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仲違いの事情

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ライル様に触れられると幸福感が胸を覆い尽くす。

昨晩も沢山抱かれて、跡を付けられた。それが嬉しくも苦しい。毎日そう感じる。

「まだ寝ていろ」

目を覚ました僕の頭を撫でながらライル様が穏やかな声音でそう言ってくれた。
それに甘えるかのように瞳を閉じると、微かに衣擦れの音がして隣から温もりが消える。

それに寂しさを感じた。

第1王子として忙しい毎日を送っているライル様が、こうして毎日僕との時間を作って下さるだけで満足しなければ、と分かっていても少し離れるだけで心に雲がかかるような気分にさせられる。

その寂しさを払拭するために固く瞳を閉じたまま、また意識を沈めていく。

そうして、結局目が覚めたのは昼時を少し過ぎた頃だった。

(帰ろう)

肩掛けを羽織って部屋を出ると、ノロノロと通路を進んでいく。

昼間は照りつける太陽がやけに熱く感じて、額から流れる汗を手で拭った。

「……また……、……」

ふと窓の外から声が聞こえてきて、視線を外へと向ける。
釣られるように外に出て、声のする方へと足を進めていると、宮殿と離宮の中間に位置する庭で複数の人が話をしているのが分かった。

その声が聞き覚えのあるものだということに気がつくと、慌てて近くにある壁の陰へと姿を隠す。

「それで心は決まったのかな?」

「マリク様、その件に関しては何度も申し上げたはずです」

「カイスってば、まだ中立を保つつもりかい?子ネズミちゃんのこと欲しくないの~?」

「あの子のことを出しても考えは変わりません。私はどちらも選べない。ハウラ様のことも王妃様のことも裏切れないからです」

「なにそれ~。おかしなことを言うんだね」

どうやらカイス様がご主人様とリダ様に何かをお願いされているみたいだけれど、僕にはなんのことなのかよく分からない。

「裏切るもなにも、あの二人はもう居ないんだよ」

リダ様の言葉にカイス様が眉間に皺を寄せた。

「私のお二人への情は今も変わりません。たとえお亡くなりになられていたとしても」

「情、ねえ。母上が王妃に毒を盛った時点でそんな情とっくに無くなってるはずだけど?」

リダ様の楽しげな様子にカイス様が更に顔をしかめる。ご主人様は一言も発さず成り行きを見ているようだ。

(リダ様のお母様が王妃に毒を?だからライル様はリダ様に当たりが強いの??)

リダ様のお母様がどういう人物なのかは分からないけれど、もしも顔が似ているのだとしたらリダ様を見て事件のことを思い出してしまうのかもしれない。
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