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それでもいい……(セレーネ視点)

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時計を見ると、もう帰らないといけない時間になっていて僕はアルに帰るねって伝えると借りた本を腕に抱えた。

「エイデンは迎えに来ないのかい?」

いつもエイデンが僕のことを図書館まで迎えに来てくれるからアルがそう尋ねてきたけど、僕は首を横に振って今日は僕一人って答えた。

寂しいけど、頑張ってる彼の邪魔はできないし、僕は彼の恋人じゃないから。

「なら送っていくよ」

彼の形のいい唇から紡がれた言葉に僕はキョトンとしてしまう。

「仕事は?」

「流石に俺ももう帰るよ」

「そっか。なら一緒に帰ろっ」

にへって笑うと、彼も微かに口元を緩めた。

よく見れば鼻筋も通っていて整った顔をしている彼は、眼鏡を外して前髪を上げればきっと凄くかっこいいんじゃないかって思う。

片付けを終えて、鞄を肩にかけたアルと並んで図書館を出て廊下を進んでいく。

横を通り過ぎていく他の生徒達が僕とアルが並んでいるのを見て不思議そうにしているのが目に入ってくる。

僕はいつもエイデンと居るから周りから見たら変に見えるのかもしれない。

「アルは目が悪いの?」

「どうして?」

「眼鏡外したとこ見たことないから」

「うーん……まあ、そこそこかな」

答えを濁すように曖昧にそう言ったアルに僕は眼鏡外した所見てみたいってお願いしてみた。

隠されていると気になってしまってうずうずしてくるし、なんでだかその長い前髪と眼鏡で隠された素顔を見たいと思ってしまったんだ。

「見ても面白くないから」

「えー、気になる~」

アルとの距離を詰めて背の高いアルを下から見上げると、アルがサッと顔を逸らして、僕はそれに唇の先を尖らせた。

彼に近づくと、ふわっていい匂いがしてなんだかもっと近づきたくなる気がする。
それと同時にやっぱり彼の素顔がものすごく気になった。

眼鏡のレンズは特殊な加工がしてあるのかすりガラスみたいに彼の瞳を隠していて、彼がどんな色の目をしているのかも分からない。

後ろで1つに結ばれた彼の長い黒髪が窓から入ってくる風でふわりと揺れる。

「……ちょっと、離れて」

アルにそう言われて僕はハッとして彼から少しだけ距離を取る。

「ごめんねっ」

「……あ、いや……いいんだ」

微かに耳を赤くしながらアルがそう言ってきて、彼の匂いが甘く僕を包み込んだ気がした。

ドクリとお腹の奥が熱くなるような感覚がして、何故か感じる懐かしさに首を傾げる。

「暗くなってしまったし早く帰ろう」

「あ、うん」

アルがそう言って僕の手を取ってきて、僕は何故かその手を振り払うことが出来なくて、彼に連れられるまま帰り道を並んで進んで行った。
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