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成人編
過去との再会⑥
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幼い頃から、誰かが傷つくことが嫌だった。皆が仲良くできればいいと心から願っていたんだ。無意識に勇者としての責務を果たそうとしていたのかもしれない。
決めたんだ。僕は光の道を進んでいくと。そうして、闇を明るく照らすんだ。ノクスが、暖かな闇で包み込んでくれたように、次は僕が誰かの未来を輝かせたい。
「僕、第二王子に会いに行くよ」
「……坊ちゃんがそう決めたのであれば止めはしません」
「ありがとうジル」
決意を固め、笑みを浮かべる。兄様の墓へ視線を向け直すと、拳を墓石に向かって突き出し軽く触れた。
兄様、僕のこと見守っていてね。
「行ってきます兄様」
オレオールを握りしめて駆け出す。子爵家から王都までは徒歩で二、三日はかかると、オレオールが教えてくれた。ゆっくりしている暇はないから、明るいうちにできるだけ進んでおかないと。
獣道を進みながら、森に捨てられたとき一人で狩りをしていたことを思い出す。あの頃もできたんだから、成長した今なら野宿なんてへっちゃらだ。
「王都か。久しいな」
「オレオールは王都に行ったことがあるの?」
「我は生前王都に住んでいたのだ」
生前という言葉に引っ掛かりを覚える。足は動かしたまま、オレオールの話に耳を傾ける。オレオールが喋れることとなにか関係があるのだろうか。僕の親友は謎が多い。
「シームルグの件について聞きたがっていただろう。あれとも関係のある話ゆえ、我の知る歴史の真実を教えてやろう。時期が来たようだからな」
「……シームルグは初代魔王には懐いていなかったと言っていたよね」
「そうだ。シームルグは光を好み、光に魅入られる生き物なのだ。今でこそ魔獣という括りだが、本来シームルグは神獣として扱われる」
「光に……光魔法を扱えるのは勇者だけだったよね」
魔王が闇魔法を扱えるように、勇者は光を操る。昔から、光と闇は相対してきた。人間と魔族が争うように。
「その通りだ。シームルグは初代勇者に懐いていたのだ」
「でも、それだとおかしいよね。シームルグは初代魔王の傍にいたって歴史書には記されている」
「人間の歴史書を読んだことはあるか?」
「……随分昔に。もうあまり覚えていないや」
十歳のときチラッと覗いた程度だったから。
「人間の歴史書には、シームルグは勇者の眷属だと書かれてある。どちらも本当であり、巧妙に嘘を織り交ぜてあるのだ。なぜなら、初代魔王は自ら命を断ち、勇者はその後人間の住む土地から姿を消したからだ」
「初代魔王が命を?」
「そうだ。二人は恋仲だった。その時代、人間と魔族はお互いに助け合いながら暮らしていた。当時一帯を統治していたアルバート王と魔族の王であったアシェル王は誰もが知るほどに仲が良かった」
昔を懐かしむような声音に耳を傾け続ける。そんなにも仲の良かった二人が後に争い合うことになるなんて……。とても悲しいことだと思ってしまう。自分とノクスの姿を重ねてしまい、心が苦しくなる。
「争いの発端は両方の歴史書に刻まれている通り、魔族と人間の境界に位置する村で起きた小さないざこざだった。火種は、燃え盛り、あっという間に収集のつかない事態にまで発展したのだ。王達の意志とは関係なく、争いは激化していく。暴動、窃盗、殺し。どちらかの王が死なねば治まらない事態まで来たとき、アシェル王は事態収拾のために自ら命を絶つことを決めた」
「……もっと違う方法はなかったのかな……」
アルバート王の気持ちを考えると、苦しくて辛くなる。愛する人が死んでしまうなんて、想像するだけで絶望と喪失感が胸を覆い尽くす。
決めたんだ。僕は光の道を進んでいくと。そうして、闇を明るく照らすんだ。ノクスが、暖かな闇で包み込んでくれたように、次は僕が誰かの未来を輝かせたい。
「僕、第二王子に会いに行くよ」
「……坊ちゃんがそう決めたのであれば止めはしません」
「ありがとうジル」
決意を固め、笑みを浮かべる。兄様の墓へ視線を向け直すと、拳を墓石に向かって突き出し軽く触れた。
兄様、僕のこと見守っていてね。
「行ってきます兄様」
オレオールを握りしめて駆け出す。子爵家から王都までは徒歩で二、三日はかかると、オレオールが教えてくれた。ゆっくりしている暇はないから、明るいうちにできるだけ進んでおかないと。
獣道を進みながら、森に捨てられたとき一人で狩りをしていたことを思い出す。あの頃もできたんだから、成長した今なら野宿なんてへっちゃらだ。
「王都か。久しいな」
「オレオールは王都に行ったことがあるの?」
「我は生前王都に住んでいたのだ」
生前という言葉に引っ掛かりを覚える。足は動かしたまま、オレオールの話に耳を傾ける。オレオールが喋れることとなにか関係があるのだろうか。僕の親友は謎が多い。
「シームルグの件について聞きたがっていただろう。あれとも関係のある話ゆえ、我の知る歴史の真実を教えてやろう。時期が来たようだからな」
「……シームルグは初代魔王には懐いていなかったと言っていたよね」
「そうだ。シームルグは光を好み、光に魅入られる生き物なのだ。今でこそ魔獣という括りだが、本来シームルグは神獣として扱われる」
「光に……光魔法を扱えるのは勇者だけだったよね」
魔王が闇魔法を扱えるように、勇者は光を操る。昔から、光と闇は相対してきた。人間と魔族が争うように。
「その通りだ。シームルグは初代勇者に懐いていたのだ」
「でも、それだとおかしいよね。シームルグは初代魔王の傍にいたって歴史書には記されている」
「人間の歴史書を読んだことはあるか?」
「……随分昔に。もうあまり覚えていないや」
十歳のときチラッと覗いた程度だったから。
「人間の歴史書には、シームルグは勇者の眷属だと書かれてある。どちらも本当であり、巧妙に嘘を織り交ぜてあるのだ。なぜなら、初代魔王は自ら命を断ち、勇者はその後人間の住む土地から姿を消したからだ」
「初代魔王が命を?」
「そうだ。二人は恋仲だった。その時代、人間と魔族はお互いに助け合いながら暮らしていた。当時一帯を統治していたアルバート王と魔族の王であったアシェル王は誰もが知るほどに仲が良かった」
昔を懐かしむような声音に耳を傾け続ける。そんなにも仲の良かった二人が後に争い合うことになるなんて……。とても悲しいことだと思ってしまう。自分とノクスの姿を重ねてしまい、心が苦しくなる。
「争いの発端は両方の歴史書に刻まれている通り、魔族と人間の境界に位置する村で起きた小さないざこざだった。火種は、燃え盛り、あっという間に収集のつかない事態にまで発展したのだ。王達の意志とは関係なく、争いは激化していく。暴動、窃盗、殺し。どちらかの王が死なねば治まらない事態まで来たとき、アシェル王は事態収拾のために自ら命を絶つことを決めた」
「……もっと違う方法はなかったのかな……」
アルバート王の気持ちを考えると、苦しくて辛くなる。愛する人が死んでしまうなんて、想像するだけで絶望と喪失感が胸を覆い尽くす。
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