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幼少期編
病気になってしまいました②
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魔王城に来て数週間程が経つ。色々なことがありすぎて、感情が追いついていないようにも感じていた。好きな物があって、伝えればノクスは必ず与えてくれる。皆、よくしてくれて、幸せだと思える。けれど、本当にそれを受け取ってもいいのかな?
欲しいと思うけれど、いままで与えられずに生きてきたから、なくても構わないとも思うときがある。子供らしくあっていいとノクスは言ってくれたけれど、未だに上手く子供らしくできているのかもわからない。
「……兄様」
ノクスと兄様は似ている。大きくて温かな手のひらで撫でられるのは好き。でも、兄様にドキドキしたことはない。優秀だった兄様なら、きっとこの症状がなんなのもかもわかるんだろうな。
「ここにいたのか」
「っ! ノクス……」
無表情のノクスがこちらへと近づいてくる。靴が地面を蹴る足音が大きく鳴り響いている気がした。椅子に座っている僕の横に屈み、下から見上げてくる深紅の瞳と目が合う。
気まずくてそらそうとしたら、手が頬に添えられてそらすことはできなかった。頬を撫でられて、軽く摘まれる。
「泣きそうな顔をしている」
「……そんなことないよ」
取り繕うように笑みを浮かべる。子爵家にいた頃からの癖のようなものだ。笑っていないといけない気がしている。悲しくても辛くても、とにかく笑っていれば乗り越えられる。泣いたら心がもっと辛くなるし、ため息を零せば重くなる。だから、笑っていよう。そう決めたのは、兄様に怪我を負わせてしまった頃のこと。
「無理に笑わなくともいい。私がなにかしたのなら謝ろう」
ノクスの言葉を首を横に振って否定する。なにも悪くなんてない。ただ、僕がノクスといると変な気持ちになるから、戸惑ってるんだ。
「っ、手痛かった?」
「痛くなどない。それよりもソルのことが気がかりだ」
「僕……」
この気持ちを話したら嫌われたりしないかな。正直に自分の気持ちをさらけ出すことが怖くて、苦手。
「我慢せずに言ってみろ。私に甘えていいんだ」
唇を噛み締めて、ノクスの首元へとすがりついた。やっぱりノクスといるとドキドキするし、触られると少し緊張する。でも、この優しさに心を預けてみたいと思うんだ。そう思えるのはノクスにだけ。
「僕、ノクスといるとドキドキするんだ。撫でられるのも触れられるのも好きだけど、少しだけ怖いって思うときもある。胸が苦しくなって、ノクスのことで頭がいっぱいになるから」
「……それは……」
「僕ね……ノクスのこと大好きなんだと思う」
この気持ちに名前を付けるとするなら、それは『恋』だ。自覚した気持ちは次から次に溢れてきて、僕の心を満たしていく。
「好き、すきっ、すき」
「……ソルそれは多分勘違いだ」
なのに、ノクスは僕の心を初めて否定した。ボロボロと涙が溢れてくる。どうやったら僕の気持ちが伝わるのかな?
「違うもん……。勘違いなんかじゃない」
「まだ幼いから、優しくされて恋愛感情だと思ってしまっただけだ。私が甘いから勘違いさせてしまったのだろう」
「違うっ……違うもん……」
ポカポカとノクスの胸を叩く。僕が子供だから勘違いだって否定するの? 受け入れてくれなくてもいいから、否定することだけはして欲しくなくて、泣きながら何度も違うと伝えた。
戸惑いがちに背を撫でてくれる大きな手が、今は少し憎らしい。僕も、ノクスの背に手を回せるくらい大きくなったら勘違いだと否定されることもないのだろうか。
「……私も幼い頃に親と引き離され、魔王としての教育を無理矢理受けさせられていた。闇魔法を使えるのは魔王だけだ。だから、闇魔法を使えるとわかった日から私は孤独になった。ソルを魔王城に連れてきたのは、親に捨てられ身寄りのなかったお前が自分と重なって見えたからだ。もちろん監視するという理由もあるがな。だから、ソルに対して恋愛感情など持っていない。あるのは同情だけだ」
「っ……」
わざときつい言い方をしているんだってわかる。ノクスは優しい人だから、僕の心を否定しながらも、無下にすることはない。でも、それが一番辛いんだ。
諦めたらいい。今までだってそうしてきた。なのに、その選択肢は僕の中にはない。あるのは、ただノクスに好かれたいという思いと、子供ではなく一人の人間として見て欲しいという気持ちだけ。
「手を触らせて」
「……好きにしたらいい」
大きな手にそっと触れる。手のひらを合わせると、僕の二倍以上はあるとわかる。この差が憎らしい。早く大人になりたい。子供らしくないと言われるけれど、僕はまだ子供なんだ。だから、本当の意味で大人になりたい。
ノクスの手の甲に顔を近づける。唇を寄せれば、ぴくりとノクスが身じろいだのがわかった。でも、拒否はされない。僕の気持ちは嘘じゃないって証明するよ。
「僕はノクスのことが好き。必ずわからせてみせるから」
これは僕にとっての初めての欲だ。ケーキやクッキーとは違う。本当に心の底から欲しいと思える。そんな大きな欲望。
「……もし、その気持ちが成長した後も変わらなければ、私も少しは考慮しよう」
