上 下
16 / 62
駄目だよ

しおりを挟む
「……アル……」

リビングのソファーに腰かけてどうしようかと思案していると、セレーネが起きてきてふらふらと身体を揺らしながら俺に近づいてきた。

あと数分もすれば開花期が来るだろうことがはっきりと分かる程に強い香りに眉をしかめる。

好きな子の開花期を前にして自分の中の天人の血が彼と契りを交わせと囁きかけているように感じた。

「セレーネ部屋に戻るんだ」

「……やだっ、アルと一緒にいる……アルいい匂いするから。懐かしい匂い……」

意識が朦朧としているのか、そう言って熱に浮かされた潤んだ瞳で俺の事を見つめてくるセレーネから視線を外す。

「セレーネが行かないなら俺が部屋に居るから、少し寝ていた方がいい。あとで、エイデンを呼ぶから」

「……やだっ!」

「ちょっ、セレーネっ」

突然セレーネが俺に抱きついてきて、その瞬間ぶわりと部屋中にセレーネの花の香りが充満した。開花期が始まったことが分かって、同時にドクリと自身の胸の鼓動が早くなったように感じた。

つーっと一筋額から汗が零れる。

今すぐ彼を自分のモノにしたいと、そればかりが脳内を支配し始めて、俺に抱きついているセレーネに手を伸ばしかけてグッとその手で握り拳を作った。

耐えろ……。

「セレーネ離れるんだ」

「やだ……アル……っ、」

あろうことかセレーネが俺に口付けをしようとしてきて、俺は慌てて自分の手で彼の唇を覆ってそれを阻止した。

「……んん!」

もごもごと口を動かして、なんで?って目で訴えてくるセレーネに、駄目だよって言い聞かせる。

開花期でおかしくなった状態でこんなことしてもセレーネは後悔するだけだ。

「……俺はエイデンじゃない」

「……ん、知ってるよっ」

俺の手を引き剥がしたセレーネがそう言ってまた同じように顔を近づけてくるから、俺は仕方なく彼を拘束するとソファーに押し倒してその手に、自身の首に付けていたネクタイを巻き付けた。

抵抗して暴れ回るセレーネに、落ち着いてって何度も言い聞かせる。

その言葉はまるでセレーネではなくて自分に言い聞かせているようにも感じて、グッと歯を食いしばって、ソファーに横たわるセレーネから身体を離した。

俺を誘うように、全身にセレーネの香りがまとわりついてくる。

「アルっ、苦しいっ……助けてっ、」

「……もう少しだけ耐えて欲しい……」

生憎と花人用の薬は持ち合わせていない上に、あれは高価すぎてこの学園にも置いていない。

セレーネが持っていないかとも思ったけれど手ぶらな上に、あの様子だと開花期が来るのはもう少し先の予定だったのかもしれない。

「くそっ……なんで……」

どうして開花期が早まったんだ……。

「アルっ、アル!」

涙を流しながら何度も俺の名前を呼んでくるセレーネが見ていられなくて、我慢しろって自分に言い聞かせながらセレーネの頭をそっと撫でてあげる。

「……はぁ……アルが欲しいっ……」

「……駄目だ」

好きな子から求められているのに、俺はそれに応えてあげることができない。

「……アルっ」

「セレーネ、君が好きなのはエイデンだ。エイデンのことを思い浮かべて、少し寝た方がいい」

「……やだあっ、アル……」

嫌だと首を振るセレーネを見つめながら、どうしたらいいのか頭を悩ませた。

オリビアかノアが来てくれれば、あの2人はノーマルだから助けを呼べるが、生憎アイツらがここに来るのは決まって週末。

俺は微かに溜息を漏らすと、もう一度セレーネの髪を優しく撫でてやろうと手を伸ばした。

そうしたらセレーネが突然ソファーから身体を乗り出して、俺の上に覆い被さるようにソファーから落ちてきた。

「……っ」

痛みに呻きつつ衝撃で閉じていた目を開けると、目の前にセレーネの綺麗な顔が現れて不味いと思った時には、彼が俺の唇に自分の唇を合わせいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

