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悩みと提案
8〜ライル視点〜
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無理をさせすぎたせいか、行為後死んだように眠っているアズハルの色素の薄い茶髪を撫でながら、軽く溜息をついた。
「おい、居るか」
アズハルを見つめながら誰にともなく言葉を発すれば、どこからか俺の護衛を務めている男が現れて、カーテン越しに俺へと礼をする。
「ナーセル、アズハルの身元を調べろ。過去から現在まで全てだ」
「承知致しました」
命令を受けて、もう一度礼をしたナーセルは音を立てないまま部屋から出ていき、それを確認してからアズハルのこめかみに唇を寄せた。
「アズハル、俺の運命」
ずっと、人を愛するとどんな気分になるのかと気になっていた。
俺を唯一愛してくれていた母は俺が8歳の時に亡くなり、それからは第1王子でありα性という期待だけを受けて育っために愛情というものを感じたことがあまりない。
だが、容量が良かったのかその期待に応えることは容易く、俺にとってこの世は常につまらないものにしか感じられなかった。
そんなつまらない日常を唯一変えてくれたのは戦だった。
身分の低い貴族の生まれだった母は幸いなことに父に愛され、α性である俺を産んだために地位を確立し王妃として国を支えていた。
そんな母を心底愛していた父は、母が亡くなると人が変わったかのように争いを好むようになり、数年前までは他国との争いが耐えず、俺は自らその戦の先陣を切っていたのだ。
そこで俺は愛というものを知りたくなった。
きっかけは1人の奴隷。
この国には多くの奴隷が居り、戦で出兵する者の大半が奴隷だった。勿論、戦い方も知らない者達を向かわせたところで結果は目に見えている。
負け戦と思われたその戦いに、貴族で唯一俺だけが身を投じていた。
別に奴隷達を助けようなどと大義名分を掲げていた訳では無い。
心底生きることに辟易していたのだ。
人生が退屈で仕方なかった。
思惑通り、戦は俺に興奮を与えてくれた。
思うがまま敵兵を切り捨て、戦場を駆け、策を練る。
退屈する暇など欠片もなかったが、何故か心はいつも虚しい。
狭い野営地で、奴隷達と同じ飯を囲い、同じ寝床に着く。
価値観は次第に変わっていき、友と呼べる者も出来たが、そいつは呆気なく戦で命を散らした。
『ライル……どうか俺の愛する妻と我が子にこれを……』
友の死ぬ間際、託された形見を受け取り、勝利を収めて国に戻ると、友の妻子へと形見を届けた。
それを受け取り涙を流す妻子を見つめながら、愛とはなんなのだろうかとふと疑問が沸いたのだ。
俺には友の心が理解出来ず、目の前で涙を流す妻子の思いも汲み取れない。
何故かそれが悔しく感じられた。
そうして燻った心を抱え28歳になるという頃合に俺は運命を探すことに決めたのだ。
どうしても愛とはなんなのか知りたかった。
どれだけ金を積もうと手に入らないそれを渇望している自分が居たんだ。
もしも、俺にその唯一を教えてくれる存在が居るとするならば、運命の番だけだと確信していた。
そうやって探し当てた愛は今、俺の目の前で寝息を立てている。
「おい、居るか」
アズハルを見つめながら誰にともなく言葉を発すれば、どこからか俺の護衛を務めている男が現れて、カーテン越しに俺へと礼をする。
「ナーセル、アズハルの身元を調べろ。過去から現在まで全てだ」
「承知致しました」
命令を受けて、もう一度礼をしたナーセルは音を立てないまま部屋から出ていき、それを確認してからアズハルのこめかみに唇を寄せた。
「アズハル、俺の運命」
ずっと、人を愛するとどんな気分になるのかと気になっていた。
俺を唯一愛してくれていた母は俺が8歳の時に亡くなり、それからは第1王子でありα性という期待だけを受けて育っために愛情というものを感じたことがあまりない。
だが、容量が良かったのかその期待に応えることは容易く、俺にとってこの世は常につまらないものにしか感じられなかった。
そんなつまらない日常を唯一変えてくれたのは戦だった。
身分の低い貴族の生まれだった母は幸いなことに父に愛され、α性である俺を産んだために地位を確立し王妃として国を支えていた。
そんな母を心底愛していた父は、母が亡くなると人が変わったかのように争いを好むようになり、数年前までは他国との争いが耐えず、俺は自らその戦の先陣を切っていたのだ。
そこで俺は愛というものを知りたくなった。
きっかけは1人の奴隷。
この国には多くの奴隷が居り、戦で出兵する者の大半が奴隷だった。勿論、戦い方も知らない者達を向かわせたところで結果は目に見えている。
負け戦と思われたその戦いに、貴族で唯一俺だけが身を投じていた。
別に奴隷達を助けようなどと大義名分を掲げていた訳では無い。
心底生きることに辟易していたのだ。
人生が退屈で仕方なかった。
思惑通り、戦は俺に興奮を与えてくれた。
思うがまま敵兵を切り捨て、戦場を駆け、策を練る。
退屈する暇など欠片もなかったが、何故か心はいつも虚しい。
狭い野営地で、奴隷達と同じ飯を囲い、同じ寝床に着く。
価値観は次第に変わっていき、友と呼べる者も出来たが、そいつは呆気なく戦で命を散らした。
『ライル……どうか俺の愛する妻と我が子にこれを……』
友の死ぬ間際、託された形見を受け取り、勝利を収めて国に戻ると、友の妻子へと形見を届けた。
それを受け取り涙を流す妻子を見つめながら、愛とはなんなのだろうかとふと疑問が沸いたのだ。
俺には友の心が理解出来ず、目の前で涙を流す妻子の思いも汲み取れない。
何故かそれが悔しく感じられた。
そうして燻った心を抱え28歳になるという頃合に俺は運命を探すことに決めたのだ。
どうしても愛とはなんなのか知りたかった。
どれだけ金を積もうと手に入らないそれを渇望している自分が居たんだ。
もしも、俺にその唯一を教えてくれる存在が居るとするならば、運命の番だけだと確信していた。
そうやって探し当てた愛は今、俺の目の前で寝息を立てている。
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