勇者は魔王!?〜愛を知らない勇者は、魔王に溺愛されて幸せになります〜

天宮叶

文字の大きさ
上 下
57 / 69
成人編

恋人になってくれる?①

しおりを挟む
魔王城に着くと、アランとザイン、ベアトリスとルキが出迎えてくれる。数日しか離れていなかったはずなのに、やけに懐かしく感じてしまう。もう会うことはできないと思っていたからかもしれない。

「おー、帰ってきたなー」
「ふんっ、家出にしてははやい帰りだ」
「ふふふ、こんなことを言っていますが、アランは心配で職も手につかなかったのですよ」
「デ、デタラメを言うな!」

いつも通りの皆の姿に、自然と満面の笑みが浮かぶ。やっぱりここ(魔王城)は温かくて、大切な唯一の居場所だ。
シームルグの背から降り、乗せてくれたことね感謝を伝えて羽根を撫でてやる。クルルっと甘えた声を発して、そのまま獣舎へと飛び立って行ったシームルグを目で追う。

「無事に帰ってこられて、安心致しました」
「ベアトリス心配かけてごめんね。皆も、ごめんなさい。勇者のことを教えてくれなかったのは、僕のことを守ってくれていたからなんだよね」

眉を垂れさせ、下手くそに笑みを浮かべる。申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちが半々。皆の顔を改めて見ると、次は泣きそうにもなってくる。

「もう謝るな。お前が魔王城に帰ってきてくれたことが、嬉しいのだから。皆も同じ気持ちだ」

ノクスの手が、背を撫でてくれる。皆へと視線を向ければ、頷き返してくれる。胸がいっぱいだ。いつの間にか、僕には信頼出来る友達ができていて、帰りを待ってくれている家族が居た。そして、背を撫でながら、普段は見せない微笑みを向けてくれる大好きな人の存在。

「皆、大好き」

人生で一番満開の笑顔を浮かべて、気持ちを伝えた。
僕ね、本当に幸せなんだ。心を繋げ通わせることのできる人達に出会えたことは人生最大の幸福だよ。

「部屋に戻ろう」
「うん!」

戻ろう、僕の部屋居場所に。


皆は仕事があるからと解散し、オレオールも手入れがあるからとアランに預けた。そのため、ノクスと二人で部屋へと戻ってきた。胸いっぱいに部屋の香りを吸い込み、息を吐き出す。魔王城を飛び出したときとなにも変わらない。

「ソル、抱きしめてもよいか」
「えっ、わっ」

返事をする前に、きつく抱きしめられて、心音が跳ね上がる。一瞬で安心感が胸を覆い、まるで夢見心地な気分になった。

「……私のわがままも聞いてくれるか」
「うん、聞かせて」

いつも僕ばかりが望みを聞いてもらい、ノクスの願いを聞いたことはなかった。そを歯痒く思うこともあったから、気持ちを打ち明けてくれることがとても嬉しい。

「私と共に生きて欲しい。ソルを愛している」
「っ……うんっ、僕はノクスとずっと一緒に居るよ」

指切りの代わりに、そっとキスをする。熱情に輝く美しい瞳にずっと僕の姿を映し出していて欲しい。ベッドへと連れていかれると、そのまま押し倒されて、激しくお互いを求め合う。甘さを含む唾液を交換し合いながら、目の前の愛おしい存在をただただ感じ続けていた。

僕にとってのノクスは魔王ではない。彼はただ一人の愛する人。結局は、勇者や魔王という存在は肩書きなんだ。だから、したいことをすればいい。過ごす場所も、愛したい人も、自由に決めていいんだよね。そのことにようやく気がついた。

「寂しかった……」
「私もだ」
「ん……、大好き」
「愛している」

発せられる愛の言葉は、脳内をとろとろに溶かし、蝕んでいく。もっと欲しいと欲張りになる。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...