囚われの白夜〜狼王子は身代わり奴隷に愛を囁く〜

天宮叶

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愛の裏返し

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目が覚めると外は相変わらずの白景色。

茶褐色の建物群が並ぶこの国や砂漠をこうして眺めることなんて今まではなかった。

だからこそ余計、今の状況に戸惑いを隠せない。

隣で眠るライル様を起こさないようにベッドから降りると、そのまま着衣をして部屋を出た。

項の噛み跡を誰かに見られることがなんだかいけないことの様に感じて、肩に羽織っていた肩掛けを首に巻いて噛み跡を隠す。

「まさか本当に居るなんて!」

部屋に帰っている途中、聞き覚えのある声に話しかけられて振り向くと見覚えのある緑石の瞳と視線が交わった。

「……カイス様?」

彼がここに何故居るのだろう?

カイス様は僕の声に反応してゆっくりとこちらへと近づいて来ると、僕の手を取って自身の額へと当てた。

「君の姿が見えないからどうしたのかと尋ねたら、マリク様から君が王子の妾になったのだと聞かされて心配になってね」

「……そうだったんですね……僕なんかのためにご心配をおかけしてしまって申し訳ありません」

マリク様というのは僕のご主人様の名だ。

カイス様は仕事の話をしに屋敷へよく来られるから、僕もその時に声をかけてもらっていた。

でも、まさか僕が居ないことに気がついて心配までしてくれるとは思ってもいなかったから驚いている。

「心配するのは当たり前だよ。なにも嫌なことはされていないかい?」

「……はい。屋敷にいた頃よりもマシな生活をしていると思います」

「……っ、そうか。それなら安心したよ」

表情を緩めて僕に笑いかけてくれるカイス様にもう一度ありがとうございますとお礼を伝えた。

「……あの、手を」

「……ねえ、もし……」

カイス様は僕の手を両手で包み込んだまま、何かを言おうと口を開いた。

「居ないと思えば、何をしている?」

けれど、カイス様の言葉は剣呑な雰囲気を纏ったその声に掻き消されて聞くことは出来なかった。

その拍子に、カイス様の手が離れて僕達は声のした方に顔を向ける。

「ライル様」

カイス様がライル様の名前を呼ぶと、彼はゆっくりとこちらへと向かってきながら眉間に深い皺を寄せた。
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