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成人編
さようなら愛おしい人③
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ぐっと唇を噛み締めると、ノクスの隣に寄り添うように立つ。
「どうかしたのか?」
「ノクス大好き」
「……ああ、知っている」
「あのね、お願いがあってきたんだ」
声が震えていないだろうか。ノクスの顔を見ることができない。顔に笑みを貼り付けながら、痛む心に蓋をする。
ノクスの首に腕を回し、頬擦りをしながらできるだけ明るい声で言葉を発する。泣きそうだ。でも、耐えないと。
「今夜も一緒に寝てくれないかな」
「……いいだろう」
返ってきた返事を聞いて、内心で安堵する。今夜を最後の思い出にしようと決めたからだ。僕は魔王城を出ていく。それが皆のためになると思うから。この温かな場所を離れるのはとても辛い。それでも、出ていかなければならないと思った。
ノクスの隣に椅子を持ってきて腰掛けると、手元や顔を見つめる。政務中だから邪魔はしたくないけれど、今日が最後の日になるのだから、もっとノクスを目に焼き付けておきたいとも思う。
カチカチと柱時計の動く音だけが鳴り響いている。時折僕の髪を撫でては、また資料へと視線を戻すノクス。これも演技? すべてを疑ってしまいそうになる。
彼から与えられるすべてを、なんの疑いもなく受け止めてきた。毎日が幸せで、嬉しくて、優しさに満ち溢れている。それすらもまやかしに過ぎないとしたら……。時は一刻一刻と過ぎていき、気がつけば空には紫と橙色の雲がかかりかけている。
カタリと、羽根ペンの置かれる音が聞こえて顔を上げると、大好きな手が頬を撫でてきた。
「湯浴みをしてこよう」
席から立ち上がったノクスの言葉にピクリと反応する。
「……僕も一緒に入ってもいいかな」
「ソルもか?」
微かに動揺を見せるノクスを見上げながら、ダメ? と再度尋ねてみた。深いため息を零したノクスが、僕の頬に手を添え、そっと口付けをしてくれる。
目尻に微かに涙が浮かびかけて、下を向く。今は触れられるだけで泣いてしまいそうになる。
どうしてノクスはキスをしてくれるのだろうか。彼にとっての僕はどういう存在? 聞きたいことは山ほどあるのに、言葉は一つとして形にはなってくれない。
「行こう」
返事の代わりに手を引かれて、心臓が音を立てる。触れられたところから感じられる熱が好き。どれだけでも求めてしまいそうになる。壊れ物を扱うように、優しく触れられてしまうと、ダメだとわかっていても求めてしまうんだ。
「どうかしたのか?」
「ノクス大好き」
「……ああ、知っている」
「あのね、お願いがあってきたんだ」
声が震えていないだろうか。ノクスの顔を見ることができない。顔に笑みを貼り付けながら、痛む心に蓋をする。
ノクスの首に腕を回し、頬擦りをしながらできるだけ明るい声で言葉を発する。泣きそうだ。でも、耐えないと。
「今夜も一緒に寝てくれないかな」
「……いいだろう」
返ってきた返事を聞いて、内心で安堵する。今夜を最後の思い出にしようと決めたからだ。僕は魔王城を出ていく。それが皆のためになると思うから。この温かな場所を離れるのはとても辛い。それでも、出ていかなければならないと思った。
ノクスの隣に椅子を持ってきて腰掛けると、手元や顔を見つめる。政務中だから邪魔はしたくないけれど、今日が最後の日になるのだから、もっとノクスを目に焼き付けておきたいとも思う。
カチカチと柱時計の動く音だけが鳴り響いている。時折僕の髪を撫でては、また資料へと視線を戻すノクス。これも演技? すべてを疑ってしまいそうになる。
彼から与えられるすべてを、なんの疑いもなく受け止めてきた。毎日が幸せで、嬉しくて、優しさに満ち溢れている。それすらもまやかしに過ぎないとしたら……。時は一刻一刻と過ぎていき、気がつけば空には紫と橙色の雲がかかりかけている。
カタリと、羽根ペンの置かれる音が聞こえて顔を上げると、大好きな手が頬を撫でてきた。
「湯浴みをしてこよう」
席から立ち上がったノクスの言葉にピクリと反応する。
「……僕も一緒に入ってもいいかな」
「ソルもか?」
微かに動揺を見せるノクスを見上げながら、ダメ? と再度尋ねてみた。深いため息を零したノクスが、僕の頬に手を添え、そっと口付けをしてくれる。
目尻に微かに涙が浮かびかけて、下を向く。今は触れられるだけで泣いてしまいそうになる。
どうしてノクスはキスをしてくれるのだろうか。彼にとっての僕はどういう存在? 聞きたいことは山ほどあるのに、言葉は一つとして形にはなってくれない。
「行こう」
返事の代わりに手を引かれて、心臓が音を立てる。触れられたところから感じられる熱が好き。どれだけでも求めてしまいそうになる。壊れ物を扱うように、優しく触れられてしまうと、ダメだとわかっていても求めてしまうんだ。
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