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本音
①
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セレーネの開花期が来てから2週間ほどが経って、やっと彼が落ち着いたとオリビアから報告があった。
その間に何度もエイデンにセレーネの様子を聞かれた。
セレーネのことを心配する彼は、セレーネのことを本気で大事にしているのが手に取るようにわかって、どうして好きなのに付き合ってやらないんだと、セレーネの気持ちを思うと歯痒くなる。
「オリビア、力を入れ過ぎだ」
「……むむ、どうして木剣はこんなに重いんだ」
「本物はもっと重いぞ」
今日はオリビアに頼まれて訓練所まで足を運んでいた。どうしても相手して欲しいと言われて断れなかったんだ。
男でも振り回すのが大変な練習用の木剣を必死に振り回すオリビアを見ていると本当に頑張り屋だと感心してしまう。
彼女が騎士になりたいと言い出した時、俺以外は皆反対していた。
確かに難しい職業だし、女の子にはきついかもしれない。
それでも彼女がやりたいと思うことをさせてやりたいと思ったんだ。オリビアもノアも俺の妹と弟みたいな存在だから。
「ほら、俺に打ち込んでみろ」
俺の言葉にオリビアが頷いて、思いっきり俺に向かって踏み込んできた。オリビアが振り下ろした木剣を俺は自分の持っていた木剣で受け止めると、いなしながら指摘をしてやる。
「へえ~、アルは武術の嗜みもあるんだね」
背後から聞こえてきた声に俺は咄嗟にオリビアに待ったを掛けてゆっくりと後ろを振り返った。
「エイデンか」
「やあ、今日セレーネが顔を出してくれたからやっと安心できたんだ。だから、それを報告したかったけどアルが何処にもいないから探してたんだよ」
「……ああ、それは良かった」
俺の素っ気ない返しにエイデンが眉を寄せる。
「ねえ、もし良ければ相手してくれる?」
「かまわない」
手合わせの誘いに頷くと、エイデンが手近にあった木剣を手に取ったから、オリビアに避けているように指示をする。
そうしたら、エイデンが俺の前に来て立ち止まると、木剣を構えた。
「セレーネからアルの部屋にずっと居たって聞いたんだ。初耳だったよ」
「言っていなかったからな」
「アルは何処にいたんだ?」
「俺は従兄弟の部屋に泊まっていた。そこにいるオリビアがセレーネの看病をしていたんだ。だから、心配はない」
「……ふーん」
エイデンは何か言いたげに相槌を打つと、思いっきり地面を蹴って俺に向かって剣を振りかぶった。
それを何とか受け止めると、押し返して間合いを取る。
「そんなに気にかけるなんて、やっぱりエイデンはセレーネのことが好きなんじゃないのか」
彼に向かって斬りかかりながらそう言えば、エイデンがそれを受け止めて鍔迫り合いになった。お互いが顔を付き合わせて睨み合う。
「好きだよ」
「……それは恋愛の意味だと受け取っても?」
「……ああ、構わない」
押し返して彼の腹に向かって剣を振ると、エイデンがそれを避けて俺の首目掛けて剣が突き出される。
それをギリギリの所で避けながら、何度も彼に剣を振り下ろした。
「どうして応えてやらないんだっ!」
エイデンさえ応えてやれば、セレーネは幸せになれるし俺だって諦めがつくのに……。
それなのに、エイデンはふって悲しげに微笑むと、地面に手を付いて俺の足を自身の足で薙ぎ払ってきた。
「セレーネは勘違いをしてるから、なっ!」
「っ、勘違い?」
避けようとして体勢を崩した俺にエイデンが駆けてきて容赦なく剣が迫ってくる。
俺はそれを無理な体勢のままいなすと、彼の懐に飛び込んで、体当たりをした。
バランスを崩したエイデンの剣を弾き飛ばし、尻餅を付いた彼の喉元に剣を突き付ける。
「……参ったよ」
お互いにハアハアと息を吐き出しながら見つめ合う。
「はぁ……勘違いって?」
エイデンから視線を外さずに尋ねればエイデンが小さく微笑んだのが分かった。
「……セレーネは俺を誰かと勘違いしてる。俺の母親は思い込みが激しい人でね、セレーネも似てるから分かるんだ」
「……でも、セレーネはエイデンが好きだって言ってるし、エイデンもセレーネのことが好きなんだろう?」
「それはそうだけどね。アルはさ、勘違いしたまま恋が叶って幸せだと思うかな?俺にはそうは思えない。ずっと昔出会った初恋の王子様を思い続けてるセレーネと付き合うなんて無理なんだよ」
エイデンの言っていることは分かるようで分からない。
セレーネはエイデンのことが好きだと言っていて、でも、それは初恋の人とエイデンを間違えてるだけ?
