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成人編
第二王子救出大作戦!⑥
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「行こう」
「でも……王様は……」
「ひとまず部下に任せて、俺達はアントニオの元に向かおう。明日までに決着を付けるよ」
こんなときまでルークは顔に笑みを浮かべている。
衛兵に王様を任せると、僕達は部屋を出た。歩みを進めるルークの後ろ姿を見つめながら、僕になにかしてあげられることはないだろうか、と考える。もしも、同じ立場だったなら……。兄様が亡くなったとき、どんな気持ちだったっけ。どんな風に乗り越えたんだったかな。
「ルーク」
「なんだい」
「こっちを見て」
頼んでみるけれど、止まってくれない。思わずルークの手を掴むと、ようやく立ち止まってくれた。振り返ったルークはやっぱり笑っているのに辛そうだ。そっとルークの頬に手を伸ばす。
「無理に笑わなくてもいいんだよ」
辛いときは泣いていいんだって、僕はノクスに教わった。だから、次は僕がルークに教えてあげたい。翡翠色の瞳が微かに伏せられ、顔から表情が消えた。これがルークの本当の顔なのかもしれない。
「おかしなことを言うんだね」
「……僕もね、辛いときは笑ってたんだ。でもね、笑えば笑うほど、なんだかもっと辛くなって……」
「俺は王族なんだ。涙は見せない」
「王族だとか、そんなこと関係ないよ! 辛いときは泣いていいんだよ。だって、そうしないと心が壊れちゃうよ」
こんなこと僕が言うことじゃないのはわかってる。でも、放っておけないんだ。感情の宿らない瞳がじっと僕を見つめてくる。王族のことはよくわからない。でも、大切な人を亡くす気持ちはわかる。
「ソル、君は純粋なんだね」
「……ルーク」
無表情の壁が一瞬だけ悲しさに歪む。悲しいよね……辛いよね。でも、ルークは耐える選択肢を取るんだ。それはきっと、ルークが強いからじゃない。立場や状況を鑑みて、彼はただ選んだだけ。自分のするべきことを見極めているだけなんだ。
「俺がどうして魔族を肯定するのか知りたい?」
「っ、うん」
「俺は、幼い頃盗賊に攫われたことがあるんだよ。もちろん、人間のね。王位継承権争いは産まれた時から始まっていたし、俺を忌々しく思う人間は沢山いた。そういう人間が盗賊に俺を攫わせたんだ。誰にも見つからないように、魔族の領土に近い場所に盗賊は根城を作っていた。近隣にいくつか村があって、食料をそこで調達しているようだったよ」
盗賊……そう聞いて真っ先に思い浮かんだのはアランのことだった。
「俺は死を覚悟していた。でも、あるとき近隣の村に住んでいた魔族の少年が盗賊を全滅に追いやった。それから数日後、無事に保護されてこの通り。俺は生きている。現場を見たわけじゃない。でもね、そのとき俺は魔族に命を救われ、二度目の人生を与えられた気がしたんだ」
「だから、魔族肯定派になったんだね」
もしかしたら、その青年というのは……。
「君は?」
考えを巡らせていたら、君はどちらの味方なの? とルークが問いかけてきた。僕は問いに迷うことなく答える。
「僕は、人間と魔族、両方の味方だよ」
だからここに居る。戦争を止めて、長く続く争いの連鎖を断ち切るんだ。
「それを聞いて安心したよ」
フッ、とルークが笑みを浮かべる。笑い返すと、また歩みを再開し始めた。歩きながら、アントニオ王子について教えてもらう。基本的にプライドが高く、あまり政治が得意とは言えない。今回の騒動も反魔族派である宰相が裏で糸を引いていると、ルークは予想しているようだ。
人間と魔族の領土の境界に位置する場所を切り開き、密かに着々と戦争の準備を進めているらしい。
「俺は少し準備を整えてから後を追うよ。君は先にアントニオの元に向かって欲しい」
「わかったよ」
「勇者だと言えば手荒な真似は余程のことがない限りされないだろう。盾と剣が君を勇者だと証明してくれる」
「うん。大丈夫。自分の身は自分で守れるよ」
すっごく強い師匠二人から、魔法と剣術を教わったんだ。自分の身くらい守れないと怒られちゃうしね。それに、ルークのことを信じている。会ったばかりだけれど、彼は信用できる人だとわかるんだ。
「行ってくるね」
「頼んだよ。俺の希望の星」
大きく頷いて、駆け出す。戦いが始まるんだ。世界を平和に導くための戦いが……。ぐっと、胸元で拳を作り祈る。ノクス、僕頑張るよ。もし、戦争を止めることができたら、また好きだって伝えることはできるのかな。
