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それでもいい……(セレーネ視点)

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僕がまだ5歳の時にエーデルシュタイン公爵家のエレノア様の結婚式に招待されたことがあった。

幼かった僕は内容まではよく覚えていなかったけれど、その日迷子になって1人中庭で泣いていたことだけは覚えている。

そして、泣いている僕に寄り添ってずっと傍に居るよって言ってくれたかっこいい王子様の事も記憶に残っていた。

優しくて甘いいい香りに包まれて、安心できて。彼に抱きついてひたすら泣いたのを覚えている。

お母様が迎えに来てくれて直ぐにバイバイしないといけなくなったけれど、僕はあの日のことを忘れられずにずっと初恋を引きずっていた。

彼に会いたい。

そう思っていたとき、中等部から入った学園で彼と再会したんだ。

黒い髪に記憶よりも少しだけオレンジ味の強い太陽のような瞳を持つ彼。

僕はその日に彼に話しかけて、僕のことを覚えているかと尋ねた。

「ねえ!僕のこと覚えてる?」

「……えーと……ごめん、わかんないかな」

困った顔をした彼の反応を見て悲しくなったけれど、覚えていなくても自分さえ覚えていればあの日の出来事は無くなったりなんてしないって思って、その日から彼に毎日会いに行くようになった。

大好き。

大好きなエイデン。

僕の王子様。

彼と再開してずっと一緒に居るようになって、彼もそれを受け入れてくれて凄く嬉しかったけれど、彼と恋人になることは無かった。

僕は好きだって何度も伝えたけれど、エイデンは応えてはくれない。

恋人だって噂が流れるくらい一緒に居るのにどうして……?

「エイデン好きだよ」

「……懲りないね」

「だって好きだからっ。僕、エイデンと婚約したい」

「俺は騎士になりたいから今は恋愛とかいいかな……それに、セレーネは少し思い込みが激しいから」

「この気持ちが思い込みだって言いたいの?」

「そうじゃないけど……」

毎日こんな風な会話をして、僕が不機嫌になってエイデンがそれを慰めてくれる。

それが嬉しかった。

彼が少しでも僕のことを思ってくれることが幸せだと思う。

そうだ、今度騎士の本を借りに行こう。
それで、少しでもエイデンのことを知れたらきっともっと彼に近づけるから。

彼が忘れていても、それでもいいんだ。

次は僕が彼に寄り添えばいい。

エイデンの好きな物を知って、やりたいことを僕も学んで、エイデンの役に立てばきっと僕のこと好きになってもらえるはずだ。

そうなったらもっともっと幸せだと思う。

だから……僕を見て。
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