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成人編
過去との再会①
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皆が寝静まった夜中、ノクスを起こさないようにベッドから出る。服を着直し自室へと向かおうと足を前へ出した。
「どこに行く」
「……ノクス」
けれど、腕を掴まれて動きが止まる。慎重にベッドを出たはずなのに、起こしてしまったらしい。普段は、自信が宿りいつだって真っ直ぐに前だけを見つめている深紅の瞳が、不安げに揺れている気がした。
「部屋に戻るんだ」
「ここで眠ればいい」
「……オレオールをひとりぼっちにしているから」
「ソル、私の目を見ろ」
言われて、そらしていた視線をノクスへと向ける。全てを見透かす赤い瞳と目が合って、浮かべていた笑みが崩れそうになった。バレてはいけない。心の中で深呼吸をし、笑みを浮かべなおす。
「どこにも行かないよ」
ごめんね、嘘をついて。でも、ノクスの傍には居られないんだ。
「……本当に?」
「ふふ、本当だよ。約束」
小指を突き出し、手を目の前へと持っていく。数秒、手を見つめていたノクスが唇を小指へと寄せる。柔らかな唇の感触に翻弄されそうになる。けれど、それを耐え、手を降ろした。
「また明日。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ノクスの手が頬を撫でてくれる。その手を振り切るように部屋から出ると、口元を押えて扉の前に屈み込んだ。耐えていた涙が溢れてくる。何度も泣いて、その度に心は沈んでいく。はやく立ち去らなければならないのに、離れ難いと思ってしまう。嘘をついてごめんなさい。愛しています。無理矢理身体を動かして立ち上がり、扉に向かってお辞儀をすると、自室へと向かう。
「戻ってきたか」
「起きていたんだね」
オレオールに声をかけられて眉を垂れさせた。音を立てないように荷物を鞄へと詰めていく。魔王城に来て十年。初めは必要最低限の物しかなかった部屋には、今や沢山の物が溢れている。
ノクスから貰ったオルゴール、ザインが拾ってきてくれたキラキラと光る鉱石。アランが修行を始めるときにくれた短剣。ベアトリスはいつも綺麗な花を飾り付けてくれる。
「寂しいな……」
「ソルよ、出ていかずともよいのではないか」
オレオールの言葉に首を横に振る。もう決めたことだから。それに、ここを出たらなにをするかは決めてあるんだ。
「……家に帰ってみようと思っているんだ」
「十歳まで過ごしていた家のことか?」
「うん。ずっと気になっていたから。それにお墓参りにも行けていなかったしね」
久しぶりに兄様に会いに行こうと思う。行けば、この先僕がやらなければいけないことも自ずと見えてくると思うから。
「どこに行く」
「……ノクス」
けれど、腕を掴まれて動きが止まる。慎重にベッドを出たはずなのに、起こしてしまったらしい。普段は、自信が宿りいつだって真っ直ぐに前だけを見つめている深紅の瞳が、不安げに揺れている気がした。
「部屋に戻るんだ」
「ここで眠ればいい」
「……オレオールをひとりぼっちにしているから」
「ソル、私の目を見ろ」
言われて、そらしていた視線をノクスへと向ける。全てを見透かす赤い瞳と目が合って、浮かべていた笑みが崩れそうになった。バレてはいけない。心の中で深呼吸をし、笑みを浮かべなおす。
「どこにも行かないよ」
ごめんね、嘘をついて。でも、ノクスの傍には居られないんだ。
「……本当に?」
「ふふ、本当だよ。約束」
小指を突き出し、手を目の前へと持っていく。数秒、手を見つめていたノクスが唇を小指へと寄せる。柔らかな唇の感触に翻弄されそうになる。けれど、それを耐え、手を降ろした。
「また明日。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ノクスの手が頬を撫でてくれる。その手を振り切るように部屋から出ると、口元を押えて扉の前に屈み込んだ。耐えていた涙が溢れてくる。何度も泣いて、その度に心は沈んでいく。はやく立ち去らなければならないのに、離れ難いと思ってしまう。嘘をついてごめんなさい。愛しています。無理矢理身体を動かして立ち上がり、扉に向かってお辞儀をすると、自室へと向かう。
「戻ってきたか」
「起きていたんだね」
オレオールに声をかけられて眉を垂れさせた。音を立てないように荷物を鞄へと詰めていく。魔王城に来て十年。初めは必要最低限の物しかなかった部屋には、今や沢山の物が溢れている。
ノクスから貰ったオルゴール、ザインが拾ってきてくれたキラキラと光る鉱石。アランが修行を始めるときにくれた短剣。ベアトリスはいつも綺麗な花を飾り付けてくれる。
「寂しいな……」
「ソルよ、出ていかずともよいのではないか」
オレオールの言葉に首を横に振る。もう決めたことだから。それに、ここを出たらなにをするかは決めてあるんだ。
「……家に帰ってみようと思っているんだ」
「十歳まで過ごしていた家のことか?」
「うん。ずっと気になっていたから。それにお墓参りにも行けていなかったしね」
久しぶりに兄様に会いに行こうと思う。行けば、この先僕がやらなければいけないことも自ずと見えてくると思うから。
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