囚われの白夜〜狼王子は身代わり奴隷に愛を囁く〜

天宮叶

文字の大きさ
上 下
29 / 42
悩みと提案

8〜ライル視点〜

しおりを挟む
無理をさせすぎたせいか、行為後死んだように眠っているアズハルの色素の薄い茶髪を撫でながら、軽く溜息をついた。

「おい、居るか」

アズハルを見つめながら誰にともなく言葉を発すれば、どこからか俺の護衛を務めている男が現れて、カーテン越しに俺へと礼をする。

「ナーセル、アズハルの身元を調べろ。過去から現在まで全てだ」

「承知致しました」

命令を受けて、もう一度礼をしたナーセルは音を立てないまま部屋から出ていき、それを確認してからアズハルのこめかみに唇を寄せた。

「アズハル、俺の運命」

ずっと、人を愛するとどんな気分になるのかと気になっていた。

俺を唯一愛してくれていた母は俺が8歳の時に亡くなり、それからは第1王子でありα性という期待だけを受けて育っために愛情というものを感じたことがあまりない。

だが、容量が良かったのかその期待に応えることは容易く、俺にとってこの世は常につまらないものにしか感じられなかった。

そんなつまらない日常を唯一変えてくれたのは戦だった。

身分の低い貴族の生まれだった母は幸いなことに父に愛され、α性である俺を産んだために地位を確立し王妃として国を支えていた。

そんな母を心底愛していた父は、母が亡くなると人が変わったかのように争いを好むようになり、数年前までは他国との争いが耐えず、俺は自らその戦の先陣を切っていたのだ。

そこで俺は愛というものを知りたくなった。

きっかけは1人の奴隷。

この国には多くの奴隷が居り、戦で出兵する者の大半が奴隷だった。勿論、戦い方も知らない者達を向かわせたところで結果は目に見えている。

負け戦と思われたその戦いに、貴族で唯一俺だけが身を投じていた。

別に奴隷達を助けようなどと大義名分を掲げていた訳では無い。

心底生きることに辟易していたのだ。
人生が退屈で仕方なかった。

思惑通り、戦は俺に興奮を与えてくれた。

思うがまま敵兵を切り捨て、戦場を駆け、策を練る。
退屈する暇など欠片もなかったが、何故か心はいつも虚しい。

狭い野営地で、奴隷達と同じ飯を囲い、同じ寝床に着く。
価値観は次第に変わっていき、友と呼べる者も出来たが、そいつは呆気なく戦で命を散らした。

『ライル……どうか俺の愛する妻と我が子にこれを……』

友の死ぬ間際、託された形見を受け取り、勝利を収めて国に戻ると、友の妻子へと形見を届けた。

それを受け取り涙を流す妻子を見つめながら、愛とはなんなのだろうかとふと疑問が沸いたのだ。

俺には友の心が理解出来ず、目の前で涙を流す妻子の思いも汲み取れない。

何故かそれが悔しく感じられた。

そうして燻った心を抱え28歳になるという頃合に俺は運命を探すことに決めたのだ。

どうしても愛とはなんなのか知りたかった。

どれだけ金を積もうと手に入らないそれを渇望している自分が居たんだ。

もしも、俺にその唯一を教えてくれる存在が居るとするならば、運命の番だけだと確信していた。

そうやって探し当てた愛は今、俺の目の前で寝息を立てている。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます

大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。 オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。 地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

真面目な部下に開発されました

佐久間たけのこ
BL
社会人BL、年下攻め。甘め。完結までは毎日更新。 ※お仕事の描写など、厳密には正しくない箇所もございます。フィクションとしてお楽しみいただける方のみ読まれることをお勧めします。 救急隊で働く高槻隼人は、真面目だが人と打ち解けない部下、長尾旭を気にかけていた。 日頃の努力の甲斐あって、隼人には心を開きかけている様子の長尾。 ある日の飲み会帰り、隼人を部屋まで送った長尾は、いきなり隼人に「好きです」と告白してくる。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...