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幼少期編
シームルグに会いに行こう②
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ケーキの件で、少しだけアランへ苦手意識が生まれているからだろうか。アランは渋々といった様子で了承しているけれど……。
「ソル、この間言っていたな。強くなり誰もが幸福になれる世を作ると。その手助けをしたいと思っている。私の手を取ってくれるか?」
ノクスの真剣な瞳が僕を射抜く。大好きな人に、こんな風に言って貰えることが本当に幸せなことだと思える。その手を取りたい。きっと、ノクスや、ここにいる皆と一緒なら、成し遂げられるって思えるから。
「僕、頑張るよ」
差し出された手に、自身の手をあてがう。その瞬間、僕とノクスの間に確かな繋がりができたような気がした。
黒紫色の霧が僕達を包む。横向きに抱えられると首へと腕を回す。そうして、目を閉じれば次の瞬間には自分の部屋へと戻ってきていた。
僕とノクスの二人だけ。他の皆は部屋には居ない。降ろされると、手を繋いだままソファーへと腰掛ける。
「先程は取り乱してすまなかった」
「ううん、大丈夫。ノクスは初代魔王様のことが好きなんだね」
「幼い頃、親から引き離されたと話ただろう」
「うん」
あのときのことを思い出すと、切なくて苦しい気持ちになる。けれど、ノクスのことを知れるのは嬉しいから、話に耳を傾ける。
「魔王に血筋は関係ない。私はソルと同じ歳の頃、闇魔法を扱えることが分かり、魔王としての教育のため魔王城に連れてこられた。そのとき、何度も聞かされたのが初代魔王の話だ。初代魔王は私にとって尊敬するに値する人物なのだ」
ノクスにとっては憧れの人なんだね。だからオレオールに否定されて、あんなに怒ったんだ。話を聞いて、もっとノクスのことを近くに感じられた気がする。沢山ノクスのことを知りたい。
「嬉しいな」
「……嬉しい?」
「うん。ノクスが自分のことを教えてくれるのは、僕のことを信用してくれているからでしょう。だから、嬉しいんだ」
笑みがこぼれる。笑う僕を撫でながら、ノクスも目を細めて微かに笑った気がした。僕の幸せは、きっとノクスの傍にあるんだと思う。毎日、実感する。ノクスが好き。ノクスのことを見つめていたい。
「やっぱり僕、ノクスのことが大好き」
満面の笑みを向ければ、ノクスの手が戸惑いがちに頭を撫でてくれる。もう、否定の言葉は返ってこない。ただ、あやすように優しく指が髪の間を通り、心地良さをくれる。
「疲れただろう。湯浴みをして寝るといい」
「……あの……」
離れるのは寂しい。だから、わがままを言わせてほしい。
「……僕が寝るまで一緒にいて欲しい……」
言ったあとに気まずさを覚えて目をそらす。ノクスは忙しいのに、こんなこと言ったら困らせちゃうかもしれない。
「かまわない。おとぎ話でも読んでやろう」
「っ、嬉しい」
部屋の前で待機していたベアトリスと一緒にお風呂に向かうと、身体を清めてから部屋へと戻る。ベッドのすぐ横に置かれたチェアに腰掛けて絵本を眺めていたノクスに声をかければ、ベッドに横になるように言われた。
外は真っ暗。灯りが消されると、ノクスの声だけが部屋を覆い尽くす。ノクスの空いている方の手に触れれば、痛くない力加減で握り返される。
うつらうつら船を漕ぎながら、幸せな時間に身を浸す。低音の落ち着いた声は聞いているだけで心地よくさせてくれる。
「大好き……」
「……」
「ぼく……はやくおとなになる、からね……」
一気に眠気が襲ってきて、呂律も回らないまま気持ちを伝え続ける。顔にかかる前髪を撫で払われながら、穏やかに思考を闇に溶かす。
「焦らず、ゆっくりと大人になればいい。お前が望む限り共にあると約束する。それがこの世のためにもなるのだから」
