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好きな人(セレーネ視点)

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エイデンと合わなくなってから既に2週間は経っているけれど、何もする気が起きなくてずっとアルへの返事もそのままに気だるげな日々を過ごしている。

よくよく考えてみれば上の階にはエイデンに会いに行っていただけで、それが無くなれば行く必要も無くなるし図書館だって元々あまり勉強が好きじゃない僕はエイデンのことがない限り本を借りに行ったりしないって気がついて、自分は本当にエイデン中心に世界が回っていたんだって思い知らされた。

毎日、ただぼーっと無意味な日々を過ごしながら、たまにエイデンを見かける度に話しかけちゃダメだって何度も自分に言い聞かせる。

不思議なことにアルには全然遭遇しなくて、何となくだけど直感でアルがいる所が分かるような、そんな超能力のような物が働いているようにも感じるんだ。

きっと、僕がアルと話すのを先延ばしにしているからそう感じるだけかもしれないけれど……。

最近のお昼休みは、周りからやたらとエイデンと一緒に居ないことを聞かれるのが嫌で校舎の裏にある庭園に逃げるように足を運ぶのが日課になっていた。

そこは静かで、わざわざ用がない限り人が足を運ぶこともあまりないから絶好の隠れスポットなんだ。

今日も例のごとくその中庭へと足を運んだ僕は、中庭にある大きな1本の木の下に人が寝そべっているのを発見して慌てた。

そろそろと近づいてみると、倒れている訳ではなくて安心する。

目を閉じて長い黒髪を芝に投げ出して気持ちよさそうに眠っている彼を少し遠巻きに見つめながら、久しぶりに会った懐かしさと胸を充満する苦しさに涙が溢れてきそうになった。

目は閉じられていて確認はできないけれど、彼は確かにあの日出会った王子様そのもので、僕はそっと彼の横まで行くと屈んで彼の顔を覗き込んだ。

自然と彼の顔に手が伸びていて、頬に僕の人差し指が触れそうになった時、彼の形のいい唇が動いてポツリと僕の名前を呼んだ。

「セレーネ?」

彼の声に反応して手を引っ込めると、閉じられていた瞳がまるで生命を吹き込んだみたいに開かれて黄金の瞳が姿を現した。

それに魅入られるようにじっと瞳を見つめていると、アルが視線を逸らして、そんなに見られると恥ずかしいって微かに頬を染めて言ってきて、僕はそれで初めて自分がアルのことを見つめていたことに気がついたんだ。
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