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仲違いの事情
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白髪混じりの黒髪を後ろに撫でつけ、口元には髭を生やした、厳格そうな男性がご主人様へと歩み寄っていく。
その人に視線をやったご主人様は、口元に浅い笑みを作ると胸に手を当てて軽く会釈した。
「ファフリー当主ご無沙汰しております」
お久しぶりですね。第二王子も、お元気そうでなにより」
「……祖父様」
リダ様のつぶやきに、ファフリー当主が目を細める。リダ様の祖父ということは、ファフリー当主はハウラ様のお父様ということだ。
リダ様と同じ、灰色の瞳が一瞬だけ僕の方へと向けられた気がした。
「興味深いお話をされていたようだ。私も混ぜていただいてもよろしいかな?」
「祖父様には関係の無いことですよ。行くよ」
リダ様がご主人様に声をかけ、2人はその場を立ち去ろうとする。
しかし、ファフリー当主に呼び止められて足を止めた。
「奴隷に酷い仕打ちをし殺してしまったそうですね。少し慎みを持たれた方がよろしいのでは?」
「僕の物をどう扱おうと、祖父様には関係の無いこと」
「……そうですか」
悲しげなファフリー当主の声を耳に入れて、嫌そうに眉をしかめたリダ様はご主人様と共にその場を後にした。
そのことに、僕も安堵する。
「出てきなさい」
安堵したのもつかの間、声をかけられて、恐る恐る姿を見せる。
僕に気がついて驚いた表情を浮かべるカイス様と、無表情のまま見つめてくるファフリー当主。
「この子が……」
目の前まで歩いていくと、ファフリー当主がカイス様に問いかける。カイス様が頷くと、ファフリー当主が僕の手を取り、数秒祈るように目を閉じた。
開かれた灰色の瞳が、僕の姿を映し出す。
「これも運命ということか……。名は?」
「アズハルです」
「アズハル……良い名だ。第一王子のことを愛しているのか?」
「はい」
「その思いを繋ぎ止めたいというのなら、私はお前に手を貸そう」
ファフリー当主がどうしてそんなこというのかは分からない。けれど、彼からはとても懐かしい雰囲気が漂っていて、無意識にこの人なら信じられると思える。
「感謝致します」
「かまわない。それから、くれぐれも第二王子には近づかないようにしなさい。なにを言われても冷静に」
「……はい」
なにも分からないけれど、返事を返す。僕から手を離したファフリー当主は、懐かしむように目を細めてから、その場を後にした。
残された僕とカイス様は、沈黙の後に顔を見合わせる。
「送っていこう」
「……ありがとうございます。あの……、僕は……」
自分はいったいなにに巻き込まれているのだろう?
問いかけようとして、口を閉ざす。
「両親のことを覚えているかい?」
「……母のことなら少しだけ」
「聞かせてくれないか」
頷き、少しづつ母のことを話し始めた。
母は美しい人だった。罪を犯し、牢に閉じ込められていたときに、一人で僕を産み落とした。父親はわからない。衛兵が話していた噂話によると、牢の中で衛兵に襲われたことがあり、そのときの子だろうといわれているそうだ。
美しい銀髪と光の加減で色の変わる灰色の瞳は今でもよく覚えている。
僕が眠るときは、毎回子守唄を歌ってくれた。小鳥が囀るように、優しく、穏やかに……。
母の刑が執行されたすぐ後に、僕は奴隷商人へと売られ、そこでご主人様に買われた。
話終えると、カイス様が静かに1つ涙を流し、空を見上げたのが視界に入る。
遠いどこかにいる誰かを思い出しているような感じだ。
「話してくれてありがとう」
「……僕こそ、聞いてもらえて嬉しかったです」
微笑みを浮かべると、カイス様も笑みを返してくれる。
そのまま一緒に部屋まで向かい、扉の前で別れを告げた。
その人に視線をやったご主人様は、口元に浅い笑みを作ると胸に手を当てて軽く会釈した。
「ファフリー当主ご無沙汰しております」
お久しぶりですね。第二王子も、お元気そうでなにより」
「……祖父様」
リダ様のつぶやきに、ファフリー当主が目を細める。リダ様の祖父ということは、ファフリー当主はハウラ様のお父様ということだ。
リダ様と同じ、灰色の瞳が一瞬だけ僕の方へと向けられた気がした。
「興味深いお話をされていたようだ。私も混ぜていただいてもよろしいかな?」
「祖父様には関係の無いことですよ。行くよ」
リダ様がご主人様に声をかけ、2人はその場を立ち去ろうとする。
しかし、ファフリー当主に呼び止められて足を止めた。
「奴隷に酷い仕打ちをし殺してしまったそうですね。少し慎みを持たれた方がよろしいのでは?」
「僕の物をどう扱おうと、祖父様には関係の無いこと」
「……そうですか」
悲しげなファフリー当主の声を耳に入れて、嫌そうに眉をしかめたリダ様はご主人様と共にその場を後にした。
そのことに、僕も安堵する。
「出てきなさい」
安堵したのもつかの間、声をかけられて、恐る恐る姿を見せる。
僕に気がついて驚いた表情を浮かべるカイス様と、無表情のまま見つめてくるファフリー当主。
「この子が……」
目の前まで歩いていくと、ファフリー当主がカイス様に問いかける。カイス様が頷くと、ファフリー当主が僕の手を取り、数秒祈るように目を閉じた。
開かれた灰色の瞳が、僕の姿を映し出す。
「これも運命ということか……。名は?」
「アズハルです」
「アズハル……良い名だ。第一王子のことを愛しているのか?」
「はい」
「その思いを繋ぎ止めたいというのなら、私はお前に手を貸そう」
ファフリー当主がどうしてそんなこというのかは分からない。けれど、彼からはとても懐かしい雰囲気が漂っていて、無意識にこの人なら信じられると思える。
「感謝致します」
「かまわない。それから、くれぐれも第二王子には近づかないようにしなさい。なにを言われても冷静に」
「……はい」
なにも分からないけれど、返事を返す。僕から手を離したファフリー当主は、懐かしむように目を細めてから、その場を後にした。
残された僕とカイス様は、沈黙の後に顔を見合わせる。
「送っていこう」
「……ありがとうございます。あの……、僕は……」
自分はいったいなにに巻き込まれているのだろう?
問いかけようとして、口を閉ざす。
「両親のことを覚えているかい?」
「……母のことなら少しだけ」
「聞かせてくれないか」
頷き、少しづつ母のことを話し始めた。
母は美しい人だった。罪を犯し、牢に閉じ込められていたときに、一人で僕を産み落とした。父親はわからない。衛兵が話していた噂話によると、牢の中で衛兵に襲われたことがあり、そのときの子だろうといわれているそうだ。
美しい銀髪と光の加減で色の変わる灰色の瞳は今でもよく覚えている。
僕が眠るときは、毎回子守唄を歌ってくれた。小鳥が囀るように、優しく、穏やかに……。
母の刑が執行されたすぐ後に、僕は奴隷商人へと売られ、そこでご主人様に買われた。
話終えると、カイス様が静かに1つ涙を流し、空を見上げたのが視界に入る。
遠いどこかにいる誰かを思い出しているような感じだ。
「話してくれてありがとう」
「……僕こそ、聞いてもらえて嬉しかったです」
微笑みを浮かべると、カイス様も笑みを返してくれる。
そのまま一緒に部屋まで向かい、扉の前で別れを告げた。
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感想ありがとうございます(*ˊ˘ˋ*)♡
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