悩ましげに眉を寄せ、少し目をそらしながら発せられたか細い言葉にらおもわず破顔してしまう。ノクスの前だと泣いたり笑ったりできる。自分らしくいられるんだ。
いつも無表情なノクスの困り顔を堪能しながら、やっぱりはやく大人になりたいなって思った。
欲しいと思うけれど、いままで与えられずに生きてきたから、なくても構わないとも思うときがある。子供らしくあっていいとノクスは言ってくれたけれど、未だに上手く子供らしくできているのかもわからない。
「……兄様」
ノクスと兄様は似ている。大きくて温かな手のひらで撫でられるのは好き。でも、兄様にドキドキしたことはない。優秀だった兄様なら、きっとこの症状がなんなのもかもわかるんだろうな。
「ここにいたのか」
「っ! ノクス……」
無表情のノクスがこちらへと近づいてくる。靴が地面を蹴る足音が大きく鳴り響いている気がした。椅子に座っている僕の横に屈み、下から見上げてくる深紅の瞳と目が合う。
気まずくてそらそうとしたら、手が頬に添えられてそらすことはできなかった。頬を撫でられて、軽く摘まれる。
「泣きそうな顔をしている」
「……そんなことないよ」
取り繕うように笑みを浮かべる。子爵家にいた頃からの癖のようなものだ。笑っていないといけない気がしている。悲しくても辛くても、とにかく笑っていれば乗り越えられる。泣いたら心がもっと辛くなるし、ため息を零せば重くなる。だから、笑っていよう。そう決めたのは、兄様に怪我を負わせてしまった頃のこと。
「無理に笑わなくともいい。私がなにかしたのなら謝ろう」
ノクスの言葉を首を横に振って否定する。なにも悪くなんてない。ただ、僕がノクスといると変な気持ちになるから、戸惑ってるんだ。
「っ、手痛かった?」
「痛くなどない。それよりもソルのことが気がかりだ」
「僕……」
この気持ちを話したら嫌われたりしないかな。正直に自分の気持ちをさらけ出すことが怖くて、苦手。
「我慢せずに言ってみろ。私に甘えていいんだ」
唇を噛み締めて、ノクスの首元へとすがりついた。やっぱりノクスといるとドキドキするし、触られると少し緊張する。でも、この優しさに心を預けてみたいと思うんだ。そう思えるのはノクスにだけ。
「僕、ノクスといるとドキドキするんだ。撫でられるのも触れられるのも好きだけど、少しだけ怖いって思うときもある。胸が苦しくなって、ノクスのことで頭がいっぱいになるから」
「……それは……」
「僕ね……ノクスのこと大好きなんだと思う」
この気持ちに名前を付けるとするなら、それは『恋』だ。自覚した気持ちは次から次に溢れてきて、僕の心を満たしていく。
「好き、すきっ、すき」
「……ソルそれは多分勘違いだ」
なのに、ノクスは僕の心を初めて否定した。ボロボロと涙が溢れてくる。どうやったら僕の気持ちが伝わるのかな?
「違うもん……。勘違いなんかじゃない」
「まだ幼いから、優しくされて恋愛感情だと思ってしまっただけだ。私が甘いから勘違いさせてしまったのだろう」
「違うっ……違うもん……」
ポカポカとノクスの胸を叩く。僕が子供だから勘違いだって否定するの? 受け入れてくれなくてもいいから、否定することだけはして欲しくなくて、泣きながら何度も違うと伝えた。
戸惑いがちに背を撫でてくれる大きな手が、今は少し憎らしい。僕も、ノクスの背に手を回せるくらい大きくなったら勘違いだと否定されることもないのだろうか。
「……私も幼い頃に親と引き離され、魔王としての教育を無理矢理受けさせられていた。闇魔法を使えるのは魔王だけだ。だから、闇魔法を使えるとわかった日から私は孤独になった。ソルを魔王城に連れてきたのは、親に捨てられ身寄りのなかったお前が自分と重なって見えたからだ。もちろん監視するという理由もあるがな。だから、ソルに対して恋愛感情など持っていない。あるのは同情だけだ」
「っ……」
わざときつい言い方をしているんだってわかる。ノクスは優しい人だから、僕の心を否定しながらも、無下にすることはない。でも、それが一番辛いんだ。
諦めたらいい。今までだってそうしてきた。なのに、その選択肢は僕の中にはない。あるのは、ただノクスに好かれたいという思いと、子供ではなく一人の人間として見て欲しいという気持ちだけ。
「手を触らせて」
「……好きにしたらいい」
大きな手にそっと触れる。手のひらを合わせると、僕の二倍以上はあるとわかる。この差が憎らしい。早く大人になりたい。子供らしくないと言われるけれど、僕はまだ子供なんだ。だから、本当の意味で大人になりたい。
ノクスの手の甲に顔を近づける。唇を寄せれば、ぴくりとノクスが身じろいだのがわかった。でも、拒否はされない。僕の気持ちは嘘じゃないって証明するよ。
「僕はノクスのことが好き。必ずわからせてみせるから」
これは僕にとっての初めての欲だ。ケーキやクッキーとは違う。本当に心の底から欲しいと思える。そんな大きな欲望。
「……もし、その気持ちが成長した後も変わらなければ、私も少しは考慮しよう」
悩ましげに眉を寄せ、少し目をそらしながら発せられたか細い言葉にらおもわず破顔してしまう。ノクスの前だと泣いたり笑ったりできる。自分らしくいられるんだ。
いつも無表情なノクスの困り顔を堪能しながら、やっぱりはやく大人になりたいなって思った。
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