(……会えなくても、僕の心にはノクスが居るよ)
だから、どうか見守っていて欲しい。
「でも……王様は……」
「ひとまず部下に任せて、俺達はアントニオの元に向かおう。明日までに決着を付けるよ」
こんなときまでルークは顔に笑みを浮かべている。
衛兵に王様を任せると、僕達は部屋を出た。歩みを進めるルークの後ろ姿を見つめながら、僕になにかしてあげられることはないだろうか、と考える。もしも、同じ立場だったなら……。兄様が亡くなったとき、どんな気持ちだったっけ。どんな風に乗り越えたんだったかな。
「ルーク」
「なんだい」
「こっちを見て」
頼んでみるけれど、止まってくれない。思わずルークの手を掴むと、ようやく立ち止まってくれた。振り返ったルークはやっぱり笑っているのに辛そうだ。そっとルークの頬に手を伸ばす。
「無理に笑わなくてもいいんだよ」
辛いときは泣いていいんだって、僕はノクスに教わった。だから、次は僕がルークに教えてあげたい。翡翠色の瞳が微かに伏せられ、顔から表情が消えた。これがルークの本当の顔なのかもしれない。
「おかしなことを言うんだね」
「……僕もね、辛いときは笑ってたんだ。でもね、笑えば笑うほど、なんだかもっと辛くなって……」
「俺は王族なんだ。涙は見せない」
「王族だとか、そんなこと関係ないよ! 辛いときは泣いていいんだよ。だって、そうしないと心が壊れちゃうよ」
こんなこと僕が言うことじゃないのはわかってる。でも、放っておけないんだ。感情の宿らない瞳がじっと僕を見つめてくる。王族のことはよくわからない。でも、大切な人を亡くす気持ちはわかる。
「ソル、君は純粋なんだね」
「……ルーク」
無表情の壁が一瞬だけ悲しさに歪む。悲しいよね……辛いよね。でも、ルークは耐える選択肢を取るんだ。それはきっと、ルークが強いからじゃない。立場や状況を鑑みて、彼はただ選んだだけ。自分のするべきことを見極めているだけなんだ。
「俺がどうして魔族を肯定するのか知りたい?」
「っ、うん」
「俺は、幼い頃盗賊に攫われたことがあるんだよ。もちろん、人間のね。王位継承権争いは産まれた時から始まっていたし、俺を忌々しく思う人間は沢山いた。そういう人間が盗賊に俺を攫わせたんだ。誰にも見つからないように、魔族の領土に近い場所に盗賊は根城を作っていた。近隣にいくつか村があって、食料をそこで調達しているようだったよ」
盗賊……そう聞いて真っ先に思い浮かんだのはアランのことだった。
「俺は死を覚悟していた。でも、あるとき近隣の村に住んでいた魔族の少年が盗賊を全滅に追いやった。それから数日後、無事に保護されてこの通り。俺は生きている。現場を見たわけじゃない。でもね、そのとき俺は魔族に命を救われ、二度目の人生を与えられた気がしたんだ」
「だから、魔族肯定派になったんだね」
もしかしたら、その青年というのは……。
「君は?」
考えを巡らせていたら、君はどちらの味方なの? とルークが問いかけてきた。僕は問いに迷うことなく答える。
「僕は、人間と魔族、両方の味方だよ」
だからここに居る。戦争を止めて、長く続く争いの連鎖を断ち切るんだ。
「それを聞いて安心したよ」
フッ、とルークが笑みを浮かべる。笑い返すと、また歩みを再開し始めた。歩きながら、アントニオ王子について教えてもらう。基本的にプライドが高く、あまり政治が得意とは言えない。今回の騒動も反魔族派である宰相が裏で糸を引いていると、ルークは予想しているようだ。
人間と魔族の領土の境界に位置する場所を切り開き、密かに着々と戦争の準備を進めているらしい。
「俺は少し準備を整えてから後を追うよ。君は先にアントニオの元に向かって欲しい」
「わかったよ」
「勇者だと言えば手荒な真似は余程のことがない限りされないだろう。盾と剣が君を勇者だと証明してくれる」
「うん。大丈夫。自分の身は自分で守れるよ」
すっごく強い師匠二人から、魔法と剣術を教わったんだ。自分の身くらい守れないと怒られちゃうしね。それに、ルークのことを信じている。会ったばかりだけれど、彼は信用できる人だとわかるんだ。
「行ってくるね」
「頼んだよ。俺の希望の星」
大きく頷いて、駆け出す。戦いが始まるんだ。世界を平和に導くための戦いが……。ぐっと、胸元で拳を作り祈る。ノクス、僕頑張るよ。もし、戦争を止めることができたら、また好きだって伝えることはできるのかな。
(……会えなくても、僕の心にはノクスが居るよ)
だから、どうか見守っていて欲しい。
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