勇者は魔王!?〜愛を知らない勇者は、魔王に溺愛されて幸せになります〜

天宮叶

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成人編

魔王は勇者!?③

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僕には、本物と偽物の区別はつかないけれど、ルークには分かるみたいだ。

「通常、王が使用する羊皮紙は羊ではなく仔牛皮で作られるんだよ。その過程で、日に照らすと、王家の印が浮き上がるように特殊加工を施してある」
 
慌てて、アントニオ王子が紙を空に向かって掲げる。そして、顔を真っ青にさせたアントニオ王子が文書を手から落とした。焦点の定まらない瞳を前へと向けながら、なにかをつぶやいている。

「……そうだ……これも宰相が俺に手渡してくれたものだ……魔王軍との戦争の為にと……宰相が……」
「信用していた宰相は、王妃と王を毒殺し、謀反を企てた。時期に捕えられるだろう……利用されていたんだよアントニオ」
「……王が死んだ?……父上が……それに母上も……俺は……両親を殺した人間を信用していたというのか?」

乾いた笑いがアントニオ王子の口から出る。ルークはそんなアントニオ王子を数秒見つめたあと、衛兵から文書を受け取り、広げる。

「本日より先代王の跡を継ぎ、俺が王となった。そのため、この場で直々に命を下す。第一王子アントニオ=ルーヴェンハイムは宰相と結託し、謀反を企てた。よって、王子の位を剥奪し、平民へ降格とする。また、宰相であるサリバン公爵は先代の王妃と王を毒を使い殺めた疑いがあるため、捕らえしだい尋問を行い、罪状を決めることとする」
「ふざけるな!お前が王だと!??なぜっ、なぜだなぜだなぜだ!」
「お前が戦争の準備に明け暮れ、父上を蔑ろにしている間、俺と父上の間に信頼関係が生まれていたということだ。もちろん、先代王からの直筆の遺言書にも書かれてあることだ」
 
遂に地面へと上半身も崩れ落ちさせたアントニオのことを、ルークは冷めた瞳で見つめている。衛兵がアントニオを両隣から押さえつけた。数秒後、僕たちの方へと振り返ったルークが笑みを浮かべ直す。

「名を聞いても?」
「ノクスだ」
「ノクス。このような騒ぎを起こしてしまい申し訳ないと思っているよ。今更、虫が良すぎる話ではあるのだけれど、人間と魔族との間に和平を結ぶ気はないかな」

提案にノクスが首を横に振る。不安げにノクスを見れば、穏やかさを宿した瞳が大丈夫だと伝えてくれる。

「すぐに和平を結ぶことは叶わぬだろう」
「……たしかに。人間と魔族の溝は深いからね。民の理解を得るのは難しいだろう」 
「ああ、だが何十年後かには状況も変わっているはず。今でなくとも遅くはなかろう」

頷いたルークが、手を差し出す。ノクスはその手を迷いなく取った。二人が固く手を握り合うのを笑みを浮かべて見つめる。この光景を見ていると、近い未来魔族と人間の関係は良くなっているって思える。

「……ふざけるな……なにが和平だ……なにが理解だ……。ふざけるな!ふざけるなよおおお!!!!!!!!!!!」

膝つき項垂れていたアントニオが、当然暴れだし、隣に居た衛兵の剣を奪い取る。咄嗟のことに反応できなかった衛兵の手を逃れ、アントニオが僕に向かって真っ直ぐに駆けてきているのが見えた。でも、数メートルの距離では反応しきれず、瞳を固く閉じ、腕を前に組んだ状態で衝撃に備えることしかできない。

剣先が肉を貫く音がやけにリアルに耳に残る。恐る恐る目を開ければ、鮮血が滴り落ちてきた。けれど、痛みはない。代わりに、なにかの影が僕を覆うように守ってくれている。

黒髪と銀髪が目に入り、驚く。無意識にノクスの方を見るけれど、外傷はないようだった。続いて、ルークの方へと視線を向けようとしたとき、ぐらりとルークの体が傾き、地面へと倒れた。
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