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成人編

仲間はずれは悲しいです①

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キンッと刀身の擦れ合う音が早朝の騎士訓練場に鳴り響く。弾き飛ばされた剣が宙を舞い、地面へと突き刺さった。

「やっぱりアランには敵わないな」

手を上げて降参のポーズを示せば、アランがふんっと鼻を鳴らす。魔王城に来てからあっという間に十年の月日が経ち、僕は二十歳になっていた。練習用の鋼剣を地面から抜くと、ソードラックへと仕舞う。ベンチへと寝かせていたオレオールを腰に刺し直して、アランへと向き直った。

「また全敗記録が増えたよ」

僕がアランに剣術を習うようになってから随分経つ。何度も頼み込んでようやく教えて貰えるようになったのは、厳しい叱責を受けた日から約一年後のことだった。

「おー、やってんな」
「ザインおはよう」

眠たそうに大欠伸をしながら訓練所へと来たザインに挨拶をする。アランもザインも、僕が幼かった頃と見た目はほとんど変わらない。僕だけが昔とは全く違う姿になっている。短かった腕は伸びたし、低かった背は今やザインと並ぶほど。時々、幼い頃は可愛げがあった、なんて皆から言われたりもする。

「訓練は終わりだ」
「ありがとうアラン」

お礼を伝えると、そっぽを向かれてしまう。相変わらずアランの人間嫌いは変わらない。でも、ちゃんと訓練をしてくれるのだから根は優しい人だと知っている。

「朝食を終えたら魔法訓練に付き合ってね」

ザインに声をかければ、了承の返事が返ってきた。不思議なことに、ノクスに兄様のことを話した日から、少しずつ魔法訓練ができるようになっていき、今やザインと魔法の撃ち合いをするまでになっている。

くぅーと鳴り響くお腹を抑えながら部屋へと向かう。中に入ると、椅子に腰かけて本を読んでいた愛おしい人が視界へと入ってきた。切れ長の深紅の瞳がこちらを見る。昔となんら変わらない端正な顔が、微かに綻ほころんだように感じた。

「ソル、訓練は終わったのか」
「今日も負けちゃった」

ノクスの隣の椅子に腰掛けると、ベアトリスが食事を並べてくれる。食後にはもちろんケーキが待っているから楽しみでしかたない。トーマスさん(コック長)の日替わりケーキはどれも絶品だから。

「ノクス」

名前を呼ぶと顔を向けてくれる。その隙に口元にちぎったパンを持っていくけれど、ギリギリのところで躱されてしまった。

「自分で食べられる」
「ノクスだって前は僕にしてくれていたでしょう」
「いつの話をしているんだ。私は子供ではないのだぞ」

小言をつぶやきながら自分でパンを食べ始めたノクスを、満面の笑みを浮かべながら見つめる。朝からこんな風にノクスとやり取りできることが幸せだって、毎日噛み締めているんだ。

「冷めてしまうぞ」
「んー、もう少しだけノクスのこと見ていたいんだ」

食べ終えたら訓練が待っているし、ノクスも政務がある。だから、誰にも邪魔をされない唯一の時間は今だけ。貴重な瞬間を堪能しないと損だって思ってしまう。

「いいから食え」

無理矢理パンを口に押し込まれる。昔よりかは雑だけれど、時々こうやって食べさせてくれたりするから嬉しくなる。

「もっと頂戴」

服の袖を掴んでねだれば、ため息をこぼしたノクスが今度は優しくパンを運んでくれる。唇に指先が微かに触れて、ドキリとしてしまう。

「美味しい」

はにかみながら感想を言えば、視線をそらしたノクスが、そうか、と簡素な返事をしてくれた。少しだけ顔が赤い気がするけれど、熱でもあるのかな? 心配になって手を頬に添えると、驚いたのか見開かれた赤い瞳と目が合う。

「あれ、顔の赤みが増してる。熱があるの? 大丈夫?」
「っ、熱などない。顔が近いぞ」
「あっ、ごめんね」

心配しすぎて前のめりになってしまっていたのか、至近距離にノクスの顔があって、慌てて身体を離す。

「食べさせてやるから、もう動くな」
「ん。わかった」

言葉通りスープを口に運んでくれるノクスを見つめ続ける。こんな風に優しく扱われると、自分が彼の特別になれているような気がして舞い上がりそうになるんだ。少しずつ減っていくスープを視界の端に入れながら、なくならなければいいのにと思った。
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