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成人編

前世との対面①

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「やあ、今代の勇者よ」

目を開けると、どこまでも白で覆い尽くされた場所に立っていた。ノクスとの行為後、死ぬように眠ったはずだ。つまりこれは夢?
目の前には、僕ととてもよく似ている容姿をした人が立っている。けれど、僕ではないと確信が持てた。

「誰?」
「私はアルバート。初代勇者と呼ばれている者だよ」
「初代、勇者……どうして僕の夢の中に出てくるの?」
「今代の魔王の魔力を少し借りて、君の夢の中に入らせてもらったんだ」

僕へと一歩近づいてきた初代勇者が、僕の胸元に手を当て、嬉しそうに微笑んだ。どうしてだか、心の奥がザワつくような感覚を覚える。僕は前にこの人に会ったことがあるような気がした。

「どうして僕の夢に出てきたの?」
「私は常々、アシェルと私の立場が逆ならばよかったと思っていたんだよ」

アシェルというのは初代魔王のことだ。胸元から手を離したアルバートが、懐かしげに思いを語って聞かせてくれる。

「アシェルはとても優しい人だったから、最後は自らを犠牲にして民を守ろうとした。けれど、私は民とアシェルを天秤にかけ、アシェルを選んだんだ。アシェルの愛したものを守ろうと決めた。たとえそれが、止まない戦争の歴史を積むきっかけになるとしても」

アルバートの話を聞きながら、初代魔王が勇者だったらと想像してみる。きっと、彼なら民を守るため、自らの心も、身体すら犠牲にするのだろうと思った。正に絵本や歴史書に描かれる、清く正しい勇者のように。

「だが、どうやら私の思いは数千年のときを超え叶ったようだ」
「どういうこと?」
「私の魂は今や魔王へと転生したということだよ」
「……アルバートが魔王へ……つまりノクスは初代勇者の生まれ変わりだってこと!?」
 
驚きに目を見開く。でも、そう考えるとノクスがシームルグに懐かれた理由も納得できる。ノクスの中に眠る、初代勇者の魂にシームルグが反応していたということだよね。

「今代の魔王は私によく似ているんだよ。独占欲が強いうえに、身内に甘い。元来光を持つ者は心が清いとされているからね。君を拾い育てたのも光の性質故か……はたまた、魂が惹かれあった結果か。判断はできないけれどね」
「魂が惹かれ合う?」
「まだ気が付かないのかい」

魂が……まさか……。アルバートの瞳を見つめ、ゴクリと喉を鳴らした。
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