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お手をどうぞ
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数秒の沈黙の後、吸い込まれるように彼の唇に自分の唇を重ねていた。理性とかそんなものは顔を出す暇はなく、ただ衝動的にそうしてしまった俺は直ぐに彼から唇を離すと、未だ近いその距離のまま尋ねた。
「逃げないの?」
「……分かんない」
曖昧な返事に俺は目を細める。
カチャリと伊達眼鏡が音を立てて、つい邪魔だなと思ってしまった。
セレーネを抱きしめたまま眼鏡を外して胸ポケットにしまうと彼の顔が更によく見えるようになる。熟れたリンゴみたいに赤い彼の顔を眺めながら、頭からかぶりついてしまいたいとじわじわと欲が湧いてきた。
「帰ろうか」
敢えてそう言ってみた。
そうしたらセレーネが、えっ、って小さく声を漏らしたのが聞こえてきて俺は口元に薄く笑みを浮かべる。
セレーネもまたキスされるのを期待してるのだろうか?
そうなら嬉しい。
きょろきょろと視線をさ迷わせて焦っている彼を見ていると可愛くて可愛くて歯止めが効かなくなりそうだった。
「好き」
「……っ」
そう言ってまたキスをする。
セレーネは拒否しない。
「好きだよ」
「……アルっ、ん」
少しずつ激しさを増しながら、好きの合間にキスをする。広間の中心で、まるで主役の王子様とお姫様の様に、何度も唇を重ねてその度に気持ちはどんどんと重く増加していく気がした。
「セレーネ、俺のことを好きになって」
「僕っ……分かんないよ……」
「今はそれでいい」
それでいいから、いつか君から俺に好きだって言ってくれる日を待ち望んでいる。
いっそこの瞬間、セレーネが逃げて拒否してくれたなら諦めも着いたのかもしれないけれど、彼はトロンとした顔で俺からのキスを受け入れてくれている。
だから、諦めるどころか彼への執着は増えていく一方だ。
セレーネは俺に困らされていると思っているかもしれないけれど、それは俺の方だ。
彼の行動に一喜一憂して、翻弄されている。たまに彼が天使の皮を被った悪魔の様にも思えるんだ。
「アル、恥ずかしい」
ずっと至近距離で顔を突合せているからかセレーネがそう言って俺から目を逸らした。
赤くなった目尻は色気があって、そんな仕草すら計算されているんじゃないかって思ってしまう。
「こっち向いて」
そっと顔に手をあてて促せば、おずおずと彼が俺の方を向いてくれる。
それが愛おしくて、俺はまた彼にキスをした。
「もっ、なんか、変な感じ……」
「……可愛い」
セレーネの香りが感情に釣られて揺らいでいる。少しずつ濃ゆくなるそれに俺は更に笑みを深めた。
こんなの止められない。
何度も何度も唇を重ねて、その度に彼の匂いはどんどんと濃さを増していく。そのいい香りに包まれながら、やっぱり彼のことが欲しいと強烈に心が自身に訴えかけていた。
「逃げないの?」
「……分かんない」
曖昧な返事に俺は目を細める。
カチャリと伊達眼鏡が音を立てて、つい邪魔だなと思ってしまった。
セレーネを抱きしめたまま眼鏡を外して胸ポケットにしまうと彼の顔が更によく見えるようになる。熟れたリンゴみたいに赤い彼の顔を眺めながら、頭からかぶりついてしまいたいとじわじわと欲が湧いてきた。
「帰ろうか」
敢えてそう言ってみた。
そうしたらセレーネが、えっ、って小さく声を漏らしたのが聞こえてきて俺は口元に薄く笑みを浮かべる。
セレーネもまたキスされるのを期待してるのだろうか?
そうなら嬉しい。
きょろきょろと視線をさ迷わせて焦っている彼を見ていると可愛くて可愛くて歯止めが効かなくなりそうだった。
「好き」
「……っ」
そう言ってまたキスをする。
セレーネは拒否しない。
「好きだよ」
「……アルっ、ん」
少しずつ激しさを増しながら、好きの合間にキスをする。広間の中心で、まるで主役の王子様とお姫様の様に、何度も唇を重ねてその度に気持ちはどんどんと重く増加していく気がした。
「セレーネ、俺のことを好きになって」
「僕っ……分かんないよ……」
「今はそれでいい」
それでいいから、いつか君から俺に好きだって言ってくれる日を待ち望んでいる。
いっそこの瞬間、セレーネが逃げて拒否してくれたなら諦めも着いたのかもしれないけれど、彼はトロンとした顔で俺からのキスを受け入れてくれている。
だから、諦めるどころか彼への執着は増えていく一方だ。
セレーネは俺に困らされていると思っているかもしれないけれど、それは俺の方だ。
彼の行動に一喜一憂して、翻弄されている。たまに彼が天使の皮を被った悪魔の様にも思えるんだ。
「アル、恥ずかしい」
ずっと至近距離で顔を突合せているからかセレーネがそう言って俺から目を逸らした。
赤くなった目尻は色気があって、そんな仕草すら計算されているんじゃないかって思ってしまう。
「こっち向いて」
そっと顔に手をあてて促せば、おずおずと彼が俺の方を向いてくれる。
それが愛おしくて、俺はまた彼にキスをした。
「もっ、なんか、変な感じ……」
「……可愛い」
セレーネの香りが感情に釣られて揺らいでいる。少しずつ濃ゆくなるそれに俺は更に笑みを深めた。
こんなの止められない。
何度も何度も唇を重ねて、その度に彼の匂いはどんどんと濃さを増していく。そのいい香りに包まれながら、やっぱり彼のことが欲しいと強烈に心が自身に訴えかけていた。
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