25 / 42
悩みと提案
4
しおりを挟む
いつもの様に夜伽用の部屋へと向かうと、中に入って扉を閉めた。
ライル様はまだ来ていないようで、少しだけ寂しさを感じる。
ぼーっと窓の近くに立ったまま変わり映えのしない景色を眺め続ける。
涼やかなお香の匂いが部屋中を満たしていて、そのおかげか心は自然と落ち着いていた。
「待たせたな」
「いいえ。今、来たところですから」
ライル様の声が聞こえて、すぐに振り返ると彼の顔を見て無性に彼に抱きしめられたいと思ってしまう。
視線をそらせないまま見つめ続けていると、ライル様が僕の目の前に来て頬を撫でてきた。
「そんなに見られると体に穴が空いてしまいそうだ」
「も、申し訳ありません」
慌てて顔を下へ向けると、くすくすとライル様が僕を見て笑う。
「かまわん。俺だけを見ていろ」
顔をあげさせられて、彼の唇が僕のそれを奪った。薄く形のいい唇に食まれると気持ちよくて頭の中がふわふわとしてくる。
「ふ、ぁ……ライル様っ」
「アズハルは甘いな」
唇を舐められて、彼が僕から離れる。それに名残惜しさを覚えて切なさに眉を寄せた。
「足りないと顔が言っているぞ」
「み、見ないでください」
「ふっ、いじらしいやつだな。そうだな、俺の問に答えたら好きなだけ触れてやる」
「問、ですか?」
「ああ、簡単な問だ。お前を飼っていた主人は誰だ」
ライル様からの質問に僕はビクリと肩を跳ねさせる。彼の鋭い切れ長の瞳が僕の一挙一動を見逃さないと言うかのように真っ直ぐにこちらを見ていて、まるで追い詰められた小動物の様に体を震わした。
(どうしよう……)
なんと答えたらいいのだろう。
ライル様は僕が奴隷だと気がついているし、正直に打ち明けてしまってもいいのではないのか?
そう思うのに言葉は喉奥に留まったまま出ては来ない。
「よく躾られているな」
そう言って、口角を上げたライル様が僕の腕を掴んで壁へと押し付けてきた。
「よく聞け」
耳元でライル様の低く艶やかな声が囁く。
「お前はもう奴隷ではない」
「っ、でも僕は……」
それじゃあ僕はなんなのだろう。
身分も何も無い僕は一体何になれるっていうんだ。
「お前は俺の番なのだとその頭に覚えさせろ。アズハル、いい加減主人ではなく俺を見たらどうだ?」
ライル様はまだ来ていないようで、少しだけ寂しさを感じる。
ぼーっと窓の近くに立ったまま変わり映えのしない景色を眺め続ける。
涼やかなお香の匂いが部屋中を満たしていて、そのおかげか心は自然と落ち着いていた。
「待たせたな」
「いいえ。今、来たところですから」
ライル様の声が聞こえて、すぐに振り返ると彼の顔を見て無性に彼に抱きしめられたいと思ってしまう。
視線をそらせないまま見つめ続けていると、ライル様が僕の目の前に来て頬を撫でてきた。
「そんなに見られると体に穴が空いてしまいそうだ」
「も、申し訳ありません」
慌てて顔を下へ向けると、くすくすとライル様が僕を見て笑う。
「かまわん。俺だけを見ていろ」
顔をあげさせられて、彼の唇が僕のそれを奪った。薄く形のいい唇に食まれると気持ちよくて頭の中がふわふわとしてくる。
「ふ、ぁ……ライル様っ」
「アズハルは甘いな」
唇を舐められて、彼が僕から離れる。それに名残惜しさを覚えて切なさに眉を寄せた。
「足りないと顔が言っているぞ」
「み、見ないでください」
「ふっ、いじらしいやつだな。そうだな、俺の問に答えたら好きなだけ触れてやる」
「問、ですか?」
「ああ、簡単な問だ。お前を飼っていた主人は誰だ」
ライル様からの質問に僕はビクリと肩を跳ねさせる。彼の鋭い切れ長の瞳が僕の一挙一動を見逃さないと言うかのように真っ直ぐにこちらを見ていて、まるで追い詰められた小動物の様に体を震わした。
(どうしよう……)
なんと答えたらいいのだろう。
ライル様は僕が奴隷だと気がついているし、正直に打ち明けてしまってもいいのではないのか?
そう思うのに言葉は喉奥に留まったまま出ては来ない。
「よく躾られているな」
そう言って、口角を上げたライル様が僕の腕を掴んで壁へと押し付けてきた。
「よく聞け」
耳元でライル様の低く艶やかな声が囁く。
「お前はもう奴隷ではない」
「っ、でも僕は……」
それじゃあ僕はなんなのだろう。
身分も何も無い僕は一体何になれるっていうんだ。
「お前は俺の番なのだとその頭に覚えさせろ。アズハル、いい加減主人ではなく俺を見たらどうだ?」
13
お気に入りに追加
272
あなたにおすすめの小説
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
真面目な部下に開発されました
佐久間たけのこ
BL
社会人BL、年下攻め。甘め。完結までは毎日更新。
※お仕事の描写など、厳密には正しくない箇所もございます。フィクションとしてお楽しみいただける方のみ読まれることをお勧めします。
救急隊で働く高槻隼人は、真面目だが人と打ち解けない部下、長尾旭を気にかけていた。
日頃の努力の甲斐あって、隼人には心を開きかけている様子の長尾。
ある日の飲み会帰り、隼人を部屋まで送った長尾は、いきなり隼人に「好きです」と告白してくる。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる