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成人編
第二王子救出大作戦!⑤
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初めに目に入ったのは、浅い呼吸を繰り返しベッドに横たわっている厳格そうな初老の男性の姿。その姿を見た瞬間、なぜだか嫌な感じを覚えた。
「父上、勇者を連れてまいりました」
先程までとは打って代わり、固い口調のルーク。目を閉じていた王様が、微かに目を開けて僕の方を見る。薄いブルーの瞳がじっと僕の姿を捉えて、微かに口角が上がったのがわかった。
「勇者よ……生きていたか」
弱々しく伸ばされた手を慌ててとる。勇者は死んでいるかもしれないという言葉を王様も信じていたのかもしれない。
手を取った瞬間、どろりと嫌な感じが僕の中に流れ込んでくる。怖いものが王様を蝕んでいるような感覚だ。僕の中の光が、それを感知しているような……そんな一瞬の勘に近い感覚。
「勇者よ……民を守ってくれ……アントニオは……」
「喋らないで。必ず守ると約束しますから」
あと数日もせずに、王様は亡くなってしまう。誰の目に見ても明らかだった。手を握ったまま、眠ってくださいと伝える。
「その前に王様、お薬の時間ですわ」
メイドが薬を手に取り差し出してくる。受け取ろうとしたとき、凄く嫌な感じがして思わず薬を手で払い落としてしまう。ドロリとした薄黒い液体が床へと散らばる。
「なにをなさるのですか!?」
メイドが怒りを顕にしてくるけれど、僕のことを庇うようにルークが前に出た。そのことに安堵する。どうしてこんな感覚がするのかはわからない。でも、僕の中のなにかがこの薬は飲ませたらダメだって言っている。
「ソル、なにか感じたんだね。俺に教えてくれないかな」
穏やかな声音に促されて、自分の感じたことを伝える。器を手に取ったルークが、指から銀の指輪を取り出すと、微かに残っている薬へと入れた。じわりと指輪がくすんでいく。
「……毒だ」
ルークの呟きにその場が凍りつく。王様からも同じ感覚がするのだという僕に、ルークは眉を寄せる。治癒魔法をかけてみるけれど、毒は抜け切る様子はない。もしかしたら随分前から、毒を飲まされていたのかも……。
「王妃も同じ病で数十年前に亡くなっているんだ。まさか毒だったとは……」
「心当たりはあるの?」
「……アントニオの一派の仕業かもしれない。どちらにせよ、調べてみないことには分からないけれどね。誰か、このメイドを捕らえろ」
ルークが声を上げると、中に衛兵が数名入ってきて、騒ぐメイドを取り押さえた。連れていかれると、部屋にはルークと僕、王様の三人だけになる。僕が握っている王様の手にルークも手を添えると、眉根を寄せて苦しそうな顔を浮かべる。彼の本音を垣間見た気がして、心が痛くなった。
「父上……ずっと気付くことができず申し訳ありませんでした……」
「……かまわぬ。……紙と筆を持ってくるのだ」
指示されて、ルークが紙と筆を引き出しから取り出す。無理矢理身体を起こした王様を支えてあげると、震える字で紙へとなにかを書き始めた。見たこともないくらい滑らかな作りの紙に、文字が綴られる。ゆっくりと時間が流れていく。息を吐き出しながら、ようやく書き終えた王様は、王印を押すと、その紙をルークへと手渡した。
「よいな。お前にすべてを託す」
「……はい」
受け取って文字を読んだルークは、一瞬驚いた顔をしたあとに、しっかりと頷いて立ち上がった。王様は一度嬉しそうに微笑むと、ベッドへと身体を倒し、大きく深呼吸して、静かに目を閉じた。力の抜けた手を撫でてあげる。鼓動の音は聞こえてこない。
ルークの顔には、悲しげな微笑みが浮かんでいた。
「父上、勇者を連れてまいりました」
先程までとは打って代わり、固い口調のルーク。目を閉じていた王様が、微かに目を開けて僕の方を見る。薄いブルーの瞳がじっと僕の姿を捉えて、微かに口角が上がったのがわかった。
「勇者よ……生きていたか」
弱々しく伸ばされた手を慌ててとる。勇者は死んでいるかもしれないという言葉を王様も信じていたのかもしれない。
手を取った瞬間、どろりと嫌な感じが僕の中に流れ込んでくる。怖いものが王様を蝕んでいるような感覚だ。僕の中の光が、それを感知しているような……そんな一瞬の勘に近い感覚。
「勇者よ……民を守ってくれ……アントニオは……」
「喋らないで。必ず守ると約束しますから」
あと数日もせずに、王様は亡くなってしまう。誰の目に見ても明らかだった。手を握ったまま、眠ってくださいと伝える。
「その前に王様、お薬の時間ですわ」
メイドが薬を手に取り差し出してくる。受け取ろうとしたとき、凄く嫌な感じがして思わず薬を手で払い落としてしまう。ドロリとした薄黒い液体が床へと散らばる。
「なにをなさるのですか!?」
メイドが怒りを顕にしてくるけれど、僕のことを庇うようにルークが前に出た。そのことに安堵する。どうしてこんな感覚がするのかはわからない。でも、僕の中のなにかがこの薬は飲ませたらダメだって言っている。
「ソル、なにか感じたんだね。俺に教えてくれないかな」
穏やかな声音に促されて、自分の感じたことを伝える。器を手に取ったルークが、指から銀の指輪を取り出すと、微かに残っている薬へと入れた。じわりと指輪がくすんでいく。
「……毒だ」
ルークの呟きにその場が凍りつく。王様からも同じ感覚がするのだという僕に、ルークは眉を寄せる。治癒魔法をかけてみるけれど、毒は抜け切る様子はない。もしかしたら随分前から、毒を飲まされていたのかも……。
「王妃も同じ病で数十年前に亡くなっているんだ。まさか毒だったとは……」
「心当たりはあるの?」
「……アントニオの一派の仕業かもしれない。どちらにせよ、調べてみないことには分からないけれどね。誰か、このメイドを捕らえろ」
ルークが声を上げると、中に衛兵が数名入ってきて、騒ぐメイドを取り押さえた。連れていかれると、部屋にはルークと僕、王様の三人だけになる。僕が握っている王様の手にルークも手を添えると、眉根を寄せて苦しそうな顔を浮かべる。彼の本音を垣間見た気がして、心が痛くなった。
「父上……ずっと気付くことができず申し訳ありませんでした……」
「……かまわぬ。……紙と筆を持ってくるのだ」
指示されて、ルークが紙と筆を引き出しから取り出す。無理矢理身体を起こした王様を支えてあげると、震える字で紙へとなにかを書き始めた。見たこともないくらい滑らかな作りの紙に、文字が綴られる。ゆっくりと時間が流れていく。息を吐き出しながら、ようやく書き終えた王様は、王印を押すと、その紙をルークへと手渡した。
「よいな。お前にすべてを託す」
「……はい」
受け取って文字を読んだルークは、一瞬驚いた顔をしたあとに、しっかりと頷いて立ち上がった。王様は一度嬉しそうに微笑むと、ベッドへと身体を倒し、大きく深呼吸して、静かに目を閉じた。力の抜けた手を撫でてあげる。鼓動の音は聞こえてこない。
ルークの顔には、悲しげな微笑みが浮かんでいた。
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