「……間違えてるって分かってるなら本人に伝えたらいいだろう」
「俺のこと初恋の相手だって信じきってるセレーネに、今更勘違いでしたなんて言えるわけないだろ。悲しむに決まってるし、それに、俺はセレーネが好きだから、勘違いだって分かってても好きだって言われてる今が幸せなんだ……俺って最低なやつだろ?」
そう言って自嘲気味に笑うエイデンに俺はなんと言ったらいいか思案した。
その間に何度もエイデンにセレーネの様子を聞かれた。
セレーネのことを心配する彼は、セレーネのことを本気で大事にしているのが手に取るようにわかって、どうして好きなのに付き合ってやらないんだと、セレーネの気持ちを思うと歯痒くなる。
「オリビア、力を入れ過ぎだ」
「……むむ、どうして木剣はこんなに重いんだ」
「本物はもっと重いぞ」
今日はオリビアに頼まれて訓練所まで足を運んでいた。どうしても相手して欲しいと言われて断れなかったんだ。
男でも振り回すのが大変な練習用の木剣を必死に振り回すオリビアを見ていると本当に頑張り屋だと感心してしまう。
彼女が騎士になりたいと言い出した時、俺以外は皆反対していた。
確かに難しい職業だし、女の子にはきついかもしれない。
それでも彼女がやりたいと思うことをさせてやりたいと思ったんだ。オリビアもノアも俺の妹と弟みたいな存在だから。
「ほら、俺に打ち込んでみろ」
俺の言葉にオリビアが頷いて、思いっきり俺に向かって踏み込んできた。オリビアが振り下ろした木剣を俺は自分の持っていた木剣で受け止めると、いなしながら指摘をしてやる。
「へえ~、アルは武術の嗜みもあるんだね」
背後から聞こえてきた声に俺は咄嗟にオリビアに待ったを掛けてゆっくりと後ろを振り返った。
「エイデンか」
「やあ、今日セレーネが顔を出してくれたからやっと安心できたんだ。だから、それを報告したかったけどアルが何処にもいないから探してたんだよ」
「……ああ、それは良かった」
俺の素っ気ない返しにエイデンが眉を寄せる。
「ねえ、もし良ければ相手してくれる?」
「かまわない」
手合わせの誘いに頷くと、エイデンが手近にあった木剣を手に取ったから、オリビアに避けているように指示をする。
そうしたら、エイデンが俺の前に来て立ち止まると、木剣を構えた。
「セレーネからアルの部屋にずっと居たって聞いたんだ。初耳だったよ」
「言っていなかったからな」
「アルは何処にいたんだ?」
「俺は従兄弟の部屋に泊まっていた。そこにいるオリビアがセレーネの看病をしていたんだ。だから、心配はない」
「……ふーん」
エイデンは何か言いたげに相槌を打つと、思いっきり地面を蹴って俺に向かって剣を振りかぶった。
それを何とか受け止めると、押し返して間合いを取る。
「そんなに気にかけるなんて、やっぱりエイデンはセレーネのことが好きなんじゃないのか」
彼に向かって斬りかかりながらそう言えば、エイデンがそれを受け止めて鍔迫り合いになった。お互いが顔を付き合わせて睨み合う。
「好きだよ」
「……それは恋愛の意味だと受け取っても?」
「……ああ、構わない」
押し返して彼の腹に向かって剣を振ると、エイデンがそれを避けて俺の首目掛けて剣が突き出される。
それをギリギリの所で避けながら、何度も彼に剣を振り下ろした。
「どうして応えてやらないんだっ!」
エイデンさえ応えてやれば、セレーネは幸せになれるし俺だって諦めがつくのに……。
それなのに、エイデンはふって悲しげに微笑むと、地面に手を付いて俺の足を自身の足で薙ぎ払ってきた。
「セレーネは勘違いをしてるから、なっ!」
「っ、勘違い?」
避けようとして体勢を崩した俺にエイデンが駆けてきて容赦なく剣が迫ってくる。
俺はそれを無理な体勢のままいなすと、彼の懐に飛び込んで、体当たりをした。
バランスを崩したエイデンの剣を弾き飛ばし、尻餅を付いた彼の喉元に剣を突き付ける。
「……参ったよ」
お互いにハアハアと息を吐き出しながら見つめ合う。
「はぁ……勘違いって?」
エイデンから視線を外さずに尋ねればエイデンが小さく微笑んだのが分かった。
「……セレーネは俺を誰かと勘違いしてる。俺の母親は思い込みが激しい人でね、セレーネも似てるから分かるんだ」
「……でも、セレーネはエイデンが好きだって言ってるし、エイデンもセレーネのことが好きなんだろう?」
「それはそうだけどね。アルはさ、勘違いしたまま恋が叶って幸せだと思うかな?俺にはそうは思えない。ずっと昔出会った初恋の王子様を思い続けてるセレーネと付き合うなんて無理なんだよ」
エイデンの言っていることは分かるようで分からない。
セレーネはエイデンのことが好きだと言っていて、でも、それは初恋の人とエイデンを間違えてるだけ?
「……間違えてるって分かってるなら本人に伝えたらいいだろう」
「俺のこと初恋の相手だって信じきってるセレーネに、今更勘違いでしたなんて言えるわけないだろ。悲しむに決まってるし、それに、俺はセレーネが好きだから、勘違いだって分かってても好きだって言われてる今が幸せなんだ……俺って最低なやつだろ?」
そう言って自嘲気味に笑うエイデンに俺はなんと言ったらいいか思案した。
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