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成人編
過去との再会④
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「ここが入口みたい」
「人が出入りしている形跡があるようだが」
オレオールに指摘されて、まじまじと入口を観察してみる。格子門が微かに空いていて、地面には足跡らしきものもある。僕もそこから中へと入ると、辺りを見渡しながら庭を散策してみた。
「この辺だったと思うんだけど……」
「なにを探している」
「兄様の墓だよ。兄様が亡くなったとき、屋敷の庭に埋葬されたんだ」
兄様が亡くなってからも、両親は兄様を手元から離したくなかったんだ。本来であれば、一家専用の墓場に埋葬されるはずだったのだけれど、強い意向で敷地内に埋葬されることになったんだ。
「あっ、あれだ!」
「墓の周辺だけやけに綺麗だな」
「本当だね」
微かに苔むしてはいるものの、兄様の墓周りにだけ花が咲き誇り、綺麗に手入れされていることがわかる。
墓の前まで行くと、手を合わせて挨拶をする。少し目元が潤むのは、懐かしさのせいだろうか。
「久しぶり兄様。ソルだよ覚えているかな」
「ソル坊ちゃん……?」
墓に話しかけると、返事が聞こえて驚きに目を見開いた。墓から声がするはずもなく、顔を横へと向ける。手に花を抱えた初老の男性が驚愕の表情を浮かべながら、立っているのに気がつく。どことなく見覚えのある人だ。
「ソル坊ちゃんですかな!?」
「……もしかして、ジル?」
「そうです!使用人のジルバートです」
ジルは、ケリー子爵家の使用人頭だった人だ。両親から虐げられていた僕を助けようと、両親に提言してくれたり、まかないを残してくれたりしてくれていた。随分と老け込んだように感じるのは、年月のせいだろうか。昔は馴染み深かったブラウンの髪は白髪へと変化している。
「兄様の墓を綺麗にしてくれているのはジルだったんだね」
花束を墓前に置くジルに尋ねれば、肯定の返事が返ってくる。
「……子爵家でなにがあったの?」
「坊ちゃんが失踪されたあと、しばらくは旦那様と奥様二人きりで過ごしておられました。世継ぎが居なくなったために、次のお世継ぎをと考えられていましたが、翌年に旦那様が病に倒れ……。奥様は散財家ということもあり、一人では子爵家を存続させることもできず夜逃げをされて、行方知れずになられました。それから、子爵家は段々と荒れ果て、このような状態に。せめて、ルイン様のお墓だけでもと思い、こうして時々手入れに来ているのです」
両親が僕のことを失踪したと伝えていたことには驚かなかった。けれど、子爵家がそんな大変なことになっているとは思ってもいなくて、愕然としてしまう。
「それじゃあ、もう子爵家は……」
「……貴方様が唯一の生き残りということになります。本当に生きておられてよかった……」
僕の手を握りしめながら涙を流すジルを見つめる。複雑な心境だった。両親が居なくなったことを、悲しいとも嬉しいとも思えない。僕と両親の関係は親子とは言い難いものだったから。
「墓を守ってくれてありがとう」
僕が言えるのはこれだけな気がした。微笑みを浮かべれば、ジルが深く頷いてくれる。僕を助けられなかったと涙を流す彼に、大丈夫だと伝えて、背を撫でてやった。
「人が出入りしている形跡があるようだが」
オレオールに指摘されて、まじまじと入口を観察してみる。格子門が微かに空いていて、地面には足跡らしきものもある。僕もそこから中へと入ると、辺りを見渡しながら庭を散策してみた。
「この辺だったと思うんだけど……」
「なにを探している」
「兄様の墓だよ。兄様が亡くなったとき、屋敷の庭に埋葬されたんだ」
兄様が亡くなってからも、両親は兄様を手元から離したくなかったんだ。本来であれば、一家専用の墓場に埋葬されるはずだったのだけれど、強い意向で敷地内に埋葬されることになったんだ。
「あっ、あれだ!」
「墓の周辺だけやけに綺麗だな」
「本当だね」
微かに苔むしてはいるものの、兄様の墓周りにだけ花が咲き誇り、綺麗に手入れされていることがわかる。
墓の前まで行くと、手を合わせて挨拶をする。少し目元が潤むのは、懐かしさのせいだろうか。
「久しぶり兄様。ソルだよ覚えているかな」
「ソル坊ちゃん……?」
墓に話しかけると、返事が聞こえて驚きに目を見開いた。墓から声がするはずもなく、顔を横へと向ける。手に花を抱えた初老の男性が驚愕の表情を浮かべながら、立っているのに気がつく。どことなく見覚えのある人だ。
「ソル坊ちゃんですかな!?」
「……もしかして、ジル?」
「そうです!使用人のジルバートです」
ジルは、ケリー子爵家の使用人頭だった人だ。両親から虐げられていた僕を助けようと、両親に提言してくれたり、まかないを残してくれたりしてくれていた。随分と老け込んだように感じるのは、年月のせいだろうか。昔は馴染み深かったブラウンの髪は白髪へと変化している。
「兄様の墓を綺麗にしてくれているのはジルだったんだね」
花束を墓前に置くジルに尋ねれば、肯定の返事が返ってくる。
「……子爵家でなにがあったの?」
「坊ちゃんが失踪されたあと、しばらくは旦那様と奥様二人きりで過ごしておられました。世継ぎが居なくなったために、次のお世継ぎをと考えられていましたが、翌年に旦那様が病に倒れ……。奥様は散財家ということもあり、一人では子爵家を存続させることもできず夜逃げをされて、行方知れずになられました。それから、子爵家は段々と荒れ果て、このような状態に。せめて、ルイン様のお墓だけでもと思い、こうして時々手入れに来ているのです」
両親が僕のことを失踪したと伝えていたことには驚かなかった。けれど、子爵家がそんな大変なことになっているとは思ってもいなくて、愕然としてしまう。
「それじゃあ、もう子爵家は……」
「……貴方様が唯一の生き残りということになります。本当に生きておられてよかった……」
僕の手を握りしめながら涙を流すジルを見つめる。複雑な心境だった。両親が居なくなったことを、悲しいとも嬉しいとも思えない。僕と両親の関係は親子とは言い難いものだったから。
「墓を守ってくれてありがとう」
僕が言えるのはこれだけな気がした。微笑みを浮かべれば、ジルが深く頷いてくれる。僕を助けられなかったと涙を流す彼に、大丈夫だと伝えて、背を撫でてやった。
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