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愛の裏返し

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ごめんなさい……。

僕はその言葉しか口にすることが出来なかった。

「……ぼ、僕よく分からなくて……。でも、怒らせてしまったのなら謝罪します……」

怒りという感情に触れるたび、恐怖感が全身を埋めつくして身体が震えるんだ。

それは無意識に身についた癖。
僕の中の防衛本能が痛みに備えろと教えてくれているんだ。

「番が出来たから僕達はもう必要ないんだって言われたんだ!」

「……そ、それは……」

無意識に項へと手が伸びる。

「僕達は家族に売られてここに来たようなものなのに……帰る場所なんてないよ……。やっとあの家から抜け出せたと思ったのにさ……」

僕を睨みつけていた彼はそう言ってまた俯いてしまった。

ぽろぽろと彼の大きな瞳から涙が溢れているのを見つめながらどうしたらいいんだろうって考える。

貴族の事情は良くは分からない。

ただ、見放された貴族のご令嬢やΩは修道院に入れられるのだと奴隷仲間から聞かされたことはあった。

彼もそうなるのだろうか……。

「……泣かないでください」

何か声をかけようと思って彼の肩に手を伸ばしたとき、カツっと靴が床を蹴る音が聴こえてきて音のした方へと顔を向けた。

「騒がしいと思えば何をしている」

「……ライル様」

ライル様は僕と目の前の彼へ交互に視線を向けると、彼の肩に添えられている僕の手を見て眉間に皺を寄せた。

その表情の変化に気がついて咄嗟に手を彼から離す。

やばい!と脳内の片隅で警告する音が聴こえてくる。

「アズハルこちらへ来い」

「……は、い」

ライル様へ近づくと手を引かれてそのまま胸の中に閉じ込められてしまった。

「お前、アズハルに何をしていた」

「ぼ、僕は……ただ……」

ライル様に抱きしめられているせいで今、ライル様がどんな顔をしているのかは分からない。

けれど腹の底が冷えるような低い声を聞いて、凄く怖い顔をしているんだってことは分かった。

「二度とアズハルに触れるな。話しかけることも許さない」

「っ、ライル様っ……どうしてその者にだけかまうのですか!!僕達にもお役目を与えて下さらなければこれから先どうしたらいいのか……」

そう言ってグスリと鼻を鳴らす彼の言葉に、ライル様が微かに小さく舌打ちをしたのが聞こえてきた。

「家に帰ればいいだろう。俺にはアズハルだけいればいいのだからな」

「……そんなっ!!!」

彼の悲鳴のような声を聞いて、僕は何故か居ても立ってもいられなくなって、ライル様の胸を押すと彼から少しだけ距離を取る。

「アズハル?」

「……か、彼を追い出さないであげてください……」

蚊の鳴くような声でライル様に伝えると、ライル様が微かに眉を寄せた。
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