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成人編

第二王子救出大作戦!③

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押してみると簡単に扉が開いた。忍び足で中へと入る。どうやらここには、先程見張りをしていた衛兵だけしか居ないようだ。

一つ一つ牢屋を覗きながら進んでいると、一つだけ明らかに内装の違う牢屋を見つけた。ベッドや水桶など、質素だけれど他の受刑者には与えられていない家具が備え付けてある。頑丈そうな錠前と鎖が幾重にも巻き付けてあり、ベッドの中で横になっている男性は美しい銀髪をしていた。

「あの……もしかしてルーク王子ですか?」

話しかけると、声に気がついた彼が起き上がりゆっくりと振り返った。翡翠ひすい色の垂れ目が僕の姿を捉えると、大きく見開かれる。

「天使が迎えに来たようだ」
「いえ、僕は天使ではなく……」
「天使ではない……か。とすると……ああ、君はとても美しい剣を携えているんだね」

オレオールへと視線を向けたルーク王子が口元に笑みを浮かべる。どこか掴みどころのない雰囲気を纏う美しい彼は、僕に近づくとその場にかしずいた。驚いていると、格子の隙間から手を取られる。手の甲へと唇を寄せられて、びくりと肩を跳ねさせた。

「ようやく姿を見ることが出来たね。勇者よ、我らが希望の星」
「か、顔を上げてください!」
「ではお言葉に甘えるよ」

立ち上がったルーク王子を見て安堵する。王子様に膝を折らせるなんて恐れ多い。

「僕、ソルっていいます。どうして僕が勇者だってわかったんですか?」
「君や剣から光の魔力を感じたからだよ。俺には他人の魔力を視る能力があるからね。残念ながら魔法を扱うことはできないのだけれど。ただ、君の魔力は少し……。いや、それよりも、今まで雲隠れしていた勇者がなぜ俺に会いに来たのかはなんとなく察しがつくけれど、理由を尋ねてもいいかな」

少し話しただけでルーク王子が優秀な方だということがわかる。今までの経緯を掻い摘んで話すと、ルーク王子がふっと笑を零した。

「なるほど。どこを探しても見つけられなかったのは、魔族の領土で暮らしていたからか。そして、君は戦争を止めようとしていると」

ルーク王子には魔王城で暮らしていたことは伏せ、魔族の土地で暮らしていたと伝えた。納得してくれるかは不安だったけれど、ひとまず理解はしてくれたみたいだ。少しだけ考える素振りしていたルーク王子は、突然顔を上げると、盾を取りに行こうと提案してきた。

「盾?」
「勇者の剣と対になる盾だよ。王家の武器庫に保管されているんだ。十年前、盾が輝いたことで勇者が誕生日したことがわかった。剣と盾は繋がっているから、剣が勇者を選ぶと盾が輝くといわれているんだ。でもね、勇者誕生は喜ばしいことだったけれど、一向に勇者は姿を現さなかった。反魔族勢力は血眼になって勇者を探していたよ」

やっぱり僕はノクス達に守られていたんだね。人間の手に渡り、利用されないように。魔族に育てられた勇者というのは、人間側にとってはとても扱いにくい存在だろうな、と今更ながらに思う。もちろん、利用される気なんてこれっぽっちもないのだけれど。

「盾を手に入れれば、皆君を勇者だと認めるはずだよ」
「では、盾を手に入れて、その後戦争を止めるためアントニオ王子に会いに行きます」
「俺も手を貸すよ。戦争は民を苦しめるだけだからね」
「ありがとうございます! あの、少し下がっていて貰えますか」

お願いするとルーク王子が後ろへ下がってくれる。確認すると、巻きついている鎖に向かってかまえた。魔力を練り、集中する。アランから教えてもらったことを思い出すんだ。

「ハッ!」

一瞬、風魔法を展開し剣先に乗せる。オレオールを思い切り振ると、ガシャン!っと鈍い音をたてて鎖が床へ落ちた。鞘に収められているというのに、オレオールの力は強力だ。石でも木でも、魔力をのせれば切れてしまう。
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