それが運命というのなら

藤美りゅう
BL
元不良執着α×元不良プライド高いΩ 元不良同士のオメガバース。 『オメガは弱い』 そんな言葉を覆す為に、天音理月は自分を鍛え上げた。オメガの性は絶対だ、変わる事は決してない。ならば自身が強くなり、番など作らずとも生きていける事を自身で証明してみせる。番を解消され、自ら命を絶った叔父のようにはならない──そう理月は強く決心する。 それを証明するように、理月はオメガでありながら不良の吹き溜まりと言われる「行徳学園」のトップになる。そして理月にはライバル視している男がいた。バイクチーム「ケルベロス」のリーダーであるアルファの宝来将星だ。 昔からの決まりで、行徳学園とケルベロスは決して交わる事はなかったが、それでも理月は将星を意識していた。 そんなある日、相談事があると言う将星が突然自分の前に現れる。そして、将星を前にした理月の体に突然異変が起きる。今までなった事のないヒートが理月を襲ったのだ。理性を失いオメガの本能だけが理月を支配していき、将星に体を求める。 オメガは強くなれる、そう信じて鍛え上げてきた理月だったが、オメガのヒートを目の当たりにし、今まで培ってきたものは結局は何の役にも立たないのだと絶望する。将星に抱かれた理月だったが、将星に二度と関わらないでくれ、と懇願する。理月の左手首には、その時将星に噛まれた歯型がくっきりと残った。それ以来、理月が激しくヒートを起こす事はなかった。 そして三年の月日が流れ、理月と将星は偶然にも再会を果たす。しかし、将星の隣には既に美しい恋人がいた──。 アイコンの二人がモデルです。この二人で想像して読んでみて下さい! ※「仮の番」というオリジナルの設定が有ります。 ※運命と書いて『さだめ』と読みます。 ※pixivの「ビーボーイ創作BL大賞」応募作品になります。

オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない

潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。 いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。 そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。 一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。 たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。 アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

【完結】恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話

十海 碧
BL
桐生蓮、オメガ男性は桜華学園というオメガのみの中高一貫に通っていたので恋愛経験ゼロ。好きなのは男性なのだけど、周囲のオメガ美少女には勝てないのはわかってる。高校卒業して、漫画家になり自立しようと頑張っている。蓮の父、桐生柊里、ベータ男性はイケメン恋愛小説家として活躍している。母はいないが、何か理由があるらしい。蓮が20歳になったら母のことを教えてくれる約束になっている。 ある日、沢渡優斗というアルファ男性に出会い、お互い運命の番ということに気付く。しかし、優斗は既に伊集院美月という恋人がいた。美月はIQ200の天才で美人なアルファ女性、大手出版社である伊集社の跡取り娘。かなわない恋なのかとあきらめたが……ハッピーエンドになります。 失恋した美月も運命の番に出会って幸せになります。 蓮の母は誰なのか、20歳の誕生日に柊里が説明します。柊里の過去の話をします。 初めての小説です。オメガバース、運命の番が好きで作品を書きました。業界話は取材せず空想で書いておりますので、現実とは異なることが多いと思います。空想の世界の話と許して下さい。

記憶の欠片

藍白
BL
囚われたまま生きている。記憶の欠片が、夢か過去かわからない思いを運んでくるから、囚われてしまう。そんな啓介は、運命の番に出会う。 過去に縛られた自分を直視したくなくて目を背ける啓介だが、宗弥の想いが伝わるとき、忘れたい記憶の欠片が消えてく。希望が込められた記憶の欠片が生まれるのだから。 輪廻転生。オメガバース。 フジョッシーさん、夏の絵師様アンソロに書いたお話です。 kindleに掲載していた短編になります。今まで掲載していた本文は削除し、kindleに掲載していたものを掲載し直しました。 残酷・暴力・オメガバース描写あります。苦手な方は注意して下さい。 フジョさんの、夏の絵師さんアンソロで書いたお話です。 表紙は 紅さん@xdkzw48

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

運命なんて残酷なだけ

緋川真望
BL
「この人が本当に運命の番ならいいのに」 オメガである透はアルファの婚約者との結婚を間近に控えたある日、知らない男に襲われてむりやり番(つがい)にされてしまう。汚されたΩは家門の恥だと屋敷を追い出され、婚約も破棄され、透はその事件ですべてを失った。 三年後、母の葬儀にこっそり参加した透は参列者のひとりから強烈なアルファのフェロモンを感じ取る。番にされたオメガは番のフェロモンしか感じ取れないはず。透はその男こそ犯人だと思ってナイフで襲いかかるが、互いに発情してしまい激しく交わってしまう。 男は神崎慶という実業家で、自分は犯人ではないと透に訴える。疑いを消せない透に対して「俺が犯人を捕まえてやる。すべて成し遂げた暁には俺と結婚して欲しい」といきなりプロポーズするのだが……。 透の過去は悲惨ですが、慶がものすごいスパダリなのでそこまでつらい展開は無いはずです。 ちゃんとハッピーエンドになります。 (攻めが黒幕だったとかいう闇BLではありません)

【完結】運命の相手は報われない恋に恋してる

grotta
BL
オメガの僕には交際中の「運命の番」がいる。僕は彼に夢中だけど、彼は運命に逆らうようにいつも新しい恋を探している。 ◆ アルファの俺には愛してやまない「運命の番」がいる。ただ愛するだけでは不安で、彼の気持ちを確かめたくて、他の誰かに気があるふりをするのをやめられない。 【溺愛拗らせ攻め×自信がない平凡受け】 未熟で多感な時期に運命の番に出会ってしまった二人の歪んだ相思相愛の話。 久藤冬樹(21歳)…平凡なオメガ 神林豪(21歳)…絵に描いたようなアルファ(中身はメンヘラ) ※番外編も完結しました。ゼミの後輩が頑張るおまけのifルートとなります

処理中です...