囚われの白夜〜狼王子は身代わり奴隷に愛を囁く〜

天宮叶

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悩みと提案

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自分の部屋へと戻りながら深いため息をこぼした。

ライル様の考えていることも、気持ちもよく分からなくて戸惑ってばかりで、垣間見える独占欲が恐ろしいと思うこともある。

それでも僕は彼を拒否しようとは思わない。いや、思えないんだ。

「おかえりなさいませ!」

自室に入ると昨日の夜に会った彼が居て、深いお辞儀をしながらそう声をかけてくれた。

彼は何故か使用人の格好をしていて、その事にも驚いてしまう。

「な、何をしているんですか?」

「本日から貴方様のお世話をすることに決めました!」

「お世話、ですか……。あの……僕には二ゼルさんがついてくれているので……」

「邪魔ですか?」

円な瞳がうるうると僕のことを見つめてくるから、罪悪感が胸を支配する。

「……邪魔じゃないです……」

でも、貴族の出なのに使用人なんて屈辱的なんじゃないのかな……。

「あの……本当にいいんですか?今まで通り自由にされていてもいいんですよ??」

使用人にしたくて助けたわけじゃないんだ。

それなのに彼は顔に笑みを浮かべて、僕がしたいからって答えた。

「僕は公爵家の出ですけど、実家では疎まれていて雑用もさせられていたので慣れています。それに、助けてくれた恩返しをしたいんです」

「……そうなんですね……。あの、それじゃあお願いします……。ただ、敬語はやめてください」

公爵家といえば王家の次に偉いお貴族様じゃないのかな?
そんな方が僕の使用人なんて恐れ多いと思うけれど、本人がしたいというのなら止められない。

ただ、敬語はどうしても慣れなくてやめてもらった。

「わかったよ。僕はアラン=ベネット。よろしくね」

「僕はアズハル、です。よろしくお願いしますアランさん」

「アランでいいよ」

アランが手を差し出してきたから、僕も戸惑いながらその手を取った。

ライル様に見られたら怒られてしまうかもしれないけれど、今は彼はいないから大丈夫。

お互いに自己紹介が終わると、アランは紅茶を持ってくると言って部屋から出ていった。

二ゼルさんも今は外に出ているみたいで部屋の中には僕1人。

1人になるのは久しぶりな気がする。

屋敷では奴隷仲間と一緒だったし、ここに来てからはずっと二ゼルさんが付き添ってくれていた。

ライル様と出会ってからはライル様のお傍に居たから、本当に1人になるのは久しぶりすぎて少し落ち着かない。

少しずつ変わっていく環境の変化に目が回りそうだった。

でも、これに慣れていかないといけないって分かってる。

いつまでこの生活が続くのかなんて分からない。いつかライル様が僕に飽きてしまうこともあるかもしれないから。

そうなったら僕もここを追い出されて、また屋敷に戻るのかな……。
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