頬に柔らかな感触がして、小さなリップ音が聴こえた気がした。でも、それはすぐに睡魔へと掻き消されてわからなくなった。
「ソル、この間言っていたな。強くなり誰もが幸福になれる世を作ると。その手助けをしたいと思っている。私の手を取ってくれるか?」
ノクスの真剣な瞳が僕を射抜く。大好きな人に、こんな風に言って貰えることが本当に幸せなことだと思える。その手を取りたい。きっと、ノクスや、ここにいる皆と一緒なら、成し遂げられるって思えるから。
「僕、頑張るよ」
差し出された手に、自身の手をあてがう。その瞬間、僕とノクスの間に確かな繋がりができたような気がした。
黒紫色の霧が僕達を包む。横向きに抱えられると首へと腕を回す。そうして、目を閉じれば次の瞬間には自分の部屋へと戻ってきていた。
僕とノクスの二人だけ。他の皆は部屋には居ない。降ろされると、手を繋いだままソファーへと腰掛ける。
「先程は取り乱してすまなかった」
「ううん、大丈夫。ノクスは初代魔王様のことが好きなんだね」
「幼い頃、親から引き離されたと話ただろう」
「うん」
あのときのことを思い出すと、切なくて苦しい気持ちになる。けれど、ノクスのことを知れるのは嬉しいから、話に耳を傾ける。
「魔王に血筋は関係ない。私はソルと同じ歳の頃、闇魔法を扱えることが分かり、魔王としての教育のため魔王城に連れてこられた。そのとき、何度も聞かされたのが初代魔王の話だ。初代魔王は私にとって尊敬するに値する人物なのだ」
ノクスにとっては憧れの人なんだね。だからオレオールに否定されて、あんなに怒ったんだ。話を聞いて、もっとノクスのことを近くに感じられた気がする。沢山ノクスのことを知りたい。
「嬉しいな」
「……嬉しい?」
「うん。ノクスが自分のことを教えてくれるのは、僕のことを信用してくれているからでしょう。だから、嬉しいんだ」
笑みがこぼれる。笑う僕を撫でながら、ノクスも目を細めて微かに笑った気がした。僕の幸せは、きっとノクスの傍にあるんだと思う。毎日、実感する。ノクスが好き。ノクスのことを見つめていたい。
「やっぱり僕、ノクスのことが大好き」
満面の笑みを向ければ、ノクスの手が戸惑いがちに頭を撫でてくれる。もう、否定の言葉は返ってこない。ただ、あやすように優しく指が髪の間を通り、心地良さをくれる。
「疲れただろう。湯浴みをして寝るといい」
「……あの……」
離れるのは寂しい。だから、わがままを言わせてほしい。
「……僕が寝るまで一緒にいて欲しい……」
言ったあとに気まずさを覚えて目をそらす。ノクスは忙しいのに、こんなこと言ったら困らせちゃうかもしれない。
「かまわない。おとぎ話でも読んでやろう」
「っ、嬉しい」
部屋の前で待機していたベアトリスと一緒にお風呂に向かうと、身体を清めてから部屋へと戻る。ベッドのすぐ横に置かれたチェアに腰掛けて絵本を眺めていたノクスに声をかければ、ベッドに横になるように言われた。
外は真っ暗。灯りが消されると、ノクスの声だけが部屋を覆い尽くす。ノクスの空いている方の手に触れれば、痛くない力加減で握り返される。
うつらうつら船を漕ぎながら、幸せな時間に身を浸す。低音の落ち着いた声は聞いているだけで心地よくさせてくれる。
「大好き……」
「……」
「ぼく……はやくおとなになる、からね……」
一気に眠気が襲ってきて、呂律も回らないまま気持ちを伝え続ける。顔にかかる前髪を撫で払われながら、穏やかに思考を闇に溶かす。
「焦らず、ゆっくりと大人になればいい。お前が望む限り共にあると約束する。それがこの世のためにもなるのだから」
頬に柔らかな感触がして、小さなリップ音が聴こえた気がした。でも、それはすぐに睡魔へと掻き消されてわからなくなった。
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