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幼少期編

森に捨てられたら、魔王に拾われました

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十歳の誕生日に森へと捨てられた。

僕が三歳くらいの頃、溺愛されていた兄様に魔法で怪我を負わせてしまったときから、両親には疎まれ嫌われていたんだ。

僕の生きているこの世界には、魔法が存在する。そして、人と魔族という大まかな種族が暮らしており、人は基本的に魔法を扱うことが出来ない。魔族は誰もが簡単な魔法を扱うことが出来るらしい。稀に強力な魔法を扱える人間が現れることもある。そういった人は国から保護され、特別な機関で魔法の使い方を学ぶ。

そして、魔法使いの中から、数百年に一度、勇者が現れるんだ。勇者は魔族の王を倒す役割を与えられ、仲間を引連れて旅に出る。人間と魔族はそうやって、何千年も前から争いを続けているそうだ。

でも、僕が魔法を使えることを両親が国に知らせることはなかった。コントロールの効かなくなった魔法が兄様に当たり、なんとか一命は取り留めたものの、兄様の足は少し不自由になってしまったからだ。魔法を憎み、僕をそれ以上に憎んでいる両親は、僕が幸せになることを許さなかった。
そこそこ裕福な子爵家の次男として産まれたけれど、その一件以来使用人のように扱われるようになった。使用人がこっそりと残してくれていたまかないや、残飯で毎日を食いつなぐ日々。広い屋敷内を一人で掃除しろと命じられ、服も一着しか与えられなかった。

兄様は、何度も助けようとしてくれた。けれど、両親に言い含められて僕に近づくことすらできなくなったんだ。元々、身体の弱かった兄様は、僕の十歳の誕生日前日に病で亡くなり、両親にはお前のせいだと散々罵られて、次の日に森へと置き去りにされた。


◇◆◇◆


「あっ、ウサギだ!」

雷魔法を使い、野ウサギを痺れさせて捕らえると、風魔法で捌いて、水魔法で血を洗い流す。木の棒をかき集めると、火魔法を使い火をつけて焼いていく。

「わっ!火の威力が強すぎちゃった。でも、これだけ強ければすぐに焼けそう」

森に捨てられてから、三ヶ月程が経つ。魔法を駆使しながら、なんだかんだと生き延びてきた。調味料はないから、味付けなしの肉にかぶりつき、二日ぶりのまともなご飯に感動を覚える。ウサギやトリが見つけられないときは、食べられそうな木の実を採って空腹を紛らわしていた。

(残りは取っておこう)

土魔法で土を固めて入れ物を作る。一回目は上手く作れなくて割れてしまったけれど、二回目で上手く作ることができた。水魔法を応用して凍らせた肉を保存しておく。道で拾った薄汚れた革鞄に容器をしまう。鞄の中には、念の為に木の実や食べられそうな草を保管している。木の実の種も乾燥させて入れてあるんだ。

食事を終えると、住処すみかへと戻ることにした。ここから、少し歩いたところにある、大木に空いた大きな穴が僕の住処だ。

住処に戻る途中、今までは気づかなかった細い横道に気がついて、なんとなくそちらへと足を運ぶ。茂る植物を掻き分けて進んでいくと、遺跡のような場所に辿り着いた。

(剣?)

壁に背を預け眠るように亡くなっている骸骨の胸の中に、一本の質素な剣が刺さっている。引き寄せられるように柄に手を伸ばすと、簡単に引き抜くことが出来た。その瞬間、剣が光り輝き、細やかな装飾の施された白銀の刀身へと変化する。手にしっくりと馴染み、全身から力がみなぎって来るような感覚がした。

「今代の主は少し幼いようだ」
「えっ? 剣が喋った!」

渋い男の人の声が剣から発せられてびっくりする。これもなにかの魔法なのかな?

「僕が主?」
「我の名はオレオール。我に触れることが出来たのだからそなたが主であることに間違いはなかろう。主はなにを目的とし我の力を欲する。我は主の願いを叶える手助けをしてやろう」
「……うーん。急に言われてもとくに目的なんてないよ。たまたま君を見つけただけだから」

僕はこの森でのんびり生きていければそれでいい。なにか大きな目的がある訳でもないし、僕は魔王を倒す勇者というわけでもないから大義名分もない。でも、力を貸してくれるのなら心強い。

「なにか我に願うことはないのか」
「んー、あ! じゃあ、僕とお友達になってほしいな。僕には話が出来る友達がいないんだ」
「……変わった主よ。それが主の願いなら叶えよう」
「ふふ、ありがとう。僕の名前はソルっていうんだ。これからよろしくねオレオール」

オレオールを胸に抱え、住処へと戻るために元来た道を進む。そのとき、突然僕の真上の空だけが暗闇に包まれて、目の前に黒紫色の魔力が雷のように落ちてきた。真っ黒な霧が晴れると、二メートルは越える体格のいい端正な顔をした黒髪の男性の姿が視界に映る。深紅の瞳が僕の姿を捕らえると、細められた。

「……想像していたよりも幼いな」
「誰?」
「私の名はノクス。今代の魔王だ」
「魔王……魔族の王様?」
「そうだ。お前は勇……」

ノクスがなにかを言いかけたとき、オレオールがひとりでに光りだして、眩い閃光が前へと放たれた。咄嗟に閃光を避けたノクスが、オレオールを睨む。

「随分な歓迎だな」
「主から離れてもらおう」
「……やはりその幼子が……。お前、名はなんという」
「ソルだよ。それより、怪我をしてるっ!」
「おいっ、なにをする」

オレオールが放った閃光が掠ったのか、ノクスの手の甲に赤い線が走っていた。慌ててノクスの手を掴み、治癒魔法をかける。最初は戸惑っていたノクスだったけれど、治癒魔法だとわかると、受け入れてくれた。

「なぜ一人でこのような場所にいる。親はどこだ」

治癒を終えた僕にノクスが尋ねてきた。冷たくもとれる涼し気な顔の彼は、決して僕から目をそらさない。全身を観察するように見られて、少し恥ずかしい。

「僕、ここに置いてけぼりにされちゃったんだ。きっと両親は迎えに来ないと思う」
「……こんな幼子を森に置き去りに? 人とはやはり慈悲の欠片もない愚かな種よ。……それならばソルよ、私と共に来い」

ノクスの言葉が上手く呑み込めなくてキョトンとしてしまう。オレオールは、ふざけるな! と大声を上げているけれど、僕は言葉が出てこなかった。

差し出された大きな手を見つめながら、どうしたらいいのだろうか? と迷う。言うことを聞かなければ酷いことをされるのかな……。

「どうして?」

微笑みを浮かべ尋ねてみる。僕を連れ帰る理由なんてないはずなのに。

「お前を手元に置き、監視するためだ」
「監視?」
「そうだ。来るのか? 来ないのか? 来ないのなら、今すぐお前を殺さねばならなくなる」

殺すという言葉を聞いても恐怖は感じなかった。この森に置き去りにされたときから、死んだようなものだから。そうしたいというのならそうすればいいとも思う。

「ソル、逃げるのだ!」

オレオールの声にハッとした。僕はここで死んでもいい。でも、オレオールはどうなるのかな? 折角出来た友達を置き去りには出来ない。それなら、選べる選択肢は一つしかないとわかる。

「一緒に行く!」
「ソル! なにを言っているんだ!」

怒鳴り声が飛んでくるけれど、あえてそれは無視して目の前の大きな手を掴んだ。想像よりも温かい体温を感じていると、引き寄せられて、目の前が黒紫色に染まった。
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