩しい。また憂鬱な日々が始まる。ため息をこぼし、ベッドから降りた。
10
お気に入りに追加
697
あなたにおすすめの小説
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
異世界召喚されて勇者になったんだけど魔王に溺愛されてます。
頓
BL
不幸体質な白兎(ハクト)はある日、異世へ飛ばされてしまう。異世界で周りの人々から酷い扱いをされ、死にかけた白兎を拾ったのは魔王、ジュノスだった。
優しい魔王×泣き虫な勇者の溺愛BL小説
・自己満足作品
・過去作品のリメイク
・Rが着く話は※を付けときます
・誤字脱字がありましたらそっと報告して頂けると嬉しいです
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる