勇者は魔王!?〜愛を知らない勇者は、魔王に溺愛されて幸せになります〜

天宮叶

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成人編

過去との再会③

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「シームルグ、行きたい場所があるんだ」

目指すは、苦い思い出の場所である、ケリー子爵家。僕の実家だ。土地勘があるというオレオールに道を尋ねながら、広大な森の上を駆ける。

「オレオール綺麗だね」

目の前には森と、広大な街並み。まだ見ぬ広い世界。僕が守りたいと思っているすべて。

「ノクスとも見たかったな……」
「後悔しているのか」

問いかけられて首を横にふる。後悔はしていない。これでよかったと思っている。でも、やっぱり寂しくて悲しい。
ときどき、高台になっている地面に降りて休憩を挟みながら、子爵家への道を進んでいく。遠くの方にそれらしき建物が見えてきたのは、朝日が上りきった朝方のことだった。

近づいていくにつれて、記憶にある屋敷よりも随分と荒れ果てていることに気がつく。昔は美しく整えられていた中庭には草や木が伸び切り、屋敷自体にも蔦などが絡みつき、昔の面影はない。

「……どうしてこんなことに」

呟きが空に溶けて消える。シームルグが地面に着地すると、背から降りて辺りを見渡す。今立っている場所も、昔は、整地され人の行き来があったのに、今は草に覆われて道もほとんど隠れてしまっている。

「シームルグありがとう」
「ピッ」
「ふふ、くすぐったいよ」

シームルグの長い舌が頬を舐めてきて、くすぐったさに笑みをこぼす。艶やかな嘴くちばしに頬を添えると、もう一度だけ感謝の言葉を述べた。

「君は魔王城におかえり」
「ピィィ!」
「ごめんね。人間の土地で君は目立ってしまう。だから、連れては行けないんだ」
「……クルルル」

寂しそうな声に、胸が苦しいくらい切なくなった。僕も離れたくなんてない。いつだってこの美しく大きな背に乗り、一緒に羽ばたいていたい。
でも、シームルグに乗せてもらうのは今日が最後になるかもしれないんだ。涙が出そうになって、ぐっと堪えた。今更、後戻りはできない。

「行って」

優しく羽を叩いてやれば、シームルグは悲しげに一鳴きして飛び立っていく。後ろ姿が見えなくなるまで見送ると、シームルグか飛んで行った方に背を向けて、道無き道を進み始めた。
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