ねえ、お姫様〜初恋の子を見つけたけど彼は別人が好きなようなので影からそっと見守りたい〜

天宮叶

文字の大きさ
上 下
22 / 62
好きな人(セレーネ視点)

しおりを挟む
エイデンが好き。

それは僕にとって揺るぎない唯一無二のものだと思っていた。

最初は幼い頃に出会った彼に再会できた喜びで付き纏っていたけれど、今はエイデンの優しくて明るい人柄や目標に向かって一生懸命努力する姿や、些細な気遣いだとか、そいう所も大好きで、本当に仕方ないやつだなって僕のことを甘やかしてくれる所も自分にだけの特別のように感じて愛おしい。

エイデンからは昔出会ったあの子から感じたいい匂いはしなかったし、強い繋がりも感じることは無かったけれど、そんなこと関係なくて、ただ彼のことがひたすらに好きだと思っていた。

それなのに……

授業中、先生のお話を聞きながら僕は小さく溜息をこぼした。

広い教室内の一番後ろの席の窓際で、暖かな陽気に包まれながら勉強をするのが好きな僕は、いつもこの席に座っていて、周りの皆も優しいからまるで僕の特等席みたいにこの席はいつも空けられている。

けれど、今はその暖かい陽気が少しだけ嫌だなって思った。

この温かさはまるでエイデンの様だといつも思っていた。けれど今は、彼の太陽のように爛々と輝く瞳を思い出してしまうから、憂鬱で仕方ない。

それと同時に、この温かさはアルの手の温もりも思い出させてくるから、更にしんどいと思ってしまう。

アルから昔話を聞いた時、信じたくないと思いながらも、横に腰かける彼から漂ってくる香りに、やっと再会できたと喜ぶ最低な自分がいることにも気がついていた。

僕は彼を探していたんだと、心の奥で何かが頭をもたげるのに、エイデンのことが好きなんだって別の自分が叫んでいる。

その板挟みにどうしたらいいのか分からなくて、ただひたすら頭の中はぐちゃぐちゃだった。

エイデンのことが好き。

はっきりとそう口に出せるのに、じゃあ、アルのことは?と聞かれるとどうしても曖昧な返答しか出来ない気がする。

なら、いっその事僕のことを好きだと言ってくれるアルと恋人になればいいと思ったりもするけれど、それは駄目だって自分に何度も言い聞かせた。

好きな人がいるのに自分が楽になれるからと他の人と付き合っても結局は上手くいかないって思うから。

「……エイデン……」

彼は僕のことをどう思ってるんだろう。

もしも、エイデンも僕のことを好きなら、僕は迷わずエイデンを選ぶのだろうか?

答えは出てこない。

いつまでも待つというアルの言葉は、逆に僕を焦らせる。

いつかは答えを出さないといけない。

でも、そのいつかが何時になるのか自分でもよく分からないんだ。

「……僕は最低だ」

本当にそう思う。

先生の無機質な声と太陽光を浴びながら、僕はなんだか消えてしまいたい気分になった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

白銀オメガに草原で愛を

phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。 己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。 「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」 「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」 キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。 無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。

N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ ※オメガバース設定をお借りしています。 ※素人作品です。温かな目でご覧ください。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

処理中です...