ねえ、お姫様〜初恋の子を見つけたけど彼は別人が好きなようなので影からそっと見守りたい〜

似てない双子

③

こちらへと戻ってきたノアは卓上にドンッと手を付くと、驚いて固まっているセレーネを睨みつけて、あんた少し空気読めないの？って言い放った。

「え、僕何かしちゃったかな……」

困ったように眉を垂れさせるセレーネにノアが眉間のシワを深くする。

「アルはあんたの惚気話なんて聞きたくないと思うけど」

「え、えと……」

ノアの剣幕に押されてあたふたとするセレーネにノアが更になにか言おうと口を開く。

「そこまでだノア。俺はそんなこと思っていない」

けれど、俺が遮ったことでノアが唇を噛んで言葉を飲み込んだ。

「でも……」

「僕なら気にしてないからそんなに怒らないでっ」

俺に怒られて悲しそうな顔をするノアを見てセレーネが慌てて間に入ってくる。

周りの生徒が何事かと俺たちの様子を伺っていて、俺は眉間に手を当ててから、もう帰れってノアに言った。

「……うっ、アルなんか知らないからっ」

涙目でそう言い捨てて入口の方に駆けていくノアを見つめながら深い溜息を吐き出す。

多分、俺の気持ちを考えて言ってくれたことだとは分かっているけれど、ノアは中等部でセレーネよりも年下だし、セレーネは俺がセレーネのことを好きなことを知らないから、場を収める為にどうしてもノアを叱る形になってしまった。

後で謝っておこうと決めて、セレーネに視線を向けると、未だに困り顔をしている彼と目が合った。

「……僕、迷惑だったよね……気づかなくてごめんね」

「さっきも言ったけど、そんなこと思ってないよ」

「でも……僕、好きなことになると周りが見えなくなっちゃって時々暴走しちゃうことがあるんだよね……エイデンにも何回も注意されてて、それに……お母様とお父様にも……」

そう言って落ち込んだように肩を落とすセレーネに俺はクスリと笑を零した。

「なんで笑うの……」

「ふっ、落ち込んでるセレーネが可愛くて。笑ってごめん」

「へ？えっ……かわ？へ？」

「可愛い」

1度言ってしまうと思いは溢れてきて、凄く困惑した顔をしているセレーネが可愛くて可愛くて仕方ないと思ってしまう。

「そうだ、こうしないかい」

「……なーに？」

「セレーネは俺に好きなことや楽しかったこと、嬉しかったことを今まで通り話してくれてかまわない。その代わり、俺の話も聞いて欲しい」

「……アルの話？」

「そう、例えば俺の好きな子が凄く可愛いって事とか」

微笑みながらそう言えば、セレーネがぱああっと花が咲いたみたいに満面の笑みを浮かべて、聞きたい！って言ってくれた。

「僕もアルの好きな子の話沢山聞きたい！それで、いっぱいいっぱい応援してあげるんだ！ふふ、僕もアルもお互いにお互いのこと応援しあったらきっと楽しいね」

「そうだね」

俺の好きな人は君だよって言えたらいいけれど、そんなこと言えないから遠回しにでも想いを伝えられればいいって胸が痛むのを無視してそう自分に嘘をつく。

「アルは優しいね」

「……そんなことないよ」

俺が優しいのは君だからだ。

「ううん、優しいよっ。アルに好きになってもらえるなんてその子は幸せ者だね」

にぱにぱと無邪気にそんなことを言ってくるセレーネを見つめながら、そんなことないって心の中で思った。

セレーネを幸せに出来るのは俺じゃないって分かってるから。

だから、君がそうやって笑っているのを近くで見つめることくらいは許して